完全超悪
「ナナシ・バンディット、お前は今日はもう模擬戦に出なくてもいい。お前の力は十分に分かった。メアリー・ロッドとネザー・アルメリアなら2人でも問題はないだろう」
と言う教師の一言で結局俺はまともに戦う事なく模擬戦を終えた。
自分の力を試す事が出来るはずの場と期待していただけに失望も大きい。
「くはは!そう落ち込む事はない!大したものであったぞバンディットよ!」
「クソが……どいつもこいつも日和やがって……」
「まぁまぁ、仕方がありませんよ。それにあんな魔人と小動物の戦いみたいなものを見せられてるこっちの身にもなってください」
せっかく学園に来たのにこれでは何の意味もない。
常識を学ぶだけならば他でも構わない。
「ふむ、ではバンディットよ。僕と一対一の模擬戦をやると言うのはどうだ?」
「マジでか!?」
「あぁ、先程は場外から見ていたがアレを対面で見られるのなら是非もない。カイン・マクダネル教師、構わないだろうか?」
「お前たちが望んで戦うのなら私から止める事はないよ。ナナシ・バンディットには申し訳ないと思っているしな」
「そりゃありがてえ!早速やろうぜ!おらどけクソ共が!!」
罵声を飛ばしながら魔力を解放し先程と同じ程度に黒魔法を纏う。
舞台にいた生徒達は一言の文句も言わず、ただ悲鳴をあげながら場外へ走って逃げるだけだった。
「さぁ早くやろうぜネザー!!オレはもう限界だっての!!」
「いいだろう!!かかってくるがいいバンディット!!」
ネザーも上等だと言わんばかりに舞台に飛び入る。
「いいんだよなぁ!?お前が言い出したんだぜネザー!ビビって逃げんのはナシだぜ!?」
「くはは!誰に向かって言っているバンディット!貴様の魔力など討ち果たしてくれるわ!!」
雑魚共がビビリ散らかして即降参した程度の黒魔法は纏っているがネザーは少しも引く事がない。
「バンディットよ、まさかその黒魔法が本気ではあるまい!貴様の本気、見せてみよ!!」
「はっ!それで降参されちゃたまんねえからよ、出させてみろよ?」
「よい……よいぞバンディット!そこまで息を撒いたのだ!つまらぬ結果など許さぬ!ゆくぞ!!」
先手はネザー、足に魔力を纏うと俺の周りを走り出す。
手をだらんと垂らしながら2周、3周とぐるぐると周る。
俺は警戒の念を緩めない。
ネザーが何かを放る。
「っ!?なんだぁ!?」
ギリギリで跳ねて避け、放ったものを見るとそれは剣だった。
地面に刺さる事なく無造作に地面に転がっている。
「どこを見ている!」
はっとして、ネザーに視線を戻すとまた何かを放る。
今度は槍、なるほど地面の土と鉄から生成したのか。
「でも当たらなきゃ怖くねえよ!!」
俺はぐるぐると周るネザーに突っ込む。
「くはは!甘いわ!」
ネザーに近付こうとしたその時、足元から鋭い槍が飛び出てくる。
「ってぇ!?」
その槍は俺の右足に刺さりはしなかったものの、ふくらはぎの肉を削ぎ取った。
「ただ武器を周りから放るだけの為にぐるぐると周るわけがなかろう!降参してもよいのだぞ?僕は物足りないがな!!」
そうは言うもののネザーの目はそうは言っていない。
貴様がこの程度で降参するはずなど無いだろう、当然まだやるのだろう?と言う期待と愉悦を含む目。
「くはは!目を見れば分かる!貴様はまだ楽しみ足りないのだろう!?さぁ来るがいいバンディット!」
……どうやら俺もネザーと同じような目をしているらしい。
「上等だぜネザー!魔力解放!」
俺はさらに魔力を解放し、さらに大きな黒魔法を纏う。
ネザーは驚いた顔をして手を顔に当て俯く。
「……くく」
「どうしたよネザー?ビビっちまったか?」
「くははははは!!そうか!ここまでかバンディット!!貴様は本当に面白い!!」
そうだよなネザー、お前は戦ってくれるよな。
だからこそ見せた価値がある。
場外では黒魔法に耐えられず、気を失う奴も出てきている。
だが俺の目の前に立つこいつは、これだけの悪意と殺意を込めた魔力を纏う俺と睨みを効かせ合い、それでも尚口角を吊り上げている。
「おら!いつまでも笑ってんなよネザー!」
俺は再びネザーに向かって走り出す。
地面に仕掛けていた槍や剣や刺が突き出て俺の身体を掠めていく。
だが構いはしない。
せっかく戦えるのだ、痛みを交え、魔法を交えた戦いが出来るのだ。
「くはは!御構い無しに突っ込んでくるかバンディット!ならばその心意気、買わねばならんな!!」
ネザーは地面から細い剣を二本作り出し、俺に向かってくる。
俺は解放した黒魔法を右手に集め、それを白魔法で強化してネザーに叩きつける。
「ぬうううううう!!」
ネザーはそれを右の剣でいなし、反撃に出る。
左の剣で俺の喉を狙う。
「っとぉ!」
こいつ、マジで強い。
一般人なら気を失う程の俺の魔力を目の前にして、最善の防御を行い、反撃のチャンスは逃がさない。
「どうしたバンディット、まさか貴様、これで終わりなどとは言うまいな?」
「……上等だ……見せてやるよ!!」
俺はさらに魔力を練り、解放しようとする。
「ナナシさん!!!!!!」
場外から怒号が飛ぶ。
怒号の先には俺を睨みつけるメアリー。
やりすぎか。
「あー……悪いなネザー。どうやら本気は駄目らしい」
「……ふむ、そのようであるな。仕方がない、仕方はないがではこれで終わりというわけにはいくまい!」
「当然だろ!本気なんか出さなくてもてめえなんかぶっ殺してやらぁ!!」
「くはは!!やってみよ!!!」
まぁ教師とかにバレなければいいだろう。
試したい事は何個かあるが人間相手に1番試しておきたいのがある。
「ネザー、お前の力に敬意を評して一つだけ見せてやる。ある意味での俺の本気だぜ」
「ほう……それは楽しみだ!!」
メアリーが何をやる気だという目で見ているが安心しろ。
これ以上解放はしない。
解放し右手に集めていた魔力を全て目に集める。
そしてただ睨む。
「【完全超悪・魔眼】」
対面した相手を萎縮させるのに目力以上に適した部分はない。
山賊時代に狩りをしていた時も、前の世界で喧嘩をしていた時も。
込められるだけの悪意のみを魔力に練り込み、それを目に集中させる。
ただただ悪意のみを込めた視線をただ一点、ネザーに飛ばす。
フィーナにすらまだ試していない黒魔法の一つ。
普段は悪意や殺意や憎悪といった負の感情を込めてある魔力だが、ただ悪意のみを込める。
圧倒的な悪意の前にネザーレベルの奴がどうなるか。
これも学園で試したかったうちの一つである。
「どうだネザー?まだやれるか?」
俺はネザーの目を見ながら問い掛ける。
「…む?……く……くは……ふむ……魔力が定…ま……らん……。足……も…こ……れは…いかん……な……ま……いっ……た」
声が出せるのは気に入らないところだが概ね成功といったところだろう。
まあ出来る事ならもっとやり合いたかったところではあるが、これ以上はメアリーの逆鱗に触れるしな。
「俺の勝ちだな。だが想像以上だったぜ、ネザー・アルメリア」
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