出逢い

ヒャクという女の子を抱き上げて笑顔を見せるヒアカを僕が見詰めてると、クレイが、


「この子は、ヒャク。私達の娘なんだ。ちなみに<ヒャクリ亭>は、ヒャクが生まれたのを契機に名前を変えたんだ。以前は<ヒャッカ亭>って名前だったんだけどね。当然、ヒアカが生まれた時に付けられた名前だ」


僕に説明してくれた。するとヒアカも僕の方に向き直り、


「うちの宿は、曾祖父さんが、祖父さんが生まれた時に始めた宿でよ。代々、夫婦に最初の子供ができるとその子にちなんだ名前に変えてきたんだ。で、今はヒャクの名にちなんで<ヒャクリ亭>。商売としちゃああんまり褒められた出来じゃないが、家族が食ってく程度にゃやれてるし、不満はねえぜ」


と、僕が訊いてもいないのに語ってきた。


「へえ」


僕も、取り敢えず調子を合わせておく。別にケチをつける必要もないからね。


そんな中で、ヒャクも、僕を見て、


「お客さん? いらっしゃい! ヒャクリ亭へようこそ!」


両親そっくりの人懐っこい笑みを浮かべながら、歓迎の意を示してくれる。


だから僕も、


「はい、よろしくお願いします」


子供相手に仏頂面も大人げないと思ったから、笑顔で返させてもらった。


これが僕とヒャクとの出逢いだったな。




<ヒャクリ亭>は、ヒアカの両親が実質切り盛りしている宿だった。


ヒアカとクレイが共に自身番として街を守っているからね。


「俺の両親、ヒハルとカアリだ。二人も昔は自身番でよ。で、今は身を引いて宿に専心してんだ。俺とクレイも、歳取って今ほど動けなくなりゃ、同じようにってこったな」


<飯屋>を兼ねた広間で食事をとりつつ、ヒアカはいろいろと語ってくれる。


その間、ヒャクは、甲斐甲斐しく、僕の膳を運んでくれたり、茶を注いでくれたりした。


こうして子供まで働かないといけないというのは思うところもないわけじゃないけど、今の人間達の力じゃ、まだまだ子供の力にも頼らなくちゃいけないということだろうし、そこまで口は出さない。


それに、ヒャクも楽しそうに働いている。嫌々働かされてるわけじゃないのが分かる。それはつまり、幼いヒャクにとっても、『力になりたい』と思わせる両親や祖父母だということだろうな。


いいことだと思う。


親との関係が悪ければ、子供だって積極的に力になりたいと思わないだろう。だから嫌々働かされることになる。嫌々働かされている子供は、こんな表情はしない。


そしてヒアカもクレイも、ヒアカの両親のヒハルとカアリも、いい表情をしてる。


それは、僕にとっても心地好い光景だった。こういうところだけを見ていれば、人間も悪いものじゃないって気がしてくる。


このままでいってほしいものだと、この感じでいってくれれば僕も穏やかに過ごせるのになと、思ったのだった。


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