03 そして出会う(終).
街角の一角。
彫刻であり、絵であり、オブジェクトである、何か。ねじ曲がって、それでいて、真っ直ぐ。それにもたれ掛かって、眠る女性。
「あの」
「あっはい。あ、ごめんなさい。しまった路上で寝ちゃった。すぐ帰ります。これ作った人間です。許可は得てるので逮捕の必要は」
「いえ」
「あれ。寝ぼけたかな。ごめんなさい。徹夜だったんで」
「これ。あなたが。作ったん、ですか?」
「はい。私が、置かれた状況で。最大限のものを」
音も立てず涙だけをぽろぽろと流す、人。
「あれ。なんでだろう。涙が止まらない」
「不格好でしょ」
「はい。真っ直ぐなのに。曲がってて。行き先もばらばらで」
「生きていくと、だんだん、心が区画整理されて、右と言われたら右、左と言われたら左に移動するようになっちゃうんです」
「はい」
「本当は、右と左なんて、勝手に決められたもので。真っ直ぐ進んだら曲がってるような、そういうものなんです。ごめんなさいわけがわからなくて。私は、こうやって、何かを作ることしかできなくて」
「あなたは。すごい」
「そうですか。ありがとうございます。でも、そんなことは全然、ないんです」
「なぜ。こんなものを作るあなたは、私なんかよりも、ずっと」
「対人恐怖があるんです。十人以上いる場所に、私は、行けない。普通に生きていくことが、できないんです。わたしは。だから、夜中に、ひとりで、こうやって。生きていくんです」
「ひとりで」
「はい。だから、ひとりでも生きていけるように、強く、夢を持って生きるんです」
「夢」
「はい。普通に生きるっていう、ぜったいに、叶わない夢を。その夢を見て、今日もひっしに、生きるんです。そうやって、生きてきました。いま何時ですか?」
「午前四時です」
「そろそろかな。帰ります。おっとと」
「あぶない」
「ごめんなさい。徹夜明けなのでふらふらしちゃって」
「送ります」
「でも」
「私が、こわいですか?」
「いえ。なんか、透き通っていて、心地良いです。おねがいしようかな」
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