レトロな魔王は愚か者
yama みそかす
第1話 魔王
魔王は愚か者だった。
なぜ、愚かだったのか、それは魔王が
魔王らしくなかったからだった。
そうだ。これから神話になった魔王の話をしよう。愚かな魔王の話。
「そうだ。明日の暮れ方だ。その時はよろしく。」
アルドはそう言って通信を切った。
◆◆◆
「動くな!!」
脅しでもなんでもない。アルドは1人の少女の回収を頼まれていたのだ。彼女の名前は三崎千尋。アルドは彼女を連れて暮れ方、境界へ戻る約束だった。
「黙ってついて来い。」
「ちょっと待って、私、、」
「しっ、静かに!」
アルドは千尋にナイフを突き立てたまま周囲をキョロキョロと見渡した。
「隠れてろ。」
そう言うとアルドは紺色のフード付きマントを千尋に被せた。
その瞬間、千尋の前に何かの影が突然現れた。それはこの世の生態系ではなかった。1メートルくらいの背丈で、紫色の大きな魔物は千尋を見下ろすと、彼女の腕を掴んだ。
「いやぁ〜!!」
千尋は襲われると確信した。目をつぶった。しかしながら彼女は一切の痛みも感じなかった。
恐る恐る目を開けると、地面には紫色色の液体が飛び散っていた。血のように見えた。
「すまない」
アルドはそう一言だけ千尋に告げると千尋の腕を掴んで路地裏に向かって駆け出した。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!!」
千尋は掴まれている腕からアルドの手を引っ張り剥がすと言った。
「さっきの変なやつから助けてもらったのは感謝してる。でも、なんで私を連れて行くの?」
「…その、あなた誘拐犯には見えないし…」
アルドは少しポカンとしていた。
「わ、私をどっかに連れていくんでしょ?だったらなんのため?」
アルドはやっと理解したらしく千尋にこう言った。
「おまえの15歳の誕生日、魔王が覚醒する。おまえの魂の中にいる魔王だ」
なにがなんだかさっぱりわからなかった。
「へ?」
千尋に構わずアルドは話をし続けた。
「おまえの誕生日に魔王をおまえの魂から切り離す儀式を行う。」
「なにそれ…」
千尋はしばらく下を向いていた。
「それって…」
「おい、大丈夫か?」
アルドは心配そうに声をかけた。そのとき、
「それって、も、もしかして異世界生活ってやつ?!」
千尋は期待の眼差しをアルドに向けた。アルドは呆れたように言った。
「おまえが望むような異世界生活ではないと思うが…」
「ほんとなの〜?!」
「まあ…」
千尋のあまりの驚きようにアルドはちょっと苦笑いをしていた。
「それと、これからいくのはどこ?」
「境界だ。」
「境界?」
「人間がいる下界と天界の間だ。
境界は天界から追放された魔王が創り出した世界なんだ。もう20年も前の出来事だ。このことについて話すのは久しぶりだな。」
「そう、」
千尋は複雑な理由にびっくりしていた。
「それで、これからおまえの魂と肉体を切り離す。」
「は?」
さっきまで異世界生活を夢見ていた千尋だったが、突然無茶なことを言われ
現実に引き戻された。
「ど、どうやってやるの?」
恐る恐る千尋は聞いた。
(そうよ。元々この人は怪しい人よ。おかしい。)
アルドは答えた。
「この魔剣でおまえのすねを思いっきりつく。そうすれば魂と肉体を離せる。」
千尋は現実見のない言葉に耳を疑った。
「わ、わかった。やってみる。そのかわりこれでもし、魂と肉体を離せなかったら私はあなたについて行くことをやめるわ。」
「かまわない。ただ絶対に失敗することは無い。」
千尋は魔剣を振り上げた。
(こんなのただのでたらめよ…)
すねに痛みを感じた。
「痛たた…」
千尋はアルドを見上げると言った。
「ほら、痛みも感じるし、体だってこのとおり、よ、あなたの負…
「体ならおまえの後ろにいる。」
アルドの鋭い声が聞こえた。千尋が後ろを振り向くとそこには横たわった自分の体があった。
「ぎゃああー‼︎」
千尋の声が路地裏全体に響いた。
「どうだ。これで証明ができた。」
千尋は頭を下げて言った。
「す、すみませんでした…」
「俺の名はアルド・ヴェラトーン。よろしく、チヒロ。」
「よろしくアルド。」
ここはまだアルドにとって、スタート地点の手前だった。この時、アルドは大きな荷物を背負ってしまったのだ。
「そうだ。さっきチヒロは異世界生活してみたいなどと言うことを言っていたな。」
「うん。昔からアニメのヒロインに憧れてたよ。」
「そうか…だが、境界は下界のようには上手くはいかない。チヒロにはみんなを引き寄せる力がある。それが後々自分を苦しめるかもしれない。」
千尋は決心した。これから境界で生きていくことを。全ての運命を託すことを。
「わかった。がんばるよ、私。」
レトロな魔王は愚か者 yama みそかす @yama_misokasu
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