再会と再開

「なぁナーガ?まだできねえのか?」

「……ちょっと黙っててナナシ君!もうちょっと……ああっ!?」


 ナーガの声とともに腕の周りを渦巻く二重の層が破裂し、破裂した風と中に含まれていた毒液がナーガの顔にかかる。

 俺がナーガを鍛え始めて一週間が経とうとしていたがナーガはまだ技を完成させられずにいた。


「……もう一回」


 ナーガは誰に言うわけでもなくそう呟くと再び腕に風を纏わせた。

 ナーガの顔は既に毒液によってところどころ溶け、破裂した風によって切り傷がいくつも刻まれていた。


「随分と楽しそうだなナーガ」

「はい!おかげさまで……ああああ!!今いい感じだったのに!!急に話しかけないで!!」


 また失敗。

 どこがいい感じなのかはよく分からないが確かに少しずつだが風を纏い続ける時間は長くなっていた。

 まあやっている本人にしか分からないこともあるのだろう。


「俺が話しかけねえとお前ずっと無言じゃねえか!それにながらで使えるようにならねえと戦いじゃ使いもんにならねえよ」

「それはまあそうだけど……」

「ほら早く次だ次!そろそろネザーとメアリーが来るだろうしな」

「わかってるってば!もう急に話しかけるのやめてよ!?」


 そしてまたナーガは腕に風を纏わせた。

 俺も暇なので似たように身体のあらゆるところから魔力を解放してその魔力を凝縮して武器にする練習をはじめた。

 それにしても随分と話し方が砕けたものだ、奥ゆかしい敬語はどこへやら、おそらくこっちが素なのだろうし俺は別にいいんだが。


「……この前フィーナとエルザが学園の裏庭でキスしてたんだけどさ」

「んええええ!?!?!?」


 ドン!!と先ほどまでとは比べ物にならないレベルの爆発音が響き渡る。

 発動後でも本人が動揺した度合いでここまで魔力ってのは変わるものなのか。

 やはりまだ魔力について学ぶことは多いな。


「嘘だ嘘、フィーナがそんな事するわけねえだろ」

「心臓止まるかと思った……なんのつもり?」

「いやあの2人仲良いしそろそろくっついたんじゃねえかなって恋話でもしようかと思ってな」

「絶対話の切り口間違ってるよそれ……」

「ほら続けろ続けろ」

「………チッ」


 おお、まさか舌打ちできるほど仲が縮まっていたとは。

 ある意味ナーガとは仲良くなれそうだ、フィーナの次にってとこだけどな。


「……殺すつもりなんじゃないの?フィーナさんの事」

「ああ、そのつもりだぜ?なんだ急に」

「殺すつもりの相手の恋愛事情なんかよく気にしてられるよね」


 なるほど、まあ確かに考えてみればその通りだ。

 しかし長くはない付き合いとは言え1日の探す時間は長かった相手の事だからな。


「あーそう言うことか、まあ前にも言ったけど親友だからな。気になるとこは気になるんだよな」

「……本当に殺せるの?」

「それ以外に生きる目的がねえんだよ、それ以外の生きる目的を作る気もねえ」

「……ナナシ君ってもっと強い人だと思ってたよ」

「あ?」


 ナーガはそう言うと再び練習を始めた。

 どういう意味だそれは、俺が弱いってそのままの意味か?

 別に怒ってるわけじゃないんだがどうも気になる。


「戻ったぞバンディット……ほう、腕に風を重ねて纏わせておるのか。なるほど、内部に発生させた毒液が肉を削ぎながら直接体内に注入されるわけか」

「おうネザー、相変わらずの察しの良さだな。まあまだ未完成だけど……メアリーはなんだそれ?死んでんのか?」

「かろうじて生きてますよ、ローブはボロボロですけど」


 戻ってきた2人を見て最初に思ったことはメアリーに対する違和感だった。

 明らかに刺された跡や切られた跡があるにも関わらずメアリーがいつも通りすぎる。

 ナーガの怪我の跡に対してメアリーは綺麗すぎるのだ。

 ボロボロの衣服に対して肌に全く汚れがない。


「……へえ、どうだネザー?メアリーはやれそうか?」

「ふむ、まだ強いというわけでは決してないが十分だろう。単体での戦いでも負けることはないだろうな」


 ネザーの横でメアリーが渾身のドヤ顔で俺を見ているのがなんとも腹立たしい。

 だがそれはつまりあのネザーがメアリーを戦力として見たということだ。


「して?貴様の方はどうなのだ?あれを見る限り戦力にはならなさそうだがな」

「そりゃそうだろ、今までそれを求められてこなかった奴だぞ?俺の魔力に耐えられるとも思えないしな」

「あらあらあら?ナーガさんはまだ戦力外なんですか?」


 メアリーが珍しくナーガを煽りにかかっているがナーガの反応はない。


「………まあ馴染んできた、って感じだろ?」

「うむ、今は腕だけにしか風の付与をしていないがいずれ全身にと考えると評価をせざるを得ないな」


 ナーガの右腕には静かに、しかし確かに練りに練られた風の魔力を凝縮した所々毒液で暗い色をした風が纏われていた。

 そしてナーガはゆっくり近くの大木に近づいていく。

 何をしようとしているのかを考えるまでもない。

 ようやくナーガが求めていたものが自分の腕にある。

 幼い子供と同じ、ただ試してみたいのだ。



 ガリガリガリガリ!!!


 ナーガがその腕で大木を殴るとまるでドリルを勢いよく突っ込んだような音が鳴り響く。

 大木はまだ貫かれることもなければ倒れることなく、幹に大きなクレーターを開けただけだった。

 ナーガがこっちに歩いてきたので俺は聞いた。


「少し強くなれた気分はどうだ?」


「……まだ私は強くなれるよね?」


 そう言ったナーガの背後で大木が倒れる。

 大木はクレーターの周りからナーガの毒で腐ったのだ。

 倒れた大木もまだ根から生えている部分も少しずつ腐食し、ボロボロと崩れていく。


「……そりゃお前次第だろ雑魚」


 ここで満足されては困るので敢えて煽ったのだがナーガの反応は考えていたことと全く違うものだった。



「そっか……雑魚ならまだたくさん強くなれるね」



 ……なるほど、嫉妬の毒蛇とはよく言ったものだ。

 ナーガを支えているのは強さに対する欲、他の追随を許さない強さへの嫉妬。

 こいつのまるで飢餓のような欲はまだ止まりはしないだろう。

 自分より強い者がいるのならそれに嫉妬し、その上を目指す。


 少なくとも現状俺たちの中でのメインの戦力はネザーだ。

 俺の魔力に耐えながら広い視野で敵を見て反応ができる。

 ネザーの俺たちの中での立ち位置がこの先変わることはないだろう。


 だがもし、いつかネザーの前に出て我先にと先陣を切る奴がいるのなら。

 それは恐らくこのナーガ・ディオネになるのだろう。

 ナーガに嫉妬する相手がいなくなるまできっとこいつは強さを求める。




 そして嫉妬する相手がいなくなった時、ナーガはこの世界で最強とかいうやつになるのだろうな。

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