幽霊の女の子のために生きることにした。

 ぎぢぎちぎぢ……。

 嫌な音がした。

 尻餅をついた。衝撃が伝わる。

 呆然。

 ……。…………。

 死ねなかった……?

 死ねなかった……。死ねなかった!!

 最悪だ。どうして!

苛立つ。

涙が出てきた。

 不意に、首に掛かっていたままだったわっかが視界の下から上に移動し外された。

私は手を動かしていない。どういうことだ。

 横を見る。

 制服姿の女の子が立っていた。不安げに、こちらを見下ろしている。その手には、先ほどまで私の首に掛かっていた、あまりに不細工なわっか。私はびっくりして悲鳴をあげそうになった。

「お、驚かないで…ください」

 その子はそう言ってかがんだ。

 私の目線と彼女の目線が同じくらいの高さになった。よく見なくとも、整った顔立ちをしていた。

 誰?どこから入ってきたの?いつからいたの?いつから見てたの?何してるの?

疑問が浮かびすぎて混乱している。何か言おうとして口を開いたのに、言いたいことが定まらずにぱくぱくさせただけだった。

 対面した彼女もまた、何から言ったら良いかわからないというように沈黙していた。

「一つずつ、話すね。驚かないで聞いて欲しいです」

 落ち着いた声で、話し始めた。

「私は幽霊です。多分。お姉さんがこの部屋に住む前からいました。あなたのこと、ずっと見てた」

 彼女の話す内容は丁寧語の場合と、そうでない場合とが混ざっていた。

 上目遣いでちらりとこちらを伺って、とても言いにくそうに告げた。

「縄が切れちゃったのは、私の所為せいです」

 さーっと血の気が引いていく。自然に切れたのではなかったのか。

「何でそんなことしたの」

 余計なことしないでよ、と怒りが湧いた。

次の言葉を紡ごうとして口を開いた。幽霊の方が一拍早かった。

「私、あなたが好きだよ。だから生きて欲しかった」

 よく通る声が鼓膜を震わせた。真っ直ぐな瞳が私を捕らえていた。身動き一つ、許されないような気がした。

「生きて欲しい」

 彼女はもう一度、言った。

 さようならをし損ねて私のとなりにいた相棒が、へんてこりんな眼をぱちくりさせながら小さくなって小さくなって、米粒くらいの大きさになった。ぐぎゃぁと一声鳴いた。

 初めて言われた言葉に、戸惑いを隠しきれない。え、え?と自分でもよくわからない声を出していると、幽霊はまた話し始めた。

「あなたがいつも死にたがっていたことはもちろん知っていた。全部見てたから。死にたい気持ちよくわかるし、本当ならあなたの行動を尊重したかったけど……。あなたが本当にいなくなっちゃうと思うと、死んじゃ駄目!って叫んでた。そしたらそれが合図だったみたいに、縄が切れちゃったんだ」

 ごめんなさい、と彼女は頭を垂れた。

 しゅんとしている彼女を見て、怒りが完全に消えた。

「私の我が儘で生かしてしまってごめんね。私のために、生きてくれますか?」

 またも不安そうにこちらを伺う彼女の言葉に、私は頷いてしまった。

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