ページ5 屋敷は誰が建てたかによってその度合いが変わる

『やぁ、僕……久々に魔王の力を手にした気分はどうだい?』


意識を失ったヴァズールは精神世界とはいえ以前に訪れた事のある場所……学校と呼ばれる場所に来ていた。


「ど、どうして僕がもう一人いるんだ……?」


『ベータテスターだったのにそんな事を聞くの?僕は君だよ……君が僕であるように』


ヴァズールの目の前には彼と服装のみが違う少年が立っていた。


「一体ここはどこなんだ!どうして僕はここにいるんだ!」


『かつて君が力を得た際、こうして一時的にこの世界を訪れたはずだ。魔王に選ばれる者達は誰しも必ずこの世界を訪れる。をね……まぁ、僕が現れたのは君がこの世界にやって来たことによる反動的なものだよ』


もう一人の自分という少年は簡潔に自分の存在と今ヴァズールがいる世界についてを語った。


「ここから出る手段はあるんだよね……」


『入り口があったから君はここにいる……なら、出口も当然あるよ』


「なら今すぐ出たい……ティナが待ってるんだ。必ず戻るって約束したんだ……」


『いいけど、最後に一つ忠告しておくよ。君はいずれまたここに来る事になる……そしてその時はそう遠くないって事を』


少年がその場で消えた後、ヴァズールの意識もゆっくりと現実世界へと戻っていった。


「……様、ヴァズール様!」


「ティナ……そっか、僕はあの後気を失ってたんだっけ」


ティナはヴァズールを膝枕に乗せながらも、かなり心配していたと言わんばかりの目で見ていた。


「それで……何か有意義な収穫はありましたか?」


「うん、だいぶいい物を見つけれたから良かったよ……例えばこんなのとか」


ヴァズールが遺跡に向かって手をかざすと、その遺跡は童話などに登場しそうな屋敷になった。


「こっ、これって……」


「いちいち宿に泊まってたらせっかくのお金が消えちゃうでしょ?ならせめて、自分達の家を用意しなきゃって思ったんだ」


(本当は元々ここは僕の城で、その跡地を得たばかりの魔王の力で屋敷として再構築しただけなんだけど)


「つまり、これから私達はここで暮らすのですか?」


「うーん……それもいいなとは思ったんだけど、僕らってこの世界の事をあまりよく知らないじゃん?学校に行ってみようと思うんだけど……どうかな?」


ヴァズールからの急な問いかけに思わずティナは黙り込んでしまったが、しばらくしてこう答えた。


「ヴァズール様が通いたいのなら、私もお供したいです!」


「何言ってるのさ……ティナも行くんだよ?僕と同じ、学生って身分で!」


「わっ、私がヴァズール様と同じ立場だなんて……おこがましいにも程があるのでは?」


「僕はそういうの嫌いなんだよ……確かに王様とか姫様はそれなりに敬意は払うつもりだけど、学院で過ごす仲間はなるべく同じ立場で接したいし、ティナにもそうしてほしいなって思ったんだ」


ヴァズールはティナの顔を見て屈託の無い笑顔を見せた。


「ヴァズール様がそう言うのであれば……そうします」


その後二人は早速街の学問を専門に取り扱う詰所まで向かった。


「分かりました、この辺の学院となりますとスティア聖魔学院が一番近いですよ。入試は中等部からなので免除となりますが、高等部にそのまま進学となればまたここで試験手続きをしてもらわなければならない事を頭の中に入れておいてくださいね」


詰め所の受付人と話が付いたので、二人はそれぞれ入学にあたって記入しなければならない書類が入った封筒を受け取って、再び屋敷へ戻った。


「あの……ヴァズール様、失礼な事を聞くかもしれませんが……この屋敷に魔物はいますか?」


ティナが声を少し震わせながら質問してきたが、質問された側のヴァズールも別の意味で震え上がった。


そう、彼の使い魔たる存在……影豹族のシュンガが番人を務めている遺跡の一部を屋敷に変えたのだから運が悪いとティナとばったり対面なんて事が起きる危険性があったのだ。


「ティナに危害を加える魔物はいないから大丈夫だよぉ……」


ヴァズール……もとい蒼大は嘘を付くことが超絶下手で、無理に付こうものなら顔や体に現れる為、ティナにはすぐに分かってしまった。


「と、とりあえず中に入りましょうか……」


「そ、そうだね……外で立ち話よりも中で座ったほうがいいよね」


二人はそれぞれ屋敷の中へ行き、用意してあったソファーに腰掛けた。


しかしそのリビングに早速問題を起こしそうな存在がいた。


そう、真っ黒な毛並みの豹がそこにいたのだ。


「あ~……えーっと……これは……」


『何か問題でもあるのか、我が主よ』


(この状況を見てから言ってる!?どう考えても問題ありだよねこれ!)


ヴァズールは言葉を発した黒豹に焦っていると、いつの間にかティナはその黒豹を撫で回していた。


「うわぁ〜……もふもふしてますね。お名前とかってありますか?」


『名か……そこの主からシュンガと呼ばれているな』


(シュンガはなんか満更でもなさそうだしティナも全然警戒してないし……僕の心配のし過ぎだね)


『その封筒……やはり主やお嬢さんもあの学院に行かれるのですな?』


「まぁね……もちろん学生としても勉学に勤しむけど、一番は学院にある地下の大図書室だ。そこには多分ここ数百年の歴史が記されているはずだ。僕のいない間に何が起きたのか知りたくってね」


『ふむ、そうであったか……お嬢さんも楽しんでくるといい。まぁ、有事の時や暇な時に野良猫のフリをして会いに行ってやらんでもないが』


シュンガはヴァズールに対してドヤ顔のような表情を見せた。


「可能ならば毎日お願いします!その毛並みを撫でるだけで私の気力が満ちていくような気がするの」


『だそうだ……ヴァズール殿よ』


「止めてすらないよね僕!」


ヴァズールは少し調子に乗り出したシュンガを咎めながらもその後もティナやシュンガと楽しく話していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヴァーチャルロード·テイルズ よなが月 @T22nd

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ