イラストレーターを目指して!

@kagura_sizuku

第1話

10年前、僕はある一つの絵に心を奪われた。僕がその絵を見たのは美術館だとか誰かの個展だとかではない。僕の心を奪ったのは、どこにでもあるようなライトノベルの一ページに書いてある絵だった。

 夕暮れの学校。既に日も落ち始め、部活などで学校に残っている生徒もまばらになってくるよな時刻に僕、井川優斗はある教室の一角で絵を描いていた。そこにいるのは僕、そして一人の女子生徒。本原玲奈だけだった。と言っても、これはいつも通りの光景だ。僕たちが今いるのは美術部の教室。美術部には部員が十五人ほどいるがそのほとんどが幽霊部である。まともに部活に来てる者というと僕と本原くらいのものだ。

 「最終下校時刻十分前です。まだ帰宅していない生徒はあと十分いないに下校すること」

 そんな放送が流れ時計を確認すると、時計の針は六時五十分を指していた。

 「井川君、そろそろ帰ろっか」

 「ああ、そうだね本原さん」

 「鍵を職員室に返してくるから、校門の前で少し待っててくれる?」

 「わかった。」

 僕と本原さんは帰る方向が途中まで同じということもあり、二人で部活を終えた後一緒に帰るのが最近では日課になっていた。

 校門に着いて三分ほど待っていると本原さんがやってきた。

 「ごめん、待った?」

 「いや全然大丈夫だよ」

 「良かった~。じゃあ帰ろうか」

 僕たち二人は最寄り駅に向かって歩き始めた。

 「井川君、今度の新人賞の作品どのくらい進んだ?」

 「まだまだ全然進んでない。なかなか納得のいく絵が描けなくて……。本原さんのほうはどうなの?」

 「私も井川君と一緒だよ。何枚か描いてはいるんだけど、納得のいく絵は一つもなくて……」

  僕たちは今とある文庫のイラスト大賞に応募するための絵を描いていた。イラスト大賞は小説などの〇〇大賞みたいなものと比べると応募総数も少なく、受賞しやすいと言えばしやすいのだが、当然実力がなければ受賞はできず、僕たちは今のところ、二人合わせて十連敗中だった。

 その後、電車に乗り他愛もない話をしているうちにいつの間にか僕たちがいつも別れる駅に着いていた。

 「じゃあ井川君、また明日ね!お互い頑張ろう!」

 ほどなくして電車の扉が閉じ、木原さんは駅の中へと消えていった。

 「お兄ちゃん、お帰り~」

 家に着くやいなや僕はそんな少し気の抜けたような声に出迎えられた。

 「ただいま、凪紗」

 「お兄ちゃん、今日も部活だったの?」

 凪紗は何故か少しニヤニヤしながら尋ねてきた。

 「そうだよ。」

 「じゃあ、玲奈さんも一緒だったんだ。お熱いね~」

 ニヤニヤしていた理由はこれかと僕はため息を漏らす。

 「だから、何度も言ってるだろ。木原さんとはそういうのじゃないって」

 「はいはい、そういうことにしといた挙げるよ。あ、そういえばお母さんがご飯作っといたから、勝手に食べといてだって」

 「わかったよ」

 「面倒くさがらずにちゃんと食べてよ。お母さん心配してたんだから」

 正直、ご飯食べなくてもいいかと思っていた僕は、釘を刺された形なり、ご飯を食べることになったのだった。

 ご飯を十分程度で食べ終え、お風呂に入り、僕が自室に入ったころには時計の針は八時を示していた。イラスト大賞の締め切りが近いということもあり、僕はエナジードリンクを飲んで気合を入れ作品作りに臨んだ。その後僕は六時間ほど絵を描き続けた。

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