本日も絶不調



 あの日のことが、累計二千万部を突破した頃。担当から連絡が入った。


 『そろそろ次のできてますか?締切一ヶ月後なのでがんばってくださいね』


 緑の四角アイコンはこの端末には記憶されていない。既読などというものが付かない古臭い機構システムなのをいいことに、二十五時間経った今も返事を迷っている。


 あの日から、どんなに喫茶店に入り浸っても良い感覚に巡り逢えない。甘ったるい塔尔特タルトを頼んでみても、濃くて優しい奶茶ミルクティを頼んでみても、言葉の神ヴァーチが私を訪うことはない。


 分かっている。理由も改善方法も。それを、実行しようとしないのは、私の塵にも満たない下らない自尊心プライドのせいだというのも。分かっては、いるのだけど。


 ちらり。腕時計を着け忘れた左手首の少し手前。一回り寸法サイズを間違えた、彼奴らしい贈り物。未だに捨てずに着けている辺り、単純なものだなぁと、自分でも思ったりする。


 微動バイブが手元に響く。噂をすれば何とやら、着信の主は彼奴らしい。さて。何度目で出ようかしら。子供のような悪戯心を確かに浮き上がらせて、私は小さく笑った。


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