第12話
寝たら絶対に遅刻する。商談の日の朝を迎えて、僕はガレージの中でプラモデルを組み立てていた。ほとんど不眠不休で働いて、マリコ三号をパーツに組み込んだ。夜明け前にようやく調整が終わった。確かにキツい作業だったけど、やり甲斐があった。マリコさんは天才だ。出来上がった四脚は光り輝いて見える。他人に売り渡すのが惜しいくらいだ。
眠さというものには波があって、一度大きな波をやり過ごせば、その先数時間はなんとか動ける。その間隔が徐々に狭くなり、波はさらに大きくなって、やり過ごすのが難しくなってくる。
僕は先ほど、恐らく生涯最大のビッグウェーブをやり過ごした所だ。頭の中は真っ白。ハイテンションで気持ちがいい。なんでも出来る気がする。だけどソファーに横になれば、一秒で眠ってしまう自信がある。だから僕はプラモデルを作ることにしたのだ。別にプラモデルなんか好きじゃない。普段からパーツで遊んでいるから、こんな小さな模型には興味がない。
しかし。ここ二週間ほどずっとパーツの調整をしていたおかげで、プラモデルを作る作業が何故か心地良いのです。まるで工業機械になったような気分だ。両腕パーツの僕が、小さな模型を熱心に作っている。それはある意味とても正しくて、スジの通ったことのように感じられる。神経を張り巡らして造るこの、通信衛星八十七号。通称「タソガレ」。お前は僕の体の一部だ。なんでタソガレなんて名前にしたんだろう。夕方頃の時間帯に、日本の上空で役割を果す衛星だ。せめて「ユウヤケ」とか「ユウグレ」の方が良かったと思う。時計を見たらようやく十時だ。ちょっと早いけど出かけよう。完成した「タソガレ」をそっと作業台の上に置いた。
朝御飯は食べられなかった。マリコさんが用意してくれたけど、お腹が受け付けなかった。食べるより寝ろ! と僕の体が言っている。あと少しです。あと少しだけ待ってください。脳が爆発して、体がバラバラになりそうだ。パーツ化した体は、ある意味バラバラなわけだが。
ウフフと笑いながら僕は車を発進させる。危ない。テンションがおかしい。最後の最後でしくじる訳には行かない。マリコさんがポットに詰めてくれた、熱いコーヒーを口に含む。苦くて旨い。眠気覚ましの薬もあるけれど、なんとなく今は飲みたくない。相変わらず僕には変なこだわりがある。
カクマルさんが同席して下さることになっている。核廃棄物処理場の中央管制室。取引をするのには一番安全な場所だ。逃げも隠れも出来ない。
「ひでぇ顔してるなミギウデ」
カクマルさんが眉をしかめた。
「今朝まで作業をしてたので」
そう言って僕は席についた。座っただけで眠ってしまいそうだ。
「でもおめえ、四脚の調整はもう終わったんだろ? 先週ココでテストした試験機も、万全だったじゃねえか。それともナニか? 他の仕事が入ったのか」
カクマルさんが腕組みをして言った。無理をするな、という顔つき。僕もそう思います。
「プログラム……」
眠い。
「あぁ? プログラム? それがどうした!」
カクマルさんの声が近いのに遠い。やばい、マジで眠りそうだ。
「イテえ!」
僕は叫んだ。右足の太ももにデッカイ注射針が刺さっている。カクマルさんの仕業だ。
「元気が出る薬を打ってやった。安心しろ極上品だ。今回の客は大口なんだぞ。金は持ってるが抜け目のない相手だ。シャッキリしろミギウデ! 正念場だぞ!」
カクマルさんにどやされた。極上品って、麻薬を打たれたのかよ。麻薬はやらない主義なのに。嫌だなあと思う僕の気持ちに関係なく、薬が一気に全身をかけめぐって行く。こりゃ確かにすごい。眠気が吹っ飛んで目がランランとしてきた。ウヒャ。
「ハァー落ち着いた」
まるでジャンキーのような僕のセリフ。
「まったくなあ。しっかりしてくれ。俺の信用にも関わるんだぞ」
カクマルさんが僕の腹にパンチして言った。イテえ。
「スミマセン。でもカクマルさん驚きますよ。たぶん、お客さんも驚く」
僕は言った。
「先週の試作機で先方は充分驚いてたよ。単なる裏モンじゃねえってな。俺もそう思った。このぶんじゃあ、金の交渉は有利に運べるぜ」
カクマルさんが両手をこすりあわせて言った。取引が大きくなれば、カクマルさんに入る手数料も大きくなる。嬉しそうなカクマルさんを見て僕は笑った。
正午。管制室に高そうなスーツを着た男が二人入って来た。カッコつけてサングラスをかけている。スラムはスモッグのせいでいつも天気が悪いから、サングラスなんて必要無いのだ。どうして組織系の人間は、こうも身なりが似るのだろう。ハッタリを利かせるにしても、他に方法があると思うのだが。僕は両親が組織の人間だったから、こういう風貌のお兄さん達をたくさん見てきている。中身よりもスーツの方が立派、というような人物が多い。
「カクマル久しぶりだな。それと初めまして、ミギウデさん。サイゾウさんとお呼びしたほうがよろしいでしょうか」
先頭のスーツの男が、サングラスを取って握手を求めてきた。ずいぶんフレンドリー。しかも予想よりだいぶ若い。握手を交わした後、僕はカクマルさんの顔をチラッと見た。
「この人は俺とほとんど同い年だ。見かけで判断するな」
カクマルさんに小声で叱られる。お客さんと向い合ってソファーに座った。相手方のもう一人は立ったまま。彼はボディーガードか。
「サイゾウと申します。今回はよろしくお願い致します。えーと……」
「ハンノウと申します」
男がにっこりと笑って言った。余裕のイケメン。こりゃ、けっこう大物かも。
「さっそく金額の交渉に入ろうじゃねえか。こういう事はさっさと済ましちまった方がいいんだ。お互いゴチャゴチャ言わねえでな。バッサリ行こう。な! あっさり行こう」
カクマルさんが勢い良く言った。すごいノリだ。カクマルさん、緊張してるんじゃないだろうな。
「五十組、全部買っていただけますか」
僕は訊いた。
「むろん。全部買わせてもらいます。試作機の出来は上々。アレは凄い。特に制御プログラムが並じゃない。出来たら、プログラムの出どころをお訊きしたいが」
ハンノウさんが落ち着いた口調で言った。
「それは企業秘密なんです。スミマセン」
「でしょうね。分かりました。では早速金額の話をしましょう。あの四脚、廉価版でしたね。不良品のゴミだったものを、サイゾウさんがあそこまで調整をした。素晴らしい出来栄えです。中古市場であのタイプは今……、約三十五万ドル円。メーカーの保証付きでその値段です。それを踏まえて、サイゾウさんは一組いくらで売ってくださいますか」
端末のデータを見ながらハンノウさんが言った。
「十万でどうですか」
僕は言った。
「そりゃオメエ欲張り過ぎだ。元はゴミってところを忘れちゃいけねえ。気持ちは分かるがもう少しまけろよ」
カクマルさんが困った顔をして僕に迫ってくる。カクマルさんの言うとおりだ。元がゴミのパーツは、普通はかなり安く買い叩かれる。ハンノウさんが中古価格を言ったのは、僕を試しているのだと思った。
「サイゾウさん強気ですね。確かにあの四脚はただのゴミじゃない。立派な再生品です。ここだけの話、私はあれを月に持って行くつもりです。月開発の前線で使います。それだけの評価をしています。私もこの五十組は確実に買いたい。五万」
ハンノウさんが静かに言った。五万ドル円。
「おお! いいじゃねえか。ハンノウさんはよく分かってくださってるよ。ミギウデ、じゃねえこのサイゾウの技術はナカナカ大したもんなんだ。スラムの星って言われてるぐらいだからな。月でスラムの品物が使われるたぁ目出てえじゃねえか。な、五万だと。よかったなサイゾウ!」
カクマルさんが、物凄い勢いで話をまとめに来ている。カクマルさんの気持ちはよく分る。
「八万で」
僕は言った。
「サイゾウ!」
カクマルさんが泣きそうだ。僕は吹き出して笑いそうになるのを必死でこらえた。
「六万。これ以上は出せません」
ハンノウさんが首を振って言った。
「後出しで申し訳ないんですが、ちょっと四脚を見に行きませんか。いえ、変な交渉をするつもりはないんです。僕はハンノウさんに買っていただくつもりです。少しだけお時間を頂けますか」
そう言って僕は立ち上がった。頷いてハンノウさんも立ち上がる。
「サイゾウ……」
カクマルさんが、心配でたまらないといった表情をしている。申し訳ない。
「大丈夫ですカクマルさん。格納庫に行きましょう」
「そりゃいいがオメエ……」
カクマルさんがフラフラと立ち上がった。僕はみんなの先頭にたって案内する。
格納庫には四脚の試作機が置いてある。今朝、車に積んできた新しい試作機。本来は人の足につけて使う物だけど、テストの時にはロボットの足につける。
「見た目は前と同じですけどね。ハンノウさん、コレをどうぞ」
そう言って僕は、ハンノウさんにチップを一枚手渡した。ハンノウさんが不思議そうな顔をする。チップを少し観察した後、ハンノウさんが口を開いた。
「例の制御プログラムは、確かマリコ二号といいましたね。このチップには、もしや三号が入っている?」
ハンノウさんが言い当てた。さすが。この段階で見破られるとは思ってもみなかった。
ハンノウさんがマリコ三号を、試作機のスロットに差し込んだ。ロボットが起動する。モニターに挙動のデータが表示される。シミュレーションを繰り返して、データが更新されていく。
「カクマル。減圧と重力のデータも取れるか?」
ハンノウさんがテキパキと指示を出す。この格納庫は、様々なデータが取れるように僕が改造してある。急に忙しくなったカクマルさんが、大慌てで作業をし始めた。ほんと申し訳ない。密閉された特殊ケースの中にロボットが入り、圧力と重力のデータが更新された。
「七万だな。これなら七万出せる。それでいいでしょう、サイゾウさん?」
ハンノウさんが右手を差し出した。僕はその手をしっかりと握った。
商品の輸送の手配を済ませた。ハンノウさんがそれを確認して、僕の口座へ入金をした。カクマルさんが一連の流れを監視して、問題が無い事を双方に伝える。
「いい商品があったら知らせてください。サイゾウさんのモノなら、他より高い値段をつけるつもりです」
ハンノウさんが言った。とても丁寧だけど威圧感を感じる。ハンノウさんの両目には、かなり特殊なパーツが入っていた。僕も見たことの無いタイプだ。サングラスで隠さなければならない眼球パーツって、いったい何の目的で使うのやら。
僕らは再び握手を交わした。小さく会釈をして、ハンノウさんとボディーガードが中央管制室を出て行った。
カクマルさんがモニターに向かって、取引の最終チェックをしてくれている。その背中に向けて僕は言った。
「スミマセンでした。予定外の事までやらせてしまって」
「いいよいいよ。終わりよければ全て良しだ。しかしまさかオメエが、値段を釣り上げるとはな。金に関してはあっさりしてるオメエが、十万ドル円だと? 腰が抜けるかと思ったぜ」
カクマルさんが僕の正面に座る。
「取引はスムースに行きましたね。カクマルさんのおかげです」
「俺は何にもしてねえよ。むしろビビっちまってただろ? あのハンノウってのはアブねえ奴なんだ。だが、金払いはいいからな。気に入ったモノには気持よく払う。いちゃもんもつけねえ。だけど、アイツを騙して不良品でも掴ませてみろ。コレだよ、コレ」
カクマルさんが、自分の首に右手を当てて切り落とす真似をした。
「迫力がありましたね。僕のような若造に、敬語を使ってくるのがまた恐い。でも、カクマルさんには何故か命令口調でしたね」
「俺もあいつも、スラムじゃ古株だからな。お互いの汚ねえ部分もいっぱい知ってる。商売以外の時は、なるたけ目を合わせたくねえのよ。腐れ縁ってやつだ」
カクマルさんがつぶやいて言った。
「元々は親友、とかいうオチじゃないでしょうね」
僕は調子に乗って訊いてしまった。
図星だったようで、僕はカクマルさんにぶん殴られそうになった。必死で攻撃を防ぐ。
「若い時にはサシで飲んだ事もあるんだぜ……。あのカッコつけたサングラス野郎とな」
ムスッとした顔でカクマルさんが言った。
「そう言えばあの目、ハンノウさんの目のパーツ。かなり珍しいタイプでしたね。外国のカタログでも見たことがないような。かと言って、旧式というわけでもなさそうでした」
僕は言った。
「……あれは目のパーツが特殊ってわけじゃねえんだ。あいつ自身が特殊なんだ」
「特殊? 眼球以外のパーツは、特に目立たない感じでしたけど」
「あいつが何でハンノウって呼ばれてるか。オメエなら察しがつくんじゃねえか」
カクマルさんが含み笑いをして言った。ハンノウ……。反応。半脳か。
「まさか」
「真相は誰も知らねえ。噂の範囲だ。だが、本人も否定してねえよ。自分でハンノウって言ってるぐらいだからな。そもそも表には滅多に出てこない奴だ。たぶんあいつはお前の顔を見ておきたかったんだろう。注目されてるぜ、サイゾウさんよ」
カクマルさんが他の人に命じて、ビールを持ってくるように言った。
「脳の半分が機械ってことですよね。それでハンノウ。すげえ名前」
僕は呆れて言った。相変わらずのスラムのネーミングだ。
「まあイイだろ。とにかく取引は上手く行った。乾杯といこうぜ」
カクマルさんが僕に、ビールのボトルを渡してくれる。麻薬とアルコール、混ぜても大丈夫なのか。いやそれよりも、脳のパーツが実在していたなんて。カクマルさんは噂と言ったけど、たぶん本当だと思う。あの目のパーツが印象的だった。しかも半分だけとか。どんな実験作だよ。
カクマルさんに釣られて、僕は勢いよくビールを飲んでしまった。取引が成功して大儲けが出来た。カクマルさんが嬉しそうだ。僕も嬉しい。脳のパーツについては、今度じっくりと調べてみよう。それよりも旅行の計画を進めなくては。マリコさんが喜んでくれるといいな。頭の中でグルグルと考えが巡る。そのままグルグルと、僕はどんどん気持ち悪くなって行く。ソファーから体がずり落ちる。
「お。大丈夫かミギウデ! やべえ、薬打ってたんだよな。誰か『ろ過器』持って来い!」
薄れ行く意識の中で、カクマルさんの慌てた声がぼんやりと聞き取れる。最後の最後に油断してしまった……。
目が覚めたら超気持ち悪い。とりあえずは死なずに済んだようだ。自宅のソファーに僕は横になっている。ボロいビルの、なつかしい汚い天井。そう言えばマリコさんが、壁を塗り直したいって言ってたな……。
窓の外が暗い。時計を見たら日付が変わって午後六時。取引の時から一日半も経っている。これはかなりヤバかったのではないか? スラムで使われている麻薬には強烈なものが多い。アルコールと併用してはいけないタイプも数多く存在する。カクマルさん……。
気持ち悪いけれどお腹がすいている。体の感じから言って、最悪の状況は寝ている内に脱したと思う。吐いてしまうかもしれないけど、お腹に何か入れたい。
冷蔵庫を開けたらビールとピクルスしか無かった。迎え酒をする勇気は無い。好物だけれど、ピクルスだけ食べるのもさびしい。死ぬほど体が重いので、外に買いに行く気力も出ない。それにしてもハラ減ったな!
マリコさんは四階の自分の部屋にいるのだろうか。と思ったら、階段を登ってくる音がした。扉が開いて、現れたのはマリコさんだ。
「お、目覚めたねサイゾウ君。カクマルさんの予測通り。『意識が戻ったら、メチャクチャ腹がへってるだろうから何か食わせてやんな』って言われてたの。だから屋台でいっぱい買い物をしてきたよ」
マリコさんが手にさげたビニール袋を振ってみせた。ありがてえ。
「マリコさん、カクマルさんと会ったんですね」
おいしそうな料理の匂い。
「会ったもなにも。サイゾウが取引の現場で意識不明だって言われて、急いで迎えに行ったのよ。そしたら麻薬とお酒で倒れたっていうじゃない。蹴りを入れて帰ろうかと思ったわよ」
マリコさんが眉を吊り上げて言った。
「カクマルさんから、電話があったんですか?」
「ううん。決死隊のおじいちゃん達から連絡があったの。今でもチャットとかで交流してるのよ。『ミギウデが取引で意識不明だ』なんて言う人がいるから、深刻なトラブルが起きたのかと思ってしまった」
テーブルの上に料理を並べながら、マリコさんが言う。
「ご心配掛けて申し訳ありません。でもマリコさん、よく管制室に入れましたね」
「決死隊からカクマルさんへ連絡が行ったの。それで迎えのタクシーが私の所に来たのよ。管制室で、カクマルさんに手をついて謝られちゃったわよ。ミギウデをこんな状態にしたのは俺のせいだ、申し訳ないって」
ため息をついてマリコさんが言った。
「泡を吹いてる僕を見て、蹴飛ばして帰らなかったんですか?」
僕は笑って訊いた。
「ちょっと腹が立ったから、あなたのミギウデを思いっきり蹴飛ばしたの。象徴的な意味で。そしたら場の空気が凍りついてたわ。それで少しスッとした」
マリコさんが真顔で言う。スゲーな。
「すみません迂闊でした。取引を終えて、一気に緊張感が無くなってしまって。僕を家まで運んでくださったんですね、マリコさんが」
「とりあえず命には別状ないって。フランケンが家まで送ってくれたの。処置についてはカクマルさんにいろいろと教わったわ。彼が申し訳ない申し訳ないって何度も言うから『スラムの星をもっと大切にして下さい!』って言っておいた」
言ってしまったのか。その時のカクマルさんの表情を見てみたかったな。
「……食べてもいいですか」
まるでお預けをくらっている犬のようだ。
「どうぞ。いろいろとお疲れ様でした」
マリコさんがニッコリと笑って言った。
急に食べたらハラを壊しそうだ。しかし詰め込まずにはいられない。口にモノを入れる。体に喜びが広がっていく。この感じ、麻薬の後遺症じゃないだろうな。食べ物をコーラで胃の底に流し込んだ。盛大にゲップをする。よく食べた。旨かった。
「サイゾウがそんなにおいしそうに食べる所、初めて見たかも」
マリコさんが言った。
「そうですか? 普段はマズそうに食べてますか」
「そうね、屋台の料理だとまるで……作業のようにして食べてる。栄養を取るためのただの作業。ロボ的よ。それで、私のマズい料理を食べるときは、辛そうに笑って食べてる。その顔を見ると、また作ってやろうと私は思うの」
「マリコさんの料理は好きですよ」
「知ってる」
不機嫌そうな顔でマリコさんが答えた。僕は笑った。
「今回の取引で目標を一気に達成できました。予想以上に儲かりました。マリコ三号のおかげです」
僕は言った。
「サイゾウが頑張ったのよ。私はあなたのデータベースを応用しただけ。たくさんのメモとか、図面を見ながら作業をしていたら、いつの間にかマリコ三号が出来上がってた。途中から、サイゾウの世界とシンクロしていたと思う」
マリコさんが微笑んで言った。
「それは良く分かります。僕も作業中、マリコさんと話をしているような気持ちになりました。実際、パーツに話しかけたりして作業をしていたし。単に睡眠不足だっただけかもしれないですけど」
「スラムの星は今、とても輝いてる」
マリコさんがしみじみとして言った。
「生かすも殺すも、マリコさん次第」
と僕は言ってしまう。マリコさんが絶妙に切ない表情になった。この顔をずっと見ていたい。
「タイから帰ってきたら、マリコ四号を作ってもらいます」
僕はマリコさんの顔を見て言った。
「作ります」
マリコさんが小さな声で答えた。
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