君は誰!? 揺れる二人の心【1】

「いや……だ。やめて……霜月さんっ」

「だーめ、やめない。だって君のここはこんなに喜んでるんだもの」


 夕は上唇を舐めると、壁に押し付けた真昼の股間に膝を挿入した。捕食者のような笑みを浮かべる少女を前に萎縮する真昼。精役の力か、はたまた素の腕力なのかは分からなかったが、掴まれた両手首を振りほどくことは出来なかった。


「ひゃっ!?」


 突然首を舐められ、声が喉から飛び出てしまう。シャワーから温水を流しているとはいえ、周りには人がいるのだ。ほんの少し間違えれば痴女の烙印を押されてしまう状況に、真昼の心臓は激しく反応した。


「ふふ、可愛い」

「やめて……やめてよ霜月さん。こんなところでこんなの、おかしいよ……」

「うんん、何もおかしくない。君はただ、私に身を委ねればいいの」


 夕のか細い指が濡れた真昼の頬を包む。

 優しく、それでいて焦らすように頬から顎へ。そして首を経由して鎖骨へと触れていく。

 押し付けがましい快楽よりも何をされるか分からない恐怖が包んでいく。楽しそうに撫で回す彼女とは違い、真昼は心も身体も心底怯えていた。


 怖い。でも身体が動かない。


 口だけが唯一いうことを聞く状態なのがやたらともどかしく感じた。


「やだっ。やめ、て! やだよっ!」


 精一杯の抵抗として声を張り上げる。だが、彼女はこれといって意に介さずにそっと彼の耳元へと顔を近付け囁いた。


「あんまり騒ぐと近くの人に気付かれるよ」

「そんなのボクは――ひゅあ!?」


 反論しようとしたところで唐突に耳をあまがみされる。瞬間、勝手に体が跳ねると同時に未知の快感が走った。


「良い声。本当に可愛いね君は」


 わざとらしく大きく唇を舐める仕草を見せる夕。小悪魔な表情を浮かべる様は真昼には本当の悪魔に見えた。


「……ぁ、っ、あ! しも、つきさんっ、目を覚まして!」

「私は正気だよ。だからもっと私に素敵な声を聞かせて」


 言って真昼の背中に手を回してくる。狙いは水着の紐なのは明らかだった。


「ボクっ、は、今女の子っ、なんだよ!」

「何を今更。私はそれが良いの」


 彼の論理をすぐさま一蹴すると、真昼の生命線へと手を伸ばした。

 もう何も言えなかった。そこを受け入れられてしまうと真昼にはもう放てる言葉が残っていない。彼がどんなに強く発言したとしても、彼女が愚行を止めてくれるとは到底思えなかった。

 どうしてこうなったのだろう。彼女のなすがままにされる状況に、真昼は今日という日を思い返した。

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