此の空を飲み干して、貴女を抱き締めたい
綺麗な空だな、と思った。
貴女に見せたいな、と思った。
その後で、苦しくて泣いた。
*
また、あの日の夢を見た。あの日も、夢だったはずなのに。閉じた目蓋の裏に、こびり付いて離れない。貴女の頸動脈の熱が私の手に伝染る感覚が。脳髄が焼き切れるような、穏やかで静かな貴女の笑顔が。
昨日の疲れが出て、寝すぎたかもしれない。卓上の時計には16:42と書いてあった。寝坊だと怒られそうだ。まぁ折角だしツイートだけして散歩しようと決めて、携帯を10秒いじって外に出た。
前を通る自転車のライトが薄ら点いていた。もう秋が近いらしい。ひやりと頬を撫でる風に肩を竦めつつ、覚束無い足を子鹿のように前へ進める。何となく、ぼんやりと。公園にでも行こうかと、考えるまでもなく浮かべながら。
昔から、茜色の差す公園が好きで、よく絵に描いていた。最近はもう、描かなくなってしまったけれど。お詫びも兼ねて、今日はそれを描こうかな、だとか。頭の中で喋っていたら、目的地には着いていた。
青も疎らなジャングルジム。高い背は太陽に抗わず影を落としていて、隣の砂が涼しそうにぱらぱらと舞っていた。自分以外の呼吸がないのをいい事に、天辺まで裸足で踏み入れる。足の裏は痺れるように冷えるけれど、此の時間にしか見えない、満開の空がよく見えた。
綺麗な空だな、と思った。端的で何の飾りっけもない、愚直な感想だった。だからこそ目の縁に、太陽を覗く光が見えたのを、無理に止めたくはなかった。貴女に見せたいな、と思った。その後で、苦しくて泣いた。あの日の、あの日までの貴女が、もう居ないのは知っているけれど。だからこそ、心の奥底から溢れ出る日常への感動を、貴女に伝えられないのが堪らなかった。
出逢わなければ、他人だったはずで。でも、出逢わなければ貴女はもしかしたら、存在すらしなかったかもしれなくて。私が居なければ、影も形も無かったのかもしれない貴女を、思い返せば返すほど喉の奥に熱が膨らんで。自分以外の呼吸がないのをいい事に、あの色を一身に受ける此の場所で、私は。貴女に、もう一度、もう一度会いたくて、泣いている。
*
綺麗な空だな、と思った
貴女に見せたいな、と思った
その後で、
いつかまた、同じ空を見て メルトア @Meltoa1210
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