敵であり、友であり

 フィーナと散々雑談した後、俺はフィーナと共に魔王が着いたであろうネザーたちの元へ向かっていた。

 向かっている最中も同じように話をしていた。


 俺はこんな人間だっただろうか?

 自分の家族を殺した相手に本音と笑顔を向けて話すことができるような人間だっただろうか?


 そんなことを考えながら歩いていき、初めに見えたのは腕を組みながら見るからに激昂している魔王だった。

 長話が過ぎたな。


「貴様ァ!!ナナシ・バンディット!!このオレ様を待たせた挙句待たせた理由が勇者とお喋りだと!?貴様このオレ様を馬鹿にしているな!?」


 おうおう随分お怒りだ。

 俺はフィーナの方を向くとお前のせいだぞなんとかしろよと目線を送った。


「………なんだい?」

「……役立たずが、だから友達の1人もできねえんだよ」

「なんなのさ!?」


 本当にフィーナは人間関係というものに向いていない。

 よくもまあエルザやメアリーは長年側に入れたものだ。


「いや久しぶりだったからよ、ちょっとぐらいいいだろ?こいつは俺らの敵だけど俺の親友なんだよ、それが気に入らねえならあの話はナシだ」

「ぐっ……まあよい……勇者も早くオレ様の眼前から消えよ、腹わたが煮え繰り返りそうだ」


 魔王は仕方ないと納得はしたもののフィーナを見ているのが耐えられないのかフィーナに早く帰れと促す。

 だが魔王、そいつは人間関係において完全に破綻している勇者だぞ?


「まあまあそう言わないでよ、君とも話したいことがあってここまで着いてきたんだ」

「話?こちらにはないな!!」

「メタルドラゴンの話なんだ、聞かなくてもいいよ。僕が勝手に話すから」


 魔王はこいつは何を言っていると言わんばかりの目で俺を見てくる。

 俺は魔王の方を向きふっと鼻で笑うと目を閉じて知らないフリをした。


「僕は彼を殺したことを後悔していない。彼の亡骸を捨てたことは反省してるけどそれを君に許してもらおうとは思わない」

「………そうか。なるほどな、これが勇者か」

「俺が絆される気持ちがわかったろ?そういうこった」

「でも僕は君に謝ることはできない、僕は人間の勇者だから」



 フィーナがメタルドラゴンのことを『彼』と言った時、魔王の魔力が揺らいだのがわかった。

 魔王なりに少し嬉しかったのだろうな、友を勇者に認められたことが。


「………フン、好きにしろ」

「そうさせてもらうよ」


 魔王はフィーナに顔を向けることなく返事をした。

 フィーナもそれでいいと思ったのか魔王から顔を逸らし再び俺を見た。


「じゃあ僕はいくよ、これ以上はさすがにエルザに怒られちゃうし」

「そう言わずにイツァム・ナーのとこ一緒に行こうぜ?」

「殺されちゃうよ」

「殺すのは俺がやるから身体動かなくなるくらいで頼む」


 俺がそう煽るとフィーナはまったくとため息をつきながら転移するために魔力を練り始めた。


「はいはい……あ、そうだ。メアリーとネザー様、大変だと思うけどナナシのこと頼んだよ?」


 相変わらずのフィーナのお節介だ。

 ネザーとメアリーもまさか話しかけられるとは思っていなかったのか目を丸くしている。


「………よくもまあ貴様の背に刃を突き立てた相手に軽々と話しかけられるものだ」

「……まぁフィーナ様は昔から変わった方でしたからね、言われるまでもありませんけど」


 2人はフィーナの善人っぷりに呆れながらも一応と返事をする。


「………フィーナ様」

「どうしたのメアリー?」


 魔力の精錬をしているフィーナに今度はメアリーから話しかける。


「……あの……エルザさんによろしくお願いします」

「………ナナシにも言ったけどそんな辛いならやめたらいいのに」

「………余計なお世話ですよ」


 やっぱりメアリーもエルザは惜しかったようだ。

 まあ俺にとってのフィーナだと考えれば諦めろなどとそんな軽々しく言えることではないんだけどな。


「それとナーガさん、入学式の時は悪かったね。でも今なら君にもあの時の僕の気持ちが分かるんじゃない?」


 今度はナーガに話しかける。

 正直魔王がイライラし始めているので早く帰って欲しいというのも本音だが。


「まぁそうですね。ナナシくんの口が悪くて失礼なのは合ってたみたいですけど」

「それはまあ確かにそうなんだけど」

「おい」


 軽い突っ込みくらいの気持ちで言ったので別に話の切り口にするつもりはなかったのだがフィーナがこちらを向く。


「……じゃあいくよ」

「あぁ、そのうちまた学園とギルドにも顔出すわ。エルザにはうまく言っといてくれ」

「……自分でなんとかしてよ、じゃあね」


 そう言い残してフィーナは消えていった。



「………アレクサンドにも呆れたものだな。まさか学園にもギルドにも今回の件を報告していないとは」

「よく今のやり取りだけでわかったなお前」


 相変わらずの察しの良さだ、こいつがいれば嘘か本当かを見抜く魔道具は必要ないのでは?と思えてくる。

 また察することを当然のこととしているネザーは人の上に立つに相応しかったんだろうな。

 まあこっち側に来た時点でそんな未来はないんだけどな。


「でもそれ勇者の職務怠慢だよね?」

「いいじゃないですか、私たちに都合の悪いことでもないですし」

「それはそうですけどなんかフィーナさんらしくないなって思います」

「………女同士なんですし私にも普通に敬語使わないでくれてもいいじゃないですか」

「でもメアリーさんは勇者の……あ、もう違んだっけ。じゃあまあいいかな」

「順応の早い人ですね……」


 メアリーが嬉しさと動揺が混じった複雑な表情をしているが満足そうに頷いた。


「で?イツァム・ナーのとこ行くんだろ?」

「直接は転移できん、奴の住む山には溶岩が多すぎてな。転移した場所が溶岩の上になる可能性もある。だから麓の街に転移してそこからは歩きになるな」

「ほう?魔界にも街があるのか?魔人が暮らしていると?」

「いや、暮らしているのは人間だ。貴様ら人間の国で生きることが難しい悪人たちなどが主だがな、中には物好きもいてな……いや行けば分かるな、転移の準備はいいか?」



 俺たちがこくりと頷くと魔王は転移と唱え、俺たちは魔界に行くこととなった。

 そしてその街で俺の運命を大きく変える奴と出会うことをこの時の俺は考えてすらいなかった。

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