2-4
「――ぶふっ、どぅふふふふ」
「おい詩乃、この女また珍妙な笑い方し始めたぞ」
「ほっとけ。関わると面倒くさいぞ」
午後零時過ぎ。日付の変更。
夜の暗さも最大限に深まり、街灯のぼんやりとした明かりだけが頼りの帰り道、絵留を俺たち二人で支えて半ば引きずりながら歩く。彼女の右腕は俺の肩に回して、もう片方は比劇の肩。男性ならわからなくもない状況が、女性で形成されてしまうのは如何なものだろう。
焼酎十四杯が効いたらしく、絵留はべろんべろんに酔ってしまい、自分では歩けない始末となっていた。というか寝てしまった。しかしそこまで飲んだにも拘わらず、吐き気もなく、意識もあるのは中々に酒が強い方と言えなくもない。馬鹿にも何か一つだけ強いものがあったりする。
「いっきししししっ。らめですよせんぱぁ〜い。そこはもっとやさしくしてくださいよぅ〜」
「詩乃、後輩に何やらかしてんだよ」
「いや、お前も先輩じゃねぇか」
「なあにみてるんれすかひのもとせんぱぁい。じゃましにゃいでくださいよぅ〜」
「やっぱり詩乃じゃねぇかよ」
「頑張れ! 夢の中の比劇!」
マジ声援。俺の暴挙を何とかして止めてくれ。
――ずりずり、ずりずり。
絵留の靴が削られていく音。女の子の召し物を汚すのは気が引けるが、自分で歩いてくれないのだから仕方がない。迷惑かけてるのだから、店の勘定の五割を彼女の財布から拝借したのも仕方がない。……下衆とか言うな。
街灯の下、アスファルトに浮かぶ淡い光の円。それが等間隔に続く、人気の無い中道を学生三人でずりずり、ずりずり。
「――そういや詩乃、お前ってシンカに詳しいんだな。嗣原に偉そうにはしてたが、俺は水でなんかおかしくなる、って感じでしか知らなかったぞ」
「あっ、せんぱっ……だめ……」
「別に。こんなの詳しい内に入らないし。ただの基本だ」
「やっ、そんな、」
「基本ねえ。あ、そうだ、ついでに俺も訊きたいんだけどよ。シンカやテイシの為の保護施設ってあるだろ。あそこって何、病院? 監獄?」
「両方だよ。病院ってのは少し違うけど。あそこはただ単に、人間社会でまともな生活が送れない彼らの為の空間ってだけ。悪い例えで保健所みたいな感じ」
郊外の森、広大な敷地の中にそれはある。
脱走防止の高い塀に囲まれ、その塀は中も分断している。
犯罪を犯した者と、
社会を諦めた者を、
分けるために。――けれど、その二つは真下で合体している。世間に公表されておらず、その事を知る一般人は極々僅か。
「だめ、それいじょうは……わ、わたしはじめてだから……あっ」
「……にしても何だな。隣で喘いでるのにこうも欲情が湧かない女って。残念だ」
「折角無視してたのに話題にするな!」
「処女の後輩を無理やり、か。ジャンルとしてのランクは低いが、嫌いじゃないぜ」
「やめろ! にやにやするな!」
「せんぱいっ、せんぱいっ、ああぁらめええ……!」
「ぎゃー! 早まるな俺えええ!」
「せんぱい、かくとうゲームつよすぎですよぉ……むにゃむにゃ……」
…………………………。
「……」
ばちーん、と絵留の後頭部を平手打ち。ふぎゃ、と彼女は呻き声を上げて、それからは何も言わなくなった。
ずりずり、ずりずり。
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