第9話 I may regret it
火曜日、人工芝グラウンドにて
「お疲れ。集中してやれていたと思います。…知ってると思うけど、一応言っときます。今週末にはリーグ戦があって、来週末にはインターハイ予選が控えています。だからと言うわけではありませんが、継続して努めていきましょう!以上です。」
「礼!」
縦一線。短針と長針が整列する。解散。
「あ、そうだ。菅木は残れ。」
忘れていたわけでもない。思い出したわけでもない。
「あ、はい。」
すれ違う音と映像。別に何も聞こえてやしない。菅木が戸辺の横に立つ。
「ごめんな。時間内にできないクソ野郎で。」
目線を合わせる。
「あ、いえ。」
目線を外す。
「いや。許して貰わなくていいよ。でも、少し待ってくれ。もう来るだろうから。」
戸辺は校舎の方に目を向ける。すると、南校舎の扉が開いた。姿を見せる。二人ほど。彼らはネットをくぐり、小走りでピッチ奥までやってくる。
「確保!」
戸辺は先にやってきた一名の両肩を抑え、そう叫ぶ。金辺(かなべ)だった。遅れて引率したコーチがやってきた。
「居残りついでにサボろうたって、そうはいかない。金辺、お前は今から練習だ。」
金辺が顔を歪ませる。
「露骨にいやな顔するなぁ。いいよ。時間そんなにとらないから。」
戸辺は菅木の方に振り向く。
「知ってる?話したことある?でもまぁ、いいや。じゃあ紹介するわ。こいつは2年の金辺寝平(かなべ しんぺい)。ポジションはお前と一緒でCB。ほら!金辺も一言。」
戸辺が金辺の背中を軽くはたく。
「痛ったいなぁー。訴えますよ。」
ちゃらけて見せる。
「お好きにどうぞ。」
戸辺はいなす。
「冗談ですよ。本気にしました?」
「ハイハイ。何でもいいから、ほら!」
金辺がむすっとした顔で戸辺を睨みつける。戸辺は首であしらう。
「まぁ、いいや。よろしくね。」
金辺が菅木に手を差し出す。
「はい。」
握手を交わす。
「オッケー、じゃあ三人パスやろうか。」
ボールを蹴り出す。戸辺と菅木と金辺でボールを回すようだ。その間コーチたちには部員の早期帰宅への誘導と施錠の確認を任せる。その後、パス交換が始まった。
「で、金辺。今日はどうして居残ってた?」
「いや、アレです。そう、アレです。提出物。提出物ですよ。」
「何の?」
「何かの書類っす。」
「いや、それは残らされるわ。何で、なくしたん?」
「いや、だってプリント多くないですか?プリントばっかしじゃん。」
「それは、そうやな。」
「でしょー。ほら。ふざけやがって。」
「金辺。僕、君の友達ではないよ。」
「・・・。」
「…すいません。」
「まぁ、いいわ。で、菅木はどう?楽しくやれてる?」
「あ、はい。まぁ。」
「うぁ、これは違うわ。」
「金辺。お口。」
「…すっんません。」
「菅木。それは練習かい?スケジュールかい?」
「いや。大丈夫です。」
「いいんだ。それは言ってくれて。…いや。むしろ逆。それは言わなきゃダメだ。」
「いや。違います。」
「オッケー。他の事だね。…心配しなくていいよ。必ず変わるから。なぁ、そうだろ?金辺。」
「あ、はい。そうなんじゃないっすか。多分。」
ヨボヨボな切り返しを戸辺は高笑う。
「大丈夫。そういう奴も必要だよ。オッケー。じゃあ、終わろっか。」
戸辺がボールを蹴り上げ回収する。
「もう、終わりっすか。」
反射的に動く。
「もう終わりな。金辺は早く帰りたかったんじゃないの?」
皮肉。
「何もいえねぇー。」
呟く。
「菅木。付き合わしてゴメンな。理不尽な話だけど、金辺と一緒に早く帰れよ。じゃあ、また明日。お疲れ。」
「はい。」
戸辺は背中を向け、校舎へと足を運ぶ。
「あ、そうだ。金辺!自分のロッカー、整理しとけよ。」
振り向き様に一言。
「何!?」
首を傾げる。
「ハハッ。」
遠くに聞こえるあざ笑い声。太陽はまだ、空を舞っている。
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