2-5
シンカとテイシの保護を目的とした、
来る者拒まず、簡単な手続きで入居は可能。流石に出る時はやや厳しめの面倒くさい審査があり、定期的な視察も付加されるが、けれど了承を得られれば出る事は可能だ。
中での暮らしは贅沢とは言えないが、それでも中々良いホテル並み。三食飯付きで、菓子も食い放題で、一人暮らしには十分すぎる広さの個室。敷地内であれば中でも外でも、進入禁止区画以外はどこにでも行こうが自由にして良し。ゲーセンやシアターなどの娯楽も完備。
洗濯とゴミ出しは自分で出さないといけないが、専用の場所に置いておくだけでいい。後は施設の勤務者が勝手にやってくれる。その他諸々の世話も含めて。
不定期に細胞の採取を半強制で行われるが、注射器で体液を吸われるかピンセットで摘まみ取られるかという程度。五分もかからない作業だ。
……やれやれ、夢のようだね。金の心配なんかせずに安心して気楽に気長に過ごせる毎日。惰性に堕落を重ねても構わない生活。社会のしがらみから断絶された日々。……此方と彼方、どっちが住みよいのか、わかんなくなっちまう。
――比劇と変態と寮で別れたあと、俺は一人で帰路に就いていた。男性寮に住む比劇に泊まっていけと言われたが、やはり自分の家の枕が恋しいので断った。この時間ではもうバスの運行が無いので徒歩である。タクシーに乗れるほど金に余裕はない。
故に歩くしか無いのだこんちくしょー。
日中ほどではないけど動けば汗が流れる蒸し暑い暗闇。小さな羽虫がちらほら飛び回りやがる真夜中、我が家である安くて古いアパートへてくてくと向かう。その辺りは人と車の通りが少なく閑散としているので選んだのだが、こうも歩いてばかりでは考え直したくなってくる。
……いや、駄目か。何かあった時に目立たぬようにと選んだのだから。例えば片腕の袖がズタボロでくせぇ臭い漂わせている時とか。
携帯電話の着信を確認。――何も無し。
前回から一ヶ月はとうに過ぎているから、クロちゃんからの呼び出しもそろそろ来るだろう。
俺の可愛い可愛い――当然皮肉だ――妹が俺と喋りたいだのと癇癪を起こすのは。どうせなら日中がいいなぁ、夜に郊外まで向かうのは翌朝にこたえるから……。
ぼうっとしながら無心で歩いていたら、やっとこさ我が家に到着。一時間は歩いたか、いやもっとかな。もっとだな。まあいいや早く寝よう、とにかく疲れた。
まあ、この体はそういうのも戻すから、ただ突っ立ってるだけでも元気一杯な体に元通りなんだけどね。心は戻らないので気持ちが食い違ってしまうのが難点だが。……いや、それは却ってありがたい事か。異常に満たされてるよりは良い。
カンカンカン、と錆びた鉄の音を鳴らして外の階段で二階へ上がる。角を曲がって最初の部屋が俺の部屋。鍵を開けてギギギィ、とドアを開いて、電気を点けて中に入ってドアを閉めて、
「――ふぅ」
落ち着ける我が家の空間、
「……ぅ?」
ではなかった。
いつもと違う光景。
「……あら、随分と遅い帰宅なのね詩乃。顔が見たくなったのであなたの帰りを待ち続ける健気で美人な幼なじみであるところの私を放っておいてこんな夜遅くまで一体どこでなにをしていたのかしら」
居間の真ん中で礼儀正しく正座している、面倒くさい奴がいた。
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