ある悪女の少々長いラヴレター(恋愛)

唐突だけど手紙を書きました。本当にいきなり過ぎてごめんね。長くなりすぎてたら、最後の方だけ読んでね。


 君は、私が同学年の子を虐めていたのは知ってると思う。両親の離婚とクラスメイトとの不和で、イライラしていたものだから、少し誰かをいじりたくなったんだ。そうして、最初は特に考えもなしに、その子をからかっていたよ。


 だけど、徐々に人が集まり大掛かりになって、後戻りができなくなってしまった。仲が悪かった子と、いじめをする事で少し距離が近づいたのは不気味に思えたよ。いじめを辞めればこちらが虐められる、そんな予感だけが頭の中をぐわりぐわりと駆け巡る。そして、罪悪感は感じていたけれども、私は上手く対処ができる程頭は足りていなく、また、怠惰で一欠片の勇気もなかったんだ。


 すると、崖のように突然、私の日常は崩れた。それは当たり前かもしれないね。私が虐めてたあの子が、先生や親に相談したんだ。私は勿論先生にめいっぱい叱られ、彼女と彼女の家族へ母と一緒に謝りに行った。


 その後からはますます酷いことになっちゃったよ。母は私に暴力を振るうようになり、クラスメイトは全責任を私に押し付けて、今度は私が虐められる番になった。そのいじめメンバーには私が虐めたあの子がいる。私は、こうなったのは自分のせいだ、因果応報だ、とは分かっていたけれど、苦虫の味は口中に広がり、毎日嗚咽と嘔気を漏らした。


 私物が無くなり、水を掛けられ、靴には画鋲が仕込まれる。ひそひそ声は鳴り止まないし、提出物は提出用の箱から盗まれていく。そうなれば、いつのまにかだんだんどうでも良くなっていくもんなんだね。痛みも感じるし、苦痛も感じるけど、感覚が薄れていく感覚が、一体何故だか、心に侵食するんだよ。


 今日で死のうか、そう考えることもあったけれども、私はそこまで弱くは無かった。でも、その弱くない部分は、私にとって都合が悪いもので、見方を変えれば只のウィークポイントに成り下がるもの。いっそ死んでしまえたら、幸せだったのだ。そんな事しか思えない私は、やっぱり脆弱な悪人でしかないよ。


 そんな中、話しかけてきたのは君だった。放課後、いきなり話しかけられたのはびっくりしたよ。それも、これまで話したことのない男子だったから。


 最初は何か罵詈雑言でも吐かれるのではないだろうかと身構えたけど、君はなんてことない話をする。今日の数学はつまらなかっただとか、給食のカレーをこぼして、シャツに世界地図ができたとか。


 あたかも仲が良さそうな態度で話すものだから、舌を巻いてしまった。そして一体何が目的なのかと君を疑った。疑っても、特に何か行動を起こそうと考えることは、なかったんだけどね。


 それにしても君と話した内容はくだらなかった。周りに人があまり居ない時間に沢山お話ししたけど、"昨日は一日で階段を200階分往復して、階段大好き倶楽部会長に就任してやったぜ、いいだろ〜"と言うセリフは、特にくだらなさすぎて今でも鮮明に思い出せるよ。ベスト・オブ・くだらない!


 でも、くだらないから良いのかもね。深刻な事は疲れちゃうしさ。君と話しているとあまりにくだらなさすぎて、笑みが溢れてしまうんだ。


 話は変わるけど、私は体育祭で無理やり応援団に指名された時に、助けてくれた事は今でも本当に感謝してる。私は、君も応援団に入ると言った瞬間、他の悪意を持つ人とペアになる事から助けてくれたと思ったんだ。君はその事に関して何も言わないけど、今でも私はそう思っているよ。だから、ありがとう。


 応援団は男女ペアでダンスを披露するけれども、私達は結構チグハグだったね。正直、本番でもあんまり出来の良いものじゃなかった。だけど、私は楽しかったよ。君も私も途轍もなく踊るのが下手だけど、練習するのは面白かった。


 そして、体育祭終わりに聞いたんだっけ。どうして私に話しかけてくれたの?って。君は考えるようにして顎に手を当てて言ったんだ。


「俺は率先して、いじめから誰かを助けられるようなヒーローじゃない。怖いから。でも、救いが全くない人は作りたくない。この前虐められていた奴には仲間がいたけど、お前には仲間がいなかった。仲間が誰もいなくて、敵しかいない奴がどんな顛末を迎えるかは見た事がある。だからお前にそうなって欲しくなくて、きっと俺はお前に話しかけたんだ。どうだ、カッコ悪いだろ?」


 君は自分の事をカッコ悪いと言った。でも、私としてはそういう理由であって良かったと思ったよ。未分不相応であり過ぎない気がして、なんて、本当に私は最悪だね。


 でも、同時になんだか少し寂しい気分がしたかな。こういう状況じゃ無かったら、君とああやって喋る事もなかったのかと考えると、どうにもモヤモヤした気分になるよ。


 君との話はさ、いつしか私の日常の一部分になっていったんだ。なんでだろう、振り返ってみると、あれからはずっと君の事ばかり考えてた気がする。そして、ある日ポツリと湖畔に雫が落ちたみたいに、一つの感情に気づいたんだ。


 君の隣に居たい。


 いざ書いてみると恥ずかしいもんだね。いや、それ以前に私はこの手紙を出すと思うだけで、冷凍庫に飛び込みたくなるくらい顔が火照ってしまうんだけど。


 なんだか、"月が綺麗ですね"みたいにもっと、上手い表現が出来れば良い気がするけど、あいにく、そんな風に洒落た事を書けずにごめんね。君はそういうのを気にするタイプじゃないと思うけどさ。というかよくよく考えたら、さっきの言葉でもちゃんと通じるかわからないな。君は意外と鈍感だし、きちんと書こう。


 君が好きです。本当に。だから、お付き合いしてもらえませんか?


 君といると心が安らぎます、落ち着きます。そして少し………ドキドキします。ふとした瞬間に手を見ると、指先だけでも触れてみたくなります。足音を聞くたびに、君かも、と期待したくなります。そう思うのは、悪人の私でも同じなのです。だから………君が良ければ


 好きになってはもらえないでしょうか。

 

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