誰ソ彼世界ニ夢ハ降ル



「……あー、あー。聞こえてる?……うん、大丈夫そうだね。じゃあ今日も始めていきましょうか。

初めましての方は初めまして、いつも来てくれてる方はありがとう。二十重蛍蘭です。

今日はタイムテーブルの通り、じゃなくて。……ちょっとね、うん。いや、別に大した話じゃないよ?ただちょっと、嫌な夢を見てね。共有したいなと思って。そしたらちょっと、楽になれるかなーって、……ううん、違うよ。そういうのじゃないけどね。

仲のいい子と一緒にお出かけして、映画見て、すっごく楽しかったの。私いつも通り配信してたから寝坊してさ、すっごいねむくて。めちゃくちゃリアルだったの。隣でその子が笑いながら喋ってくれるのもすごいリアルでね。たのしかった。

それでね、映画見終わって、外に出ようとしたらね、天井が崩れてきて。隣のその子に当たりそうになって、危ないって思って引っ張ろうとしたんだけど、だめでさ。しんじゃうって思ったら、すごいギリギリで当たらなくって。それで、スタッフの人も誘導してたから慌てて外に出て。そしたら空の色がすっごい暗くて、夏の昼3時なのにだよ。ものすっごい暗くって。それで、どうしようかって、いってね、

……うん、ごめんね、ちょっと……うん。えっとね。

それで、一旦迎えに来てもらって帰ろうかって、……言ったんだけどね。だけど、

その、すぐあとでね……隣の子と同じ顔の人が、出てきて。それで、……その子を消さなきゃ世界は壊れるー、って、言われてね。

……あは、そう、すごいでしょ。壮大。私が世界の主様だったんだって。ふふ、……でも、ね、

その子、けさないと、ほんとに壊れちゃうんだって、……思うぐらいには、リアルでさ。

ぜったい、たくさん、やりたいことあったんだよ。私よりずっと、これからで、いろんな可能性があって、ね。ね、それで、……でも、……その、

…………あーもう、ごめんね。ちょっと……まってね、……

うん、それでね。その子、……いいです、って、言ったの。けいらさんが、いきてて……くれるなら、それでいい、って、

……その子ね、私より嘘つくの下手でね。すごい分かりやすいの、無理して笑うんだよね。無理して、安心させようとおもって、困ったみたいにわらって、さ……ね、……

勝てるわけ、ないよね、だって私……わたし、まだ、……。ごめんね。その、

きたない大人で、ごめんね、って、言ったんだけど。やさしい子でね、ううんって、そんなことないって、いわれちゃって。

……ずっと、手に、のこってるんだよね。あの子の、首を絞めた、親指と手のひらに、ぜんぶ。あの体温がずっと、……ずっとのこってるの。

こわかった。すごく。くるしくて、……くるしくて。夢なら、いいのにって、思い続けて、

思ってたら、夢だったのに。夢だったのに、まだここにあるの。

……ごめんね、変な話、すごい変な話しちゃったね。そう、これを言いたかったの。夢の話だから、なんだろな、変な夢見てんだなって思って聞いててくれたらいいな。

じゃあ、今日もいつものやっていこっか。今日は昨日から続いて一枚絵描いていきます。よろしくね」







彼女は知っている。あれが夢では無いことを。

彼女は知っている。あれが自分であることを。


彼女は知らない。彼女が生きた証が、その手の温もりの他に、遺っていないことを。



夢は降る。爆ぜて消える星とともに。



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