ヒャクリ亭
ヒアカとクレイの案内で<番屋>の近くまで行くと、さっきの
「あれは、検非違使か……?」
別に問い掛けるつもりもなく何となく口にしてしまったのを、
「おう、そんな古い言葉、よく知ってるな。まあ、要するに昔の検非違使みたいなもんだが、今は<
俺達<自身番>は基本的に町人だが、番衆は<役人>だ。ああやって不埒者を捕らえると番衆に引き渡して、奉行が裁くってことだな」
ヒアカが丁寧に説明してくれるものの、正直、僕にはどうでもいい話だった。
そして、ヒアカとクレイは、二言三言、番衆と何か言葉を交わして小さく頭を下げて番屋に入っていった。すると番衆も
あの
ただ……
『なんでわざわざ自分から不幸になろうとするんだろうな……』
とは思ったけどね……
「悪い、待たせたな」
「じゃあ、行きましょうか」
番屋から出てきたヒアカとクレイは、それぞれ、身軽で動きやすそうな身なりになっていた。これが普段の格好ということか。
あの<さすまた>も持ってない。あれは自身番としての道具だろうから、当然だろうけどね。
「ああ」
僕は短く応えて、二人の後に続く。
しばらく歩くと、二人が振り向いて、
「ここだ」
「ようこそ、私達の宿屋、<ヒャクリ亭>へ」
と僕を案内する。
それは、他の建物よりは少し大きいけれど、でもそんなに『立派な』とは言い難い、年季を感じさせる石造りの建物だった。入り口に掲げられた看板には、<ヒャクリ亭>と書かれてる。でも、看板そのものは建物に比べると新しい。割と最近、架け替えられたものかもしれない。
と、
「おかえり! おとう! おかあ!」
扉が開いて、中から子供が飛び出してきた。黒髪を頭の上で団子みたいにまとめた、五歳くらいの元気そうな女の子だった。
するとヒアカがその女の子を抱き上げて、
「ただいま、ヒャク! いい子にしてたか?」
相貌を崩して満面の笑顔でヒアカが言う。それを受けて女の子も、
「うん! お客さんの相手もできたよ! えらい?」
大輪の花のような華やかな笑顔を見せる。
「ああ、偉いな! ヒャクは本当に偉い子だ!!」
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