悪の僧侶の自己破壊

どうして?どうして君がそこにいる?

 どうして勇者のパーティーの君が魔王を庇う?


「さぁ?どういうつもりなんでしょうね?」

「……話は後だよメアリー、まずは魔王を殺してからだ」

「でしたら話が先になりますねフィーナ様、魔王は殺させません」

「…………君はそっち側なんだね、メアリー」

「はい、私はこっち側ですよフィーナ様」


 こんな事をさせるのは1人しかいない。

 そしてメアリーはそいつの味方だという事だ。

 メアリーを魔王の盾にする事で僕が退くと考えてるのかな?

 ………随分と虚仮にされたものだ。



「今すぐに僕の目の前から消えるなら全て忘れよう、でもそうしないなら……僕は君を殺さなくちゃいけないね」

「ふふ、友達が欲しいといい目の前から消えろといいフィーナ様の願いはことごとく叶いませんね?」

「………君が僕に勝てるとでも思ってるのかな?」



 -----ガッ


 返事を返すこともなくメアリーが杖で僕の頬を殴った。

 唇が切れたのか口の端から血が流れる。

 でも所詮その程度、僧侶であり回復や補助を得意とするメアリーの攻撃なんてダメージにならない。


「まだまだですっ!!」


 メアリーは杖を器用に振り回しながら僕に攻撃している。

 ……貧弱な攻撃だ、避けるまでもないダメージ。

 しかし何故かメアリーは攻撃をやめようとしない。

 どうやら本当にこの作戦で僕が退くと思っているようだね。



 ------ドゴッ!!


 ……………?

 なんだ今のダメージは?明らかに今までの攻撃より威力が増している。

 強化を使った素振りはない、誰かがメアリーに強化を使ったのか?

 ………いや………これはまさか……?

 僕はメアリーの攻撃をようやく回避した。

 するとメアリーは笑みを浮かべながら僕に問い掛ける。



「あ、何か気付いちゃいましたか?」

「………何をしたんだメアリー、君は自己強化の魔法は使えなかったはずなのに」

「はぁい、その通りですよ。だから勇者のパーティーで私だけ弱いままでしたからね。フィーナ様とエルザさんはどんどん強くなっていったのに」

「………君は弱くなんてなかった、回復と補助で」

「私をポーションか何かだとでも思ってるんですか?」


 メアリーは僕の言葉を遮り、僕を睨みつけながら言う。


「私だけずっと弱いままでした、フィーナ様たちと一緒にいたせいで。でもナナシさんと一緒にいる為にはそうじゃダメだったんです。今の貴方なら分かりますよね?エルザさん」

「…………くっ………メア……リ……」

「エルザ!?」


 気付くとエルザは膝を着いていた。

 すぐに魔力感知をすると自分には向けられていない悍しい魔力に気付く。

 ………あぁ、やっぱり君だよね。

 感知した先にいたのはナナシ、僕の親友だった。

 あそこにいるのが魔物ならどれほど喜んだことだろう、でも違う。あそこにいるのはナナシ・バンディットだ。



「………ナナシさんの魔法は戦闘向きではありませんでした。解放すれば敵味方問わず動きを止め、魔力を乱す攻撃的な補助でした。分かりますよねフィーナ様、ナナシさんの隣には回復も補助もいらないんですよ」

「…………でも君は自己強化が出来なかったじゃないか」

「ええ、だから単純な話ですよ。魔法の誓約をしたのです」


 …………そうだよね、そうだと思った。

 そうでもしなければ使えない魔法が使えるようになる事などありえないのだから。

 しかしそのタイプの魔法の誓約は条件がかなり厳しい。

 まず使えるようになる為の条件の他に使う為の条件が必要になる。

 ………メアリーは何を捨てた?



「ふふ、敵になっても私が失った物が気になってくれるんですねフィーナ様」

「………君を敵だなんて思ってないさ」

「そうですか、でもそう思ってもらいます。『私は貴方の敵です』」



 ------ブワッ


 メアリーを中心に魔力によって生じた風が吹いた。

 メアリーがそう言った瞬間、メアリーの魔力が増幅したのだ。



「………あぁ、やっと条件が満たせました」

「………どういう事だ……メアリー」

「ふふ、やっと動揺してくれましたねフィーナ様。誓約の条件、知りたいですか?」

「………………」

「知りたいけど聞いたら後悔する気がして聞けない、とでもいったところですかね?」

「………聞かせてもらうよ、君はどんな誓約でどんな能力を得たんだい?」




「【サディスティックバッファー】、相手に攻撃を当てれば当てるほど身体能力と魔力が強化されるという能力です。



 誓約は2つ、どちらもそう難しいものではないです。

『私の敵、もしくはナナシさんの敵にしか使えない』

『全ての白魔法の使用不可』



 分かりますよねフィーナ様?私はもう僧侶ではないのですよ」

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