第8話 毒を吐いて吸って
「ピッピッピーーーーーッ!!」
終わりの笛の音。第二セット 弓川Bvs冷勢 1-0
「よっしゃ!」
誰よりも強く拳を握りしめる司馬。勢いそのままに菅木につめより、
「イェーー…」
ハイタッチを求める。
「イ、イェーィ。」
生半可に合わせる菅木。
"
セットが終わりベンチに帰還する両チーム。意気消沈した選手たちに呆れたり激怒したり騒がしい冷勢とは対照的に、弓川はいつになく落ち着いていた。呼応するように戸辺も石橋を叩くように足を運ぶ。
「休め、休め。しっかりと休め。水も飲んでくれていい。よくやったんだ。本当によく努力できているよ。正しい努力だ。ありがとう。」
どこかで誰かのおかげだとは思いつつもうなずく新人たち。すると戸辺が一拍、手を叩く。
「でも、まだ終わりじゃない。それどころかずっと先がある。それは目先のAチームかもしれない。栄誉ある選手権かもしれない。…いや、もっと上。世界一の舞台CL (チャンピオンズリーグ)決勝かもしれない。」
水を飲み込む。
「今、思い描いたそこと、自分を照らし合わせるんだ。何が足りない?何が違う?何が埋められる?何が超えていける?そう、まだまだ沢山あるんだ。まだまだ沢山。…大丈夫。焦らなくていい。君たちには、ここで三年間という時間がある。そして仲間もいる。上手くいかない時は僕が助ける。問題ないよ。少しずつ、一歩ずつ、楽しくやっていこう!」
戸辺は拍手で出場選手たちを労い、まだ出場していない選手を集める。三セット目のメンバーにその全員を組むために。その頃、まだ一人で飲水していた菅木に司馬が声をかけようとしていた。
「お疲れ。」
ほんの少し前まであんなに熱かった男は、すっかりいつもの調子である。
「お、お疲れ。」
こちらもこちらで一向に緊張からくる挙動は治らないようだ。ここで、彼の落ち着かない所作に対して、何らかの反応を示すのが常識というものだが、司馬はまるで目に入ってないかのようにズケズケと近づく。そしてそのまま菅木の胸ぐらを思いっきり手繰り寄せ
「その顔だ。その顔がよくない!」
"悪口!?"
何か返すべきなのか。何も返すべきではないのか。言葉が見つからない。菅木の目が泳ぐ。司馬が手を離す。
「あのな。CBってポジションはまず、しっかり守れるってことが大前提なわけ。」
ゲリラレッスンが始まる。スイッチが入った。
「そのためだったら俺らは、どんな事でもしなきゃダメだし、する必要があるの!例えば、気迫一つでもそう。相手が戦う前にビビってくれたら守備が楽になるだろ!?その腑抜けた顔でそれができると思う?無理だろ?」
司馬は淡々と捲し立てる。
「ご、ごめ
「違う。そうじゃない。真面目にやろうとするなっていう話。いい?分かった?」
「は、はい
「よし、分かったら顔だけつくっとけ!じゃあ、お疲れ。」
消灯。最後まで"真面目"の意図する所はよく分からなかったが、嵐は過ぎ去っていった。
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