正義に足ると言うならば
------フィーナ、話があるわ
ナナシ達が依頼を受けて向かった後、宿に戻り1人休んでいた僕の部屋にエルザが来た。
話というのは大体想像がつく、ナナシの事で間違いないのだろう。
「うん、なんだい?」
「……とぼけないでフィーナ、前にも言ったわよね?ナナシは危険すぎるって。今日のあのナナシの言葉はあたし達への牽制よ」
「……あの言葉が牽制だとわかるって事はエルザもナナシが山賊達に捕われていたってわけじゃないって分かってるって事だよね?ならなんであの馬車の中ででも僕達を止めなかったんだい?」
僕もエルザにそうは言いつつも気持ちはわかる。
ナナシなら改心してくれると思っていた。
ナナシなら改心してくれると信じていた。
「……相手が悪なら殺すだけがあたし達の役割じゃないでしょ、フワッとした言い方しか出来ないけどいい人になってくれると思ったのよ。なんとなく」
「……うん、わかるよ。本当にわかる。ならエルザと僕の違いはそれを諦めたかそうでないかだけだね」
「ナナシだけならまだ諦めてなかったと思うわ、でもメアリーもおかしくなってきてる……なんであの魔力を持つナナシの横に平然といれるのよ!?」
「メアリーは僕らの仲間だよ、きっと何か考えがあるんじゃないかな?」
エルザと話をしながら改めて思う。
僕はいつから仲間に平気で嘘をつけるようになったのだろう?
ナナシの事を諦めていないのだってメアリーの事だって本気で思っていない。
ただ僕がそう思いたいからそう言うだけ。
きっともう僕らは引き返せないのだ。
僕らはやはり戦わなければならないのだ。
なんて悲しいことなんだろう。
でもなんだろう、この胸に湧く気持ちは。
まるでこの僕がナナシと本気で戦える事を待っていたかのような気持ち。
ナナシでは好敵手になどなり得ないと思っていたのに。
ナナシは大貴族ネザー・アルメリアに見染められ、緋剣に勝った。
ナナシはそれがまるで普通の事のようにしているがこんな事があり得るのだろうかと何度思った事か。
僕は勇者として今までたくさんの悪を見てきた。
絶対に許せないような奴らもいたし、死んでも許されないような奴らもいた。
いや、悪達にはそんな奴らしかいなかった。
でもナナシは違う、ナナシだけは違うのだ。
許したい悪であり、許されるためなんかに死んで欲しくない悪。
それが勇者として間違っているとしても僕はそうしたいのだ。
「エルザ、ナナシの事は僕に任せて欲しいんだ」
「……勇者の立場だけじゃなくナナシの事まで背負うつもりなの?」
「ナナシの事を背負うなんて思った事は一度だってないよ、ナナシは僕の親友なんだから。いつかきっともう一度横に並んで歩きたいんだ」
「……貴方がそういうならあたしはもう何も言わないわ。でもこれだけは許して欲しいの、もしナナシがあたし達に牙を剥いてきたら、あたしは迷う事なくナナシを殺すわ」
「いいよって言っておくけどその必要はないよエルザ、その時が来たのならナナシは僕が殺すから」
「………本当に貴方にそれができるの?」
ナナシと仲良くなり近づくにつれてエルザの問いに答えられない事が増えてきた。
でもこの問いにだけは僕はこう答えなければならない。
「できるよ」
これも嘘なのだろうか?
何度自分に問い掛けたかわからない問い。
ナナシを殺せるか?ナナシの敵になれるか?
その度にナナシの顔が脳裏をよぎるのだ。
ニヤニヤしながら僕を揶揄ういやらしい顔。
悪巧みをしているのがすぐに分かる真面目そうな顔。
くだらない雑談をしている時の笑顔。
その表情に僕は剣を突き立てられるのだろうか?
ナナシは僕に剣を突き立てられるのだろうか?
ーーーーザワッ
そんな考え事などお構いなしに災厄は突如として訪れる。
不意に感じたナナシとはまるで違う魔の魔力。
かつて戦った魔王の使いとは比べ物にならない程の魔力。
「フィーナ!!!!」
「わかってる!!すぐに魔力の場所に向かおう!!メアリーも向かうはずだよ!!!」
僕はこの時知らなかった。
この戦いが僕の人生を、勇者としての人生を大きく捻じ曲げる楔になるという事を。
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