お詫び
<ルドイ>は、今、僕がいるこの街の名前だというのはすぐに分かった。
<サコヤ>というのも、ここじゃないどこかの街か何かの名前だろうなというのはすぐに察せられた。
クレイという女が僕の身なりを見て『サコヤの人だよね?』と言ったのも察せられたので、僕の恰好がそれを窺わせるものだったということだろうな。
確かに、他のこの街の人間達とは少し印象の違う身なりだとは思ったけど。最初に目についた人間のそれを真似ただけだから、別に何も腹づもりはなかった。
そんな僕に、クレイはさらに人懐っこい笑顔を浮かべながら、
「サコヤの人は大人しいって聞くけど、ホントみたいだね。私はクレイ。見ての通り、ここの<
自分とヒアカを指しつつ言い、
「ヒアカも言ったけど、来た早々、災難だったね。この街の安寧を守る者としてお詫びする」
姿勢を正して頭を下げた。するとヒアカも同じように姿勢を正して、
「俺の方からも詫びる。すまなかった」
だって。
そこまでされると、さすがに僕も、
「ああ、別になにもされなかったし、間に合ってくれたし。そこまでしてもらわなくても……」
と応えてしまった。
僕の様子に、クレイが、
「ああ、よかった。せっかく遠路はるばるルドイまで来てくれたのに、この街を悪く思われると悲しいもんね」
胸を撫で下ろす。
さらにヒアカの方は、
「でも、悪党とは言ってもルドイのもんが迷惑掛けたのは確かだし、それでよ。<お詫び>と言っちゃなんだが、もし、今日の宿が決まってなかったら、俺達の家に来ないか? というのも、俺の家は宿屋をやっててな。宿代はいらねえからもてなさせてほしいんだ」
だって。
確かに宿なんて決めてなかったし、時間もいくらでもあるけど……
なんだか気持ちのいい二人に、僕もほだされてしまったみたいだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて、お世話になろうかな」
って、つい、応えてしまった。
人間の中には、今まで現れた者すべてがグルになって旅人などを騙すなんてことをするのがあるのは知ってるけど、二人がそういうのじゃないのは、見てれば分かった。確かに嘘は言ってない。
もっとも、本当に騙して身ぐるみを剥ぐつもりだとしても、僕にはなんてこともないけど。
いざとなれば<神隠し>で立ち去ってしまえばいい。
だから僕は、誘いを受けることにしたんだ。
「おお! そいつぁ良かった! 今日はもうこれで俺もクレイも<上がり>なんだ。番屋に顔出して法被を返して、そのまま帰るぜ」
ヒアカがニイっと笑って、<さすまた>を肩に担いだのだった。
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