悪の解放

闘技場に辿り着くと既に多くの三人一組が話をしていた。

この結果がこの先どう生きるかも聞いていないのに必死なものだ。

模擬戦の相手はくじで決めるらしいので今うちの代表のネザーが教師の元へ行っている。


「ナナシさん、一応聞きますが分かってますよね?」

「魔力の解放は抑えろってんだろ?わかってるっての」

「もしあの魔力がナナシさんの物だと分かったらフィーナ様だってナナシさんの本質に気付いてもおかしくないんです。今は絶対に隠しておくべきですよ」

「……フィーナが気付く?面白い事言うじゃねえかメアリー」

「いくら親友だと言ってもあの魔力を見たら気付かれてもおかしくないですよ」

「ちげえよ馬鹿。勇者として人一倍悪に敏感なあいつが気付いてないわけねえだろ。アイツは気付いてるさ、夜のあの魔力が俺のだってよ」

「……それは本当ですか?」

「そりゃそうだろ、じゃなきゃ勇者のアイツが宿にいるわけがねえ」

「あんな魔力だと知っていたらフィーナ様だって流石にナナシさんを捕らえていると思うのですが……」

「アイツは俺を信じてんのさ、俺がアイツを信じてんのと一緒でな。俺が心を入れ替えて、本当の友達になれるって」



そう、アイツは信じている。

この俺を。

山賊の皆ですら気付いた俺の悪意の魔力にアイツが気付かないわけがない。



「アイツは俺を悪いだけの奴なんかじゃないって思ってる。それが間違ってるってのも分かってんのかもしれねぇ。それでも信じたいのさ、俺がフィーナを本当に友達だと思ってる事も知ってるからな」

「……良心が痛みませんか?」

「……そんなもん俺にはねえよ、つまんねえ事聞くんじゃねえメアリー」

「そうですね」


話しているうちにネザーが戻ってきた。


「決まったぞ、僕たちの相手はあそこにいる3人だ。赤魔法使いリオ・グランデ、黒魔法使いネネカ・リオン、白魔法使いリナバード。対した奴らではないな、つまらんハズレだ」


「ハズレはお前のくじ運のせいだろネザー」

「喧しいぞバンディット、作戦はどうする」

「あ?大した事ねえんだろ?必要ねえよ、蛮兵に軍略いらずってな」

「ほう、そこまで言うのなら貴様1人でやってみるか」

「お、いいのかよ?ちゃんと対人で魔力を使ったことがなくてな。助かるぜ」

「構わん、やってみろ。このネザー・アルメリア自ら貴様を見定めてやろう」

「ナナシさん……?」

「うるせえなクソ僧侶、大丈夫だっつってんだろ殺すぞ」

「流石に口が悪いぞバンディット」

「いえ大丈夫です、いつもの事なので」


ネザーが汚物を見るような目で俺を見ている。

そんな事よりも模擬戦だ。


ずっと試したかった。

普段フィーナとやっている模擬戦では白魔法での強化ばかりで黒魔法を使う事はなかったし。

メアリーに見せた時も中途半端だった。


やっと人相手に使うことが出来る。

この時をどれだけ待ちわびた事か。



我先にと闘技場の舞台へ1人であがると、相手の男が話しかけてくる。


「なぁ、まさかとは思うんだが1人でやるつもりか?」

「あぁ、そのつもりだ。何か問題でもあんのか?」

「……それはオレらを舐めてるって事でいいんだな?」

「まさか、妥当な評価だと思ってるぜ?俺だけの評価じゃなくて俺たち3人の評価さ」

「……死んでも知らねえぞ勇者の親友」

「それみんな知ってんのかよ」


教師が舞台へ上がり、模擬戦を始める合図を出そうとする。


「ナナシ・バンディット。本当に1人でいいんだな?」

「あぁ、構わねえよ」

「……教師には敬語を使いなさい」

「はいはい」


俺がダメだと察したのか、ため息をついて手を挙げる。


「……はぁ、ではリオ・グランデチーム対ネザー・アルメリアチームの模擬戦を始める!殺さなければ何をしてもいい!始め!!」


始まった。

口角が上がっているのがわかる。

リオが魔力を練り、顔と同じくらいの大きさの炎の玉が手に作り出す。


早速だ、試させてもらうぜ。

俺も魔力を練り始める。

あの時より抑えろ。あの時のさらに1割強まで抑えろ。


俺の身体から魔力が出ているのが分かる。

バン!!!という轟音が響く

目の前でリオが作り出したはず火の玉が爆発している。


「……あ?」

「……お、お前!なんだよそれ!?なんでそんな魔力……お前……何やって……」


レオはすでに尻餅を着いて震えている。

後ろにいる後衛2人もガタガタと震えながらまるで化け物でも見るような目でこっちを見ている。


「……おいおい、せっかくの模擬戦だぜ?ちょっとくらい楽しもうぜ?殺したりはしねーからよ」


俺は3人の方は歩みを進める。

リオが必死に魔力を練ろうとしているが、とてもそんな精神状況ではないのだろう。

小さな火の玉が出来たと思ったらパチンと弾けてなくなる。


「やめてくれ!参った!!参ったから!!!」


リオは教師の方を向き、教師に助けを求める。

教師もはっと正気を取り戻したかのような顔をすると模擬戦を止めに入る。


「そこまで!!ネザー・アルメリアチームの勝利!!」


「嘘だろ……?」



今度こそ戦えると思ったのにまた不発である。

チッ、と舌打ちをして踵を返しネザーとメアリーの元へ向かう。


「くく……くははははは!!なんだバンディットよその魔力は!!素晴らしいな!!」


ネザーは高笑いしながら余程気に入ったのかこくこくと頷いている。

メアリーはというとジト目でこっちを眺めており「分かってるって言ったのに」と言いたいのがすぐに分かる。


「あー物足んねえ……バチバチにやり合えると思ったのによ」

「くはは!無理に決まっているだろうバンディット!!あれ程の黒魔法は城でも見た事がないぞ!!いや見事という他ないな!!」

「嬉しそうだなネザー」

「当然だろう!?あれほどの力を持つ者と入学初日で交友を持てたのだからな!!くはは!学園に通うのを選んだ甲斐があったというものだ!!」


「ナナシさん……分かってるって……大丈夫って言ったのに……」

「抑えただろ、お前も震えてねえじゃねえか」

「戦いになれている私と昨日まで一般人だった彼等を一緒くたにしないでくださいよ……」


それもそうだった。

周りの目は異質な者を見る目で見ているがそんな事は関係ない。


「まぁ次があるしな、誰か1人くらい骨のある奴いんだろ?」


俺はそう言うと同じクラスの奴らの顔を伺うが誰一人、目を合わせる者はいなかったのだった。

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