ページ4 突然魔王の力を授かっても耐え切れないのは当然で
魔王……それは、名の通り魔を極めた者のことを指す言葉だ。そして、この世界では善悪双方存在し、善なる者は太古よりこの世界の均衡を聖騎士や神々と共に守り続けてきた。
悪しき魔王は滅ぼされ、世界は均衡を守っていた。
宿で一晩寝たヴァズールは自身が引き取った少女ティナと共に宿泊代を払うと、外へ出て酒場へと向かった。
「あのっ……ヴァズール……様」
「ん、どうしたのティナ?」
「昨晩は大変お恥ずかしいところをお見せして……すいませんでした!」
ティナは大泣きしてしまった事を謝罪した。
「謝る事じゃないよ……そうだ、この後近くの遺跡に行ってみよう!僕個人としても少し気になる事があるんだ……どうかな?」
「ヴァズール様が行きたいというのであれば私は拒否しません」
「じゃあまずは朝食を取ろう!」
ヴァズールはメニューを見て、チーズグラタンを2つ頼み、到着までの間に手帳に何かを書いていた。
「何をお書きになっているんですか?もしかして私を殺める為の手立てを?」
「違う違う違う!僕はこれでも一応異界から飛ばされてきたからさ……今自分の目で見て分かったことを忘れないうちに書き留めておこうって思ってさ」
「そうでしたか……でも意外です。ヴァズール様がチーズ料理を好んでいたなんて」
「元いた世界ではほぼ日常的に食べてたからね……三食何処かに必ず加えてたんだ」
ヴァズールは元いた世界の事を思い出してクスッと笑った。
「本当にヴァズール様は変なお方ですね。あ、注文していた料理が来ましたよ」
「そっか……じゃあ冷めないうちに食べようか」
「……はいっ!」
(やっぱりここはもう……僕の知ってるあの世界では無いんだね。CPUにしては人間と大差無いから余計にそう思えてくる。この世界の事をもう少し知る為にもあの遺跡に足を運んでおきたいな……)
「ヴァズール様、またお顔が難しくなってますよ?」
「えっ、あぁ……ごめんね。昔からついつい無駄に考え込んじゃうくせがあってさ」
「遺跡が気になるんですね……やっぱり」
(そうだった……ティナはエルフだから僕の考えてる事なんか簡単に見抜けるんだ。況してここまで距離を縮めたんだ……分からない訳無いよね)
食事を済ませた二人は、スティアの街から見て東にある〈
「うーん……ティナ、服屋に行こうか。流石にその服装で街中を歩くとなるとそろそろ周りの目線が痛く感じてくるから……」
「確かに……この服装ではヴァズール様を困らせてしまいますね……」
双方の合意の元、二人は寄り道がてら服屋に寄った。
「らっしゃいま……わぁぁっ、なんて可愛い子なのぉ!ねぇねぇお兄さん、ちょぉっとこの子お借りしてもいい?代金無しにしてあげるから!」
(うん、物凄く嫌な予感がする……たいがいこういう人に女の子を引き渡すとろくな事がない。僕の本能が確かにそう叫んでるよ!)
店員の獣人族の少女はティナを足早に店の奥へと連れていき、あんな服やこんな服を片っ端から着せていった。
その中には胸が少々見えているものや極端に布面積が少ないものなど、明らかに街に連れ出せないような格好のものも紛れていた。
「こんな華奢な体してる子久々に見たからねぇ……お兄さんも、こんな可愛い子がこんな服を着てたら襲いたくなっちゃいますよね?」
現在ティナが着せられたのは獣人族の伝統的な服で、胸と腰部くらいしか布がないものだった。
「あのっ……見ないで……ください」
「見てないから!えぇっと……店員さん、もう少しまともなものは無いんですか!?」
ヴァズール達二人はお互い顔を赤らめながら店員に違う服を要求した。
「あはは……ごめんごめん、こんな服なんてどうかな?」
店員が用意したのは白と黒のメイド服のようなものだった。それを見た途端、ティナの目がキラキラと輝いていた。
「これ……可愛いです。あの……これはダメですか、ヴァズール様……」
店員からその服を受け取って試着したティナはヴァズールを子犬のような目でじっと見つめてきた。
「ぐっ……うぅっ……なぁぁあっ!ふぅ……何円しますか、これ?」
「あれ、言わなかった?代金はいらないよ!だってこの子も喜んでるし、何よりお兄さんが一番いい反応してたし!ほらほら持ってけドロボー!」
―その後、遺跡前
「ここが遺跡……僕はこの奥の書庫に用がある!だから、ティナはここで待っててくれ!」
「はい、分かりました……お気を付けて」
「すぐに戻るよ……」
ヴァズールはティナに一言告げて遺跡の中へと駆け出していった。
(ベータテスト時代、僕が魔王としての地位を得たのはこの場所の書庫室……その奥だ!僕はそこで確かに力を得た……だからこそあの場所でもう一度力を得ることができれば……ティナの左胸に刻まれている紋章を消し飛ばすこともできるはずだ!)
ヴァズールは脳内に浮かべたマップに沿って真っ直ぐ書庫室を目指して走った。
しばらく走り続け、ヴァズールが書庫室へ辿り着くとそこには黒豹のような魔物が立っていた。
『ヴァズール殿よ、帰還をお待ちしておりましたぞ……して、その姿は一体どうしたのだ?』
「シュンガ……今朝ここに来るように言ったのは君だったんだね」
『その通りだ……あの大戦後より行方を眩ませていた故、我はずっと待っておったのだぞ?さぁ、こちらへ進みもう一度王の力の一端を受け取ってくださいませ』
ヴァズールはシュンガからの指示に従って奥へと進み、かつて自分が王の力の一端を受け取った時のように祭壇の前の魔法陣に立った。
すると、彼の生命反応を感じた事で魔法陣が起動し、青色に光り輝くと祭壇から藍色の鳥が出現してしばらく旋回し始めた。
『よくぞここまで戻ったものだな……魔なる者としての覚悟はできているのか?』
「最初からそのつもりでこの世界に来たつもりだよ……僕は元々この世界で魔王だったんだ」
『そうか……ならば、力を与えよう。だが、以前与えたものと同一とは限らんぞ?』
「それでもいい……だから、もう一度僕に力をくれ!」
『相変わらず面白い男だな……耐えてみせよ、そして力に勝ってみせよ!』
藍色の鳥がヴァズールの体内に勢いよく入り込むと、彼は右目を抑えて苦しみだした。
(僕がこの世界で魔王になったのは……心身共に強くありたいと願ったからだ!こんな程度の痛みなんか……怖く無いっ!)
「ぐぅぅっ……おおおおおおおっ!」
ヴァズールからの魔力反発があったのか、魔法陣は砕け散り、当の本人もその場に倒れてしまった。
『……流石だな、我が主よ。だが、完全な魔王になれなかったのは解せんな……さて、外にいる新たな従者の元へ送り届けるとするか』
シュンガは転移魔法を発動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます