蜜琳檎
台本は一度読めば頭に入る。
私が私で無くなるその瞬間は、妙に心地良い。
「本番いきまーす!」
声が聞こえる。
彼女の服、彼女の化粧。
私が私で無くなる為に、全ては存在する。
「3, 2, 1, 」
火蓋を切るのは私じゃない。
彼女だ。
・
『全部……、嘘、だったの?』
彼女は涙を流す。ずっと堪えてきた意味を考えながら、彼女は眉を歪め、口角を歪め、思考を歪める。
『……なら、もう、いい』
彼女は裏切り者を見下ろして、軽蔑や憎悪や狂愛が溢れ返った笑顔を向けた。
裏切り者は懇願する。汚い顔で。
『すまなかった!!許してくれ、もう絶対にしないから!!命だけはっ……!!』
汚い。穢い。汚い。
彼女は彼女の皮を被った私に換わる。
『五月蝿い。声を出す事を私は許可してない。』
次第に裏切り者の顔が代わる。
いつか私を蔑んだ誰かの顔に。
『命乞いなんて要らない。そんなもの聞かない。』
名前も忘れた誰かの顔を力の限り踏み躙って、その汚い口に銃口を詰めた。
『!!っ〜〜、〜〜〜っっ!!』
黙れ。
お前は私の為にその汚い命を浄化させるんだ。
地獄で心の底から感謝しろ。咽び泣いて喜べ。
私は彼女に入り込んで、彼女のふりをして。
私の恨みを潰していく。
『さようなら。あの世で待ってて。』
手の内から吐き出された機械仕掛けの悲鳴が、耳を劈いた。
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