貴族の嗜み

「くはは!いや実に愉快であった!あの世辞にも強大とは言えぬ黒魔法であれほどの威圧!そしてまだ本気ではないというその深さ!くははは!!なんとまあ頼もしい事か!!」


負けたばかりだと言うのに随分と陽気なものだ。

よほど俺の黒魔法が気に入ったのだろう。


「しかしこうなると貴様の本気とやらは是非見てみたいものだな、どうだバンディットよ?今日の放課後にでも何処か周りに人のいない所で見せてはくれまいか?それならばロッドも構わぬのだろう?」


「俺は別に構わないぜ?いいよなメアリー?」

「いいですけど転移で送った後、ネザー様に見せる前に私は転移で1度帰りますからね。本気を見せられては気を失いかねないので」

「おう、ビビリ僧侶はすっこんでろ雑魚」

「……1度力の差を教えてあげましょうか?ナナシさん程度離れた所からなら余裕で倒せちゃいますので」

「やってみろよクソ淫乱僧侶」

「淫乱僧侶?」

「ちょっとナナシさん!?気にしないでくださいネザー様!!」

「ふむ、まあ僧侶には稀に聞く話ではある。異性とのそういった営みが禁じられている故に深く興味を持つものがいるとな。同性と試す者もいるそうだ」


メアリーは真っ赤に染まった顔を手で覆い、しゃがみ込んでしまった。

こうしていると恥じらいを持った魅力のある乙女に見えるから不思議なものだ。


「それにしてもネザーはマジで強かったんだな、正直対面して戦うまで侮ってたぜ」

「ふん、あの程度で驚かれていては困る。貴様と同じように僕も本気など出してはいない。学園で学ぶ経験を礎にして力の使い方を上乗せするつもりでいるからな」


やはり冷静、且つ堅実。

力を誇示するために早く早くと焦る事をしない。

自分の力も人の力も出来る限り見定める慎重派。

俺との戦いの初戦を模擬戦で済ませたのもネザーの考えあっての事だろう。


「とりあえず今日はこれで帰っていいそうだし、適当に昼飯でも食ってから人のいないとこいくか」

「うむ、食事を適当に済ませられる場所で食べるのは初めてだ。案内は任せる」

「おう、んじゃとりあえず学園から出ようぜ」


ネザーとメアリーを連れて校門へ向かうと、まあ分かっていたことではあるのだが、やはりと言うべきか。

校門にフィーナとエルザが立っていた。


「やぁ、ナナシ……おや?ネザー・アルメリア王子じゃないですか。お久しぶりです」

「うむ、久しいなフィーナ・アレクサンド。元気そうで何よりだ」

「お、なんだ知り合いだったのかネザー?」

「あぁ、何度か父上に会いに城へ来ていたのを見ているからな。まぁ僕には関係ない話だったから興味はないのだが」

「……ナナシ、ネザー様とは朝揉めていたように見えたんだけれど?」


なるほど、何故そんなに仲良さそうにしているの?まるで友達じゃないか?と言いたいわけだ。


「あぁ、あの後クラスで話してたら意外とウマがあってな。今日は3人で昼飯でも行こうかって話なってんだ。フィーナは仲良い奴出来なかったのか?」

「……みんな離れた所からフィーナ様だフィーナ様だってそればかりでね……名前を呼ぶなら話しかけてくれたらいいのに……」

「自分から話しかけりゃいいだろうに」

「話しかけたのよ、話しかけられた人みんながきゃー私フィーナ様に話しかけられちゃった!って他の人の所に行くの。さすがに可哀想だったわ」


それは気の毒に。

しかしこの流れはまずい。

フィーナとエルザに付いて来られるわけにはいかない。

2人が俺の魔力に気付いていたとしてもそれはあの時の本気でない魔力。

俺の本気の魔力の解放をこいつらに見せるわけにはいかない。

どうしたものかと悩んでいるとネザーがそれを察したのか助け舟を出す。


「アレクサンド、そしてアルカよ。貴様達の方がバンディットとの付き合いは永く、間柄も深い事は理解しているつもりだ。その上で今日はバンディットとロッドを借りても構わぬか?2人に相談したい事があってな」


おお……なんて優秀な貴族だ。

機転まで利くとは初日から良い友を持ったものだ。


「……うーん、まぁそれなら仕方ないか……出来れば一緒に下校したかったんだけれどね」

「すまないなアレクサンド、貴様達さえよければ明日の放課後はアルカとアレクサンドも一緒に食事でもどうだ?」

「え?いいのかい!?それは是非楽しみにしているよ!」

「こちらこそ楽しみにしている。しかし僕はあまり街で食事をした事がなくてな、2人は今日は暇なのだろう?よければ2人で街でも歩きながら良い店を探してくれると助かるのだが」

「し、仕方ないわね!ほらフィーナ、さっさと行くわよ!じゃ明日楽しみにしてるわネザー王子!」


そう言うとエルザがフィーナの服の袖を掴み、歩いて行ってしまった。

掴むのが手ではなく袖というのがまた可愛らしいところだ。


「ふむ、これでよかったかバンディットよ?」

「お前本当に有能すぎんだろ」

「いやお見それ致しましたネザー様。素晴らしい手腕です」


本当に有能すぎる。

フィーナの性格から今日の事をを気にさせないように明日の約束を意識させ、エルザのフィーナに対する好意を瞬時に察して2人に用を作る。



なんとまあ人心を掌握している。

ネザーは立派な王になるのだろうな。


ではこちらも昼食に向かうとしよう。

もし鉢合わせてもネザーが相談があると言った手前、あの2人も踏み込んでくる事はないだろう。


先まで見据えた会話をここまで出来るとは。

貴族というものにも関心が向くな。

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