HAPPY×HAPPY WORLD
*
どうして、こうなってしまったんだろう
*
電話を、掛けてみよう、と思って。
繋がらなかったら、もういいや、と思って。
それで、掛けてみた、そんな気がする。
『通話中』
そんなメッセージが出てきた。
誰と?
会社の人?嗚呼、あの人は仕事熱心だったから、そうかもしれない。
お義母さんお義父さん?嗚呼、あの人は家族思いだったから、そうかもしれない。
違う女の人?
嗚呼、
私が隣に居たことで、あの人の負担になっていたのなら。
そうかもしれない。
でも。
「いやだ、」
零れ落ちて、咄嗟に拾えなかった。飲み込めなくて自覚して、初めて自分が、こんなにもあの人に依存していたんだと、そう理解した。
止まらなかった。涙も嗚咽も、どうしようも無い空しさも。役割を果たさない揺籠は、私と同じ、ただそこに在るだけの能無しで。
「さとるさん……っ」
でも、愛して欲しかった。
気付いて欲しかったわけじゃない。優しい言葉を掛けて欲しかったわけじゃない。
ほんの少しでいいから、抱き締めて欲しかった。
当たり前に傍に居たあの人が、遠く居なくなってから。自分が、我儘しか言ってこなかった事を、ようやっと知った。
そうだ。我儘だった、何もかも。愛想を尽かされても仕方がない程に。
もう。きっと、届く事は、ないんだろうな。
ずっと、言えなかった一言を。
何度も何度も頭の中で反芻して。
貴方に伝えられなかった後悔を、整理出来ないままで。
決壊した感情を何処かに逃そうと、そう足掻いていた。
*
変なメールが私から届いた、だとか。そんな不思議な事を、智さんが言っていた、あれから少しが経って。
なんだか、胸元が妙に、寒い。時折、頭が痛みに突き落とされる。夏バテかな、と思っていたけれど、そんな感じじゃなくて。凄く違和感がある。
彗の定期検診の時に聞いてみた。産後で不安定なのだろうとお医者の先生は言っていた。そうなのかな、と思った。
彗はいつも通り、元気で可愛くて。何もかもが新鮮で、ずっと楽しい。
でも、時折。泣きたくなる程の痛みが私を、襲うと同時に、時折。彗が、居ない世界を、想像してしまう。
智さんが出て行って。その後、私に、妊娠が発覚する事が一度たりとも無くて。ただ只管に、私は一人で。ずっと、ずっと、一人で。
走馬灯。そう表せば、きっとぴったり当て嵌る。だけど、私には彗が居て、智さんが居て。こんなにも虚しい走馬灯を視る事は、無いはずで。
無いはずなのに。何故か私にはそれが、幻想だとは思えなくて。夢のような今の幸せが、それこそが夢なんだと、そう考えてしまうほどに。それが苦しい程、私に突き刺さって。
「ただいまー」
「!おかえりなさい、お疲れ様」
智さんの声でふと我に返った。大丈夫、私には2人がいる。あれはただの夢で、私は彗と智さんと、幸せに暮らしてる。
嗚呼、本当に、夢のように幸せな。
*
・・・ --- ・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます