HAPPY×HAPPY WORLD








どうして、こうなってしまったんだろう








電話を、掛けてみよう、と思って。

繋がらなかったら、もういいや、と思って。


それで、掛けてみた、そんな気がする。


『通話中』


そんなメッセージが出てきた。


誰と?


会社の人?嗚呼、あの人は仕事熱心だったから、そうかもしれない。


お義母さんお義父さん?嗚呼、あの人は家族思いだったから、そうかもしれない。



違う女の人?


嗚呼、



私が隣に居たことで、あの人の負担になっていたのなら。


そうかもしれない。



でも。



「いやだ、」



零れ落ちて、咄嗟に拾えなかった。飲み込めなくて自覚して、初めて自分が、こんなにもあの人に依存していたんだと、そう理解した。


止まらなかった。涙も嗚咽も、どうしようも無い空しさも。役割を果たさない揺籠は、私と同じ、ただそこに在るだけの能無しで。


「さとるさん……っ」


でも、愛して欲しかった。


気付いて欲しかったわけじゃない。優しい言葉を掛けて欲しかったわけじゃない。


ほんの少しでいいから、抱き締めて欲しかった。


当たり前に傍に居たあの人が、遠く居なくなってから。自分が、我儘しか言ってこなかった事を、ようやっと知った。


そうだ。我儘だった、何もかも。愛想を尽かされても仕方がない程に。


もう。きっと、届く事は、ないんだろうな。


ずっと、言えなかった一言を。

何度も何度も頭の中で反芻して。

貴方に伝えられなかった後悔を、整理出来ないままで。


決壊した感情を何処かに逃そうと、そう足掻いていた。







変なメールが私から届いた、だとか。そんな不思議な事を、智さんが言っていた、あれから少しが経って。


なんだか、胸元が妙に、寒い。時折、頭が痛みに突き落とされる。夏バテかな、と思っていたけれど、そんな感じじゃなくて。凄く違和感がある。


彗の定期検診の時に聞いてみた。産後で不安定なのだろうとお医者の先生は言っていた。そうなのかな、と思った。


彗はいつも通り、元気で可愛くて。何もかもが新鮮で、ずっと楽しい。


でも、時折。泣きたくなる程の痛みが私を、襲うと同時に、時折。彗が、居ない世界を、想像してしまう。


智さんが出て行って。その後、私に、妊娠が発覚する事が一度たりとも無くて。ただ只管に、私は一人で。ずっと、ずっと、一人で。


走馬灯。そう表せば、きっとぴったり当て嵌る。だけど、私には彗が居て、智さんが居て。こんなにも虚しい走馬灯を視る事は、無いはずで。


無いはずなのに。何故か私にはそれが、幻想だとは思えなくて。夢のような今の幸せが、それこそが夢なんだと、そう考えてしまうほどに。それが苦しい程、私に突き刺さって。



「ただいまー」

「!おかえりなさい、お疲れ様」


智さんの声でふと我に返った。大丈夫、私には2人がいる。あれはただの夢で、私は彗と智さんと、幸せに暮らしてる。


嗚呼、本当に、夢のように幸せな。

















・・・ --- ・・・

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