勇者のパーティVS魔王

「おうおう随分面白い事なってんじゃねえかよ」


 目の前で繰り広げられていた魔王とフィーナの戦いを見ながらナナシは呟いた。

 友を正義に殺された魔王と魔王の友を殺した勇者。


 ナナシの頭を過去がよぎる。

 家族を殺された自分と家族を殺したフィーナ。

 魔王と自分の関係に妙な親近感のようなものを持ちながらナナシは2人のやり取りを見ていた。


「それにしてもメタルドラゴンなんか全身素材になりそうな名前してるのになぁ、なんで捨てていったんだよ?」

「まぁ場所と量と技術の問題ですね、何度も簡単に行き来出来るような近くて安全な場所でもなかったですしドラゴンというだけあって大きさもキングオーガの3倍はありましたし。あとその素材を剥ぎ取るだけの技術がなかったんですよ、額の鱗だけは頑張ったんですけどね」


 ナナシとメアリーは淡々と話をしているがそれに対してフィーナと魔王は沈黙が続いている。

 フィーナはまだ魔王の問いに答えられていなかった。


 それが半年ほどのフィーナとの関係で穏やかになりかけていた怒りを刺激する。

『お前はその問いに答えられないのか?

 その問いに答えられないような考えで俺の家族も殺したのか?』

 フィーナの沈黙が続くほどナナシの表情が険しくなっていく。

 そしてメアリーもそれに気付いていた。



「思い出しますか?山賊達のことを」

「………まぁな、話は似たようなもんだし。いつかフィーナとこうなるっていうのを見せられてる気分だ」

「ふむ、貴様も感傷に浸る事があるのだな」


 いつの間にかナナシの横にはネザーがいた。

 絶対に来ると言っていたナナシだったが急なら現れるネザーに驚きを隠せなかった。


「………来たなら一声かけたらどうだ?」

「くはは、貴様なら分かるだろうバンディット。不意打ちというのはなかなか面白いものだ」

「やられる側じゃなけりゃあな」


 ネザーとそんな話をしているとフィーナがポツポツと話を始めた。


「僕は勇者だ、魔物を滅ぼし魔王を倒す事が僕の使命だ。善悪なんて関係ない、魔は僕の敵だ」


 フィーナははっきりとそう言い切った。

 フィーナ自身も本当にそう思っているし、そう信じて生きてきた。

 しかし今のこの状況で誰がその言葉に納得するだろう?


「……オレ様は貴様を評価し過ぎていたようだなフィーナ・アレクサンド。言葉を返そう、もう貴様と話す事は無くなった」

「それは何よりだよ。……最後に一つ、君の名前を聞いてもいいかい?覚えておきたいんだ」


 今度は魔王の方が少し沈黙する。

 魔王は腰に構えた魔剣を取り出すと一言だけ発した。




------喜べ、オレ様が魔王だ。




「…………え?」



 魔王はその動揺を見逃さない。

 フィーナの背後に転移し、後ろから斬りつける。

 動揺に思考も足も止まっていたフィーナはそれを避ける事ができず、背を斬られて剣圧によって吹き飛ばされる。


「ぐっ……!!」

「フィーナ!!!」


 魔王の剣撃によって吹き飛ばされたフィーナにエルザが駆け寄る。

 傷はそこまで深くない、しかしフィーナを回復しながら魔王と戦える程の力量の差は魔王とエルザにはない。


「だい……じょうぶだよ……」


 フィーナは立ち上がり剣を構えた。

 フィーナは得意の白魔法で回復と強化を同時に行いながら魔王の次の攻撃に備えている。


 魔王は回復などさせるつもりもないのだろう。

 フィーナに攻撃を続けている。


「【魔炎】」


 魔王の掌から人間の頭程のサイズの青黒い炎が次々と増えていく。

 ……10……20……30……

 魔王は魔剣でフィーナと戦いながらそれをどんどん増やしていく。


「【ボルカニックカノン】!!」


 エルザの背後に大きな魔法陣が現れるとそこから4本程の太い光線が発射される。


 魔王はそれを躱しつつ回避できない光線には【魔炎】を10個ほどぶつけて相殺していく。

 しかし【魔炎】はそれを上回るスピードで増えていく。


 フィーナも今は魔王と剣で対等に戦ってはいるが斬り付けられた背中からは回復しているとはいえ夥しい血が流れている。

 フィーナが膝を着くのは時間の問題だろう。


 そしてエルザも次々と増えていく【魔炎】に絶望を感じていた。

 このままでは勝てない、フィーナと2人で戦ってそれでも魔法の牽制は追いつかない。


「メアリー……早く来て……!!」


 エルザは焦燥に駆られながらナナシと共に2人の戦いを眺めているメアリーを呼ぶのだった。

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