歓待
その後、ヒャクリ亭で歓待を受けた僕は、ヒアカやクレイと酒を酌み交わしながら様々な話を聞かされた。
ヒアカは子供の頃は泣き虫で、よくいじめられてたけど、クレイの両親が
「クレイは俺が守る!!」
と一念発起。鍛錬に励み、今では彼に勝てるのは百人に一人だと言われるくらいにまでなったとか、
家族を亡くしてヒアカの家に引き取られたクレイのことを大事にしすぎて成人しても手を出してこなかったから逆にクレイの方から押し倒したとか、
正直、僕にとってはどうでもいい話ばかりだったとはいえ、仲のいい二人の様子を見てる分には悪い気はしなかった。
そしてヒャクは、仕事の時間が終わっても座敷で眠ってしまっただけだった。両親の傍にいたかったんだろうな。
夜も更けてヒアカが酔いつぶれて寝てしまうと、
「リシアコさん、強いんだね」
ヒアカよりは抑えて飲んでいたクレイが、彼に上掛けを掛けながら言った。
<リシアコ>というのは、僕が適当に名乗った名だ。人間達は<名>がないと不便らしいからね。
「そうですね。じゃあ、おやすみなさい」
僕はそう返して、与えられた部屋で休んだ。休む必要はないんだけど、人間に倣って寝床に体を横たえる。
不思議な心地好さ。作った人間の体がそれを欲したのか、すっと眠りに落ちてしまう。
安らいでいるからこんな風に穏やかに眠れるんだろうな。
そして翌朝、空が白み始めた頃には僕は目を覚まし、宿を後にした。
「もっとゆっくりしていって下さってもいいんですよ」
ヒアカの母親のカアリはすでに起きて掃除を始めていて、僕にそう声を掛けてきた。でも、さすがにもうここにいる意味もないから、
「ありがとうございます。でももう帰らなきゃ」
と返した時、
「また来てね!」
朝が早いから声は潜めながらも、目ざとく僕を見付けたヒャクが名残惜しそうに言ってくれたのも、悪い気はしなかったな。
だけど僕の方はそれ以上の関心もなかったから、
「ああ、用ができたら顔を出すよ」
とは応えながらも、
『たぶん、君らが生きている間に来ることはないけどね』
などと思いながら笑顔を作ってみせた。
ヒャクリ亭から十分離れると、<神隠し>で
その僕の視線の先には、寝床にしている<洞>。
なんだかホッとする。ヒャクリ亭も悪くはなかったけど、やっぱりこっちの方が落ち着くな。
洞の中には、住む者がいなくなってただ朽ちていくのを待つのみとなった、生贄達が作った集落。僕が前を通り過ぎただけで、辛うじて建っていただけの家が一軒、メリメリと音を立てて崩れ落ちた。それさえ、僕にとっては安らぎだ。
そこを通り抜けて、洞の最奥に辿り着くと、僕は仮に作った人間の体を脱ぎ捨て、人間達が<竜>と呼ぶ本来の姿に戻って、寛いだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます