告白
あかねは外へ出られないようだった。彼女自身、出たいとも思っていないのだろう。
一日中部屋で過ごす。それが毎日、毎日。
亡き佐久間との思い出に囲まれることは、辛くないのだろうか。
佐久間はあかねと、実の姉妹のような親密さでもって生活していた。亡くなったときのあかねのショックは壮絶で、自らを死に至らしめるほどだった。
あかねは佐久間を愛していたのだろう。誰よりも何よりも大切な存在だったはずだ。そんな彼女が、今は私が一番だと言ってくれる。
それは嬉しいことだが、同時に苦しくもあった。
私の好意は恋愛としてのものではないらしいとわかってしまったからだ。私にはあかねの好意と同義の好意を返すことはできない。
あかねの口から「好き」という言葉が飛び出す度に、申し訳ないような悲しいような気持ちになった。
私はあかねに何も返してあげられないのだろうか。
「何か考え事してるでしょ」
急に問いかけてくるあかねの声に頷く。
スマホの画面をぼーっと眺めていた私の向かいに彼女は腰を下ろした。
「ごめんね」
すまなそうな彼女の声に、私は疑問を抱いた。
「何で謝るの」
だって、と彼女は続ける。
「私が生きて欲しいなんてわがまま言っちゃったから、悩んだりしてるのかなって。迷惑なことをしたなと思って」
そして、再度頭を下げた。
私は少しの沈黙の後、ゆっくりとその考えを否定した。
「違う。それは違うよあかねちゃん。私はあそこで死んでもよかったけど、本当は死ななくてもよかったんだよ。どっちでもよかったの。でもどっちかに偏るためには、理由が欲しかった。死ぬには死ぬ理由が。生きるには、生きる理由が。あかねちゃんは生きる方の理由を与えてくれた。生きる方に偏らせてくれた。迷惑なことじゃない。わがままでもない。本当に死にたかったら、あかねちゃんの言うことなんて最初から聞いてないよ」
喋るのに疲れて、一呼吸置いた。あかねはまっすぐこちらを見つめている。
「あかねちゃんは、私が生きる意味そのものなんだよ。必要としてくれる人がいるのなら、その需要を信じる。あかねちゃんは初めて私を必要としてくれた存在。だから私は信じてるし、あかねちゃんのために生きるって決めた」
そこまで、きっぱりと言い切った。あかねはただこちらを見据えて、どこまでも私の言葉を聞いている。
でもね、と心苦しい事実を打ち明ける。
「私とあかねちゃんの好きは、同じじゃないの。気付いているよね……。同じ気持ちで好きと言えないのを悲しく感じる。それに、あかねちゃんは私にたくさんくれたけど、私は何も返せていないでしょ。それがとても不甲斐ない」
胸のうちを全て打ち明け終えると、ごめんねごめんねという言葉が繰り返し口から溢れた。何が悲しいのかもよく分からないままにぼとぼと涙を溢した。
下を向いて顔を手で覆ったせいで、あかねの表情は見えなかった。
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