2-23

「おお。そうなんだよ。いやあ、久しぶりに見たわぁあんな豪快なの」


『――――』


「ああ。ビルを拳で一発ドコーンってやってガッシャーンって感じ。随分と高め設定の肉体強化だったな、あれは」


『――――』


「さぁな。途中から覗き始めたからなんとも言えないが、ヤンキーの男二人と、もう二人の男女が何やら争ってたって感じか。男三人で女取り合ってたんかな。はっはっは、若いって良いねぇ」


『――――』


「いや、ビルぶっ壊したのは女だ。男共は微妙だな。シンカだとしても特に目立ってはいなかったが……一人、変なのがいたよ」


『――――』


「何と言えば宜しいのやら……空気が違ったんだよなー。何だか、落ち着いてた。そいつだけが妙に」


『――――』


「いやいや、声かけようにもビルごとみんなぺしゃんこになっちまったんだって。脱出した姿も見れてないし、もう駄目だろ」


『――――』


「……まぁな。じゃなきゃあんな真似しないだろうし。わかったよ。探しとくけど、期待はしないでくれよー」


『――――』


「ははは、悪い悪い。だって吸い殻の処理って面倒くせぇんだもん。けどまっ、これからはちゃんと気を付けるよ。あの機関も動いてるらしいし」


『――――』


「首狩り鎌だろ。ただの人間のくせしてA判定シンカ殺しまくってるっていう。どんな奴か見てみたい気もするけど」


『――――』


「わかってるって、冗談だよ。ほんじゃ、また連絡するわ。イヴに宜しく言っといてくれ。……あいよー。じゃあな――」
















       


















「――はいはい御免よぅ。おじさんは警察だから通してくれえぃ」


 騒がしくひしめき合う野次馬の中、先ほど到着した鷹無古朗は他人の波を掻き分けながら前に進む。警察手帳を見せても群がる人混みが開けそうにないので、強引に割って入って行く。


「……けほっ……まだ煙たいな」


 息苦しいのでネクタイを緩めて、鷹無はようやく現場を確認する。


 粉塵が収まってきたそこには、コンクリートの残骸で小さな山が出来ていた。隣のビルにも被害が伝染していて、片方は穴が空いただけだったが、もう片方は同じく崩れていた。道路にまで瓦礫が溢れており、整備するには時間がかかる事だろう。


「ひっでぇなあこりゃ。ちょいとあんた、一体何があったんだ?」


 警察だと口に出しながら現場と向かい合ったものの、実のところ鷹無は大きな音が聞こえたから駆けつけたに過ぎない。聞き込みの休憩がてら公園でアイスクリームを食べていたのだ。だから詳しい事は知らない。野次馬の中からてきとうに選んだ者に訊ねる。


「――ほうほう。元から解体予定だったのか。業者が思ってたよりも朽ちてたって、か……あらよっ」


 独り言で状況を整理しながら、瓦礫の山へと足を踏み入れる。何かを探しているようだ。同時に携帯端末を開き、あらかじめ連絡していた鞠戸に電話をかける。


「……おう。鞠戸か。あとどれくらいで着くんだ?」


『警部。それが……あと十分といった場所まで来ているのですが、何故か渋滞してて進めないんです。それほどまでの被害なんでしょうか?』


「あちゃあ、もうそこまで影響でてんのか。ビルが崩れたんだよ。かなりひどくてな、交通課も可哀想に、って感じだぜ。どっかに車とめて歩いた方がいいぞ」


『わかりました。そうします。……と言うより警部。いいんでしょうか、我々が現場に出向いて』


 何でだ、と鷹無は片手で瓦礫をどかしながら答える。


『いえ。シンカ担当課の我々は署内でよく思われていませんから、一番に現場にいるというのはどうかと。特に警部は嫌われている事ですし』


「えっ、マジ……てかさらっと傷つく事を言うなぁお前」


 少し動揺したが、手はとめない。


「バーカ。そういうこっちゃないだろうが」


『……と言いますと?』


「事件が起きたら直ぐに現場に駆けつける、それが警察ってもんだろうが。だが何よりも大事な――……くそっ」


 そこで、鷹無は手を止めた。瓦礫の隙間から流れる赤い液体に舌打ちして、怨むように改めて惨状を見据える。


「何よりも大事な、怪我人の救助があんだよ。仏さんも助けてやんねぇといけねぇ」


『……早急に向かいます』


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