魔の心

「ナナシさん、今の魔力感じましたか?」

「あぁ、かなり強い魔力だったな。フィーナが行くだろうし俺らもいくか」

「はぁい、まあ私は戦いませんけどね。ネザーさんとナーガさんも呼びます?」

「ネザーは勝手に来るだろ、ナーガは呼んでも来ないだろうしな。んじゃ行くから転移しろ」

「はぁい」


 時同じくしてナナシとメアリーも魔力を感じ、その場所に向かおうとしていた。

 もちろん戦う気はなく、ナナシはフィーナの力を見定めるだけのつもりだった。


 ーーーーー


「ほう、最初に見つかったのは貴様達か。フィーナと共にいた男だな?」


 魔王は既にアルメリア王国付近の草原まで来ており、不幸にも最初に見つかったのはガリアとリーの2人だった。


「おいおい……なんだこの魔力……やれるかリー?」

「いえ……逃げる方が無難かと。それかフィーナ様が来るまで耐え凌ぐ……まぁ無理でしょうね」


 2人はまるで冷静に見えるが足が動かず、ほとんど死を覚悟している。

 それを見て魔王は感心する、恐怖に対して怯え屈するという選択をしない人間に。


「オレ様を前にしてその態度は褒めるべきなのだろうな人間よ、だが愚かだ。貴様達にできるのは逃げるでも凌ぐでもない、ただ、オレ様の前に跪き首を差し出すことだ」


 魔王は2人に向かって淡々と話す。

 話しているのは時間稼ぎ、しかし時間を稼いでいるのは2人の方ではなく魔王の方だった。


 待っているのだ、フィーナ・アレクサンドを。

 フィーナに仲間2人の死際を見せる為。

 少なくともフィーナが2人の魔力を感じ、2人の魔力が消えるのを感じる距離に来るまで。

 2人はまるでフィーナが来ることが命綱のように考えるがそうではない、フィーナが来た瞬間2人は殺される。


 そして勇者としてかなりの戦闘力を誇るフィーナがここに辿り着くのは当然の事ながら早い。



 ------きた。



 魔王はフィーナの魔力を感じた瞬間、ガリアの肩と顔を掴み、それらを千切った。

 一瞬、それを見たリーが恐怖に動きが止まる。

 魔王はガリアの頭を投げ捨てるとリーの顔を掴む。



「……一足遅かったな、勇者」



 現れてしまったフィーナが見たものは首のないガリアと顔を掴まれもがいているリーだった。

 フィーナは怒りに震えながら魔王に言う。


「その人を離してくれ」

「あぁ、よいぞ」


 魔王はあっさりと返事をしてリーの頭を握り潰した。


「………!!」

「おっと自分から離れおったわ」


 魔王はニヤつきながらフィーナに話しかける。


「それにしても勇者フィーナ・アレクサンドよ、流石と言える立派な装備だな」

「……君と話すことなんてない!!」


 魔王はまるで友人のようにフィーナに話しかけるが仲間を2人殺されたフィーナはそれどころではない。

 フィーナは剣に手を掛けると魔王に斬りかかる。


「まぁそう言うな勇者よ、貴様がオレ様に話す事はなくともオレ様が貴様に話す事はあるのだ」


 魔王はフィーナの剣撃をあっさりと躱し話を続ける。



「まあそう怒り狂うな勇者よ、この2人はしっかり持ち帰り魔物の餌にしてやるからな」

「‥……ふざけるな!!!そんな事はさせない!!!」






「ふざけているのは貴様の方だ!!!」



 瞬間、魔王の怒号と共に空気が震える。


「餌にする事をふざけるなだと?ふざけているのはどちらだ勇者よ?随分立派な装備だな?その立派な盾、その素材はなんだ?」

「………これはメタルドラゴンだよ、メタルドラゴンの最も硬い額の鱗だ」



 それを言うと魔王は目を瞑った。

 大きく息を吸うとそれを吐き出し目を開く。


「……知っておるわ、メタルドラゴンからの知らせがなくなって奴を探すのに苦労したからな」

「……どういうことだい?」



 フィーナはそう聞き返すが急に魔王が攻撃に出る。

 魔力を纏った拳で殴りかかってくる魔王の拳をフィーナは盾で防いだ。


「……話は終わりかい?」

「…………魔物は無意味に人間を殺す事はしない。食べる為に、生きるために殺すのだ。食わぬ場所などない、硬い骨も糞の詰まった臓物もオレ様達は全て食べる」


「……急になんの話かな?」

「それに比べて貴様達はどうだ?なぜメタルドラゴンを殺した?あの者が人間の里でも襲ったか?いやそんなわけがない、土や山を食うメタルドラゴンが人里を襲う理由はないだろうしな」


 淡々と話す魔王の話にフィーナは耳を傾ける。

 これは聞かなければならない話だと思ったからだ。


「まあ素材であろうな、メタルドラゴンの厚い鱗は頑丈で削る事で鱗の内部の更に硬い部分を使う事ができる。別にそれを咎めるつもりはない、我々も人間の衣服や装飾品は奪う」

「‥………」





「して勇者よ、メタルドラゴンの他の部位はどうした?」



 そう言うと魔王はおぞましい魔力を纏った。

 激しい怒りと少しの悲しみの込められた魔力。


「………それは」


 フィーナが話そうとすると魔王がそれに被せるように叫ぶ


「棄てたのだろう、貴様は!!」



「貴様達はメタルドラゴンの額の鱗だけを剥いで奴を棄てたのだ!!!貴様達にはわからないだろうな!!人間の言葉しか理解しない貴様達に!!奴がどんな性格だったかなど分かるまい!!!奴は真っ直ぐな性格をしておった、強い者との戦いを好み弱い者への助けを拒まなかった!!」



「許せるものか………山に捨てられ生命活動をやめ煮ても焼いても食えぬ奴の腐った亡骸がオレ様に言うのだ!!強い者に負けたのだから満足だと……ふざけた事をぬかしおる……『アイツ』はいつもそうなのだ!!オレ様に負けた後もいつも満足そうな顔をするのだ!!!」



「………!!」


 フィーナの心を揺らしたのは魔王が咄嗟に発した『アイツ』という言葉。

 メタルドラゴンはこの魔物にとって友だったのかもしれない、それこそ自分にとってのナナシのような。



 フィーナは目の前にいる相手が魔王だという事に気づいていない。

 しかし目の前にいる魔物は目から涙を流しながらフィーナに訴える。


「さぞ讃えられ誇らしかったのであろうな勇者よ!!オレ様の友を殺して捨てた勇者よ!!民の前でアイツの額の鱗は掲げたか!?正義の勇者だとか言ったな!?答えろ勇者よ!!




 人間しか守らぬ貴様に正義を名乗る資格があるのか!?」


 その本気の言葉にフィーナもエルザも目を合わせる事が出来なかったのだった。

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