道標



自分が守らなければいけないと、そう思った





朝比奈沃葉は悩んでいた。生きていてこの上なく、わりと悩んでいた。理由は。


「プレゼントどうしよう……」


双子の兄への誕生日の贈り物である。


名前を和葉と言う、片割れは普遍の毎日を世界中飛び回って過ごしているがゆえに。家に帰ってくることは珍しい。何かを手渡すならこのタイミングしかないのだ。


がしかし。しかしどうして、贈るものはまぁ決まらない。こういうのって大概そうだよね、とため息を吐きつつ、楽しそうな雰囲気は拭わない。


なんだかんだ、いつも遠く離れていて気軽には話せない片割れが帰ってくるのだ、嬉しいのには変わりはないし。決まらなかったらおめでとうだけでもいいかな、なんて笑いつつ。


「早く来ないかな、誕生日」


その日を、沃葉はうんうん悩みながら待ち望んでいた。





其れは、突然に日常を奪い去った忘れ物





「……ねぇ、和葉」


知っている。貴方は是と言わない。


「生きていたい?」


片割れの応えは、分かりきっている。


「………聞き方を変えようか」


でも。それでも。


「───……私と、もっと、一緒にいたい?」


一縷の希望に、掛けていたかった。





○月×日 雨


またあの時の夢を見た

彼は私を、苦しげに睨んでいた

怯えた声でどうしてと

だってそうするしかなかった

私にとってお兄ちゃんはお兄ちゃんしかいない

彼は私の記憶の大切なお兄ちゃんじゃない

お兄ちゃんをころすなんて できない

ごめんなさい 私が悪いの

恨むなら私を恨んでください

どうかお兄ちゃんだけは恨まないでください

お兄ちゃんは私の、大切なお兄ちゃんなの

誰が何て言ってもお兄ちゃんなの

ごめんなさい

悪い妹を許してください


いっそ私が一緒に死ねば良かったのかもしれない

そうしたら 彼は寂しくなかったはずなのに

今更思いつくなんて馬鹿だなぁ

今になったらもう死にきれないや

馬鹿だ





「………お兄ちゃん」


隣で眠っている片割れを、秘かに呼んでみる。起きない。そりゃそうだ、起きないように呼んだのだから。夢見心地の中で要らない音として遮断されているだろう。


「私、生きてていいのかな。」


聞かれないのをいい事に沃葉は、悪い妹は。胸の内をさらけ出した。


「だって、ほんとのお兄ちゃんのこと、殺しちゃったのに」


本音。飾られることの無い、等身大の声。周りに見られるほど強くない、一妹としての言葉。


「私なんで、……なんで、泣いてるんだろう?」


もう、分からなくなってしまった。

貴方を想う心だけが、今の私の生きる糧だから。

だから、


「ねぇ、お願い、いなくならないで」


貴方までいなくなったら、道に迷ってしまうから


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