後日談【青空(前)】
総てが終わった光景を、
後処理もある程度済んで、ただ一人眺めていた。
なんだアレは
つまらない結果にも程がある。
あの
なのに、あんな・・・
静かに風に運ばれて、塵も残さず安らかに息絶えるなど─────。
「大ッ嫌いだなァ、あれ。」
終わった後に、ようやく理解出来た。
末路に至るまで、彼の本質を見てもなお、心に響く共感など、何一つ無かったが。
それでも、ただこれだけは理解できた。
─────恐らく、自分では彼を苦しませることはできなかった。
ただ生きていることが、自覚出来ないほどの苦痛で。
結論を出すと、自覚できないまま亡霊のように欲に縛られていた。
そして傷つき、死に至りそうになっても。
彼はそういう存在だった。
常日頃から、狂った衝動抑えている理性が結論づけた。
なんて、救いようがない────。
「────だからダメなんだよ。」
今の世界では、そんな風に苦しむだけの存在が産まれてゆく。
そして、死んでようやく報われる。
確かに、彼女は狂っている。
救い難いほど、傲慢で独善で狂気的で。
だからこそ、結論は至って簡単だった。
だったら、高次元的な存在になれるように、常に研究し進化すればいい。
結局はこれに帰結するし、揺るがない。
「・・・帰るかァ。」
もう、此処で得るものはない。
多少の不満を少しでも紛らわすように、ゆっくりとその場から離れていった。
「全くもう、無事に帰って来たのはいいですが・・・それから数日医務室で寝たきりなんて、胃が持ちませんよ。」
「ごめん。」
「あはは・・・ごめんねー。」
アグニオスの討伐から一週間後。
殆どの者は疲労困憊だった。
外傷はセブンスの治癒によりある程度マシにはなったが、魔力の問題はどうにもならなかった。
その該当者がスノウだった。元より代償が必要としてしまう魔法を持ち合わせてしまっていたので、戦いはしないが、あの戦いの余波から支えていたとなれば、例外なく重労働だ。
結果、スノウは数日医務室で寝込むことになった。
対し、同じく数日間寝込んでいたブラン。
『
数日かけた半身のマヒになってしまっていた。
なのでスノウよりは意識が戻るのは先だったが、マヒが解消されるまではスノウと仲良く医務室入となっていた。
そしてめでたく退院。
仲良くフロウの元に来た訳だが、当然怒られてしまう。
「ウチの脚が戻ったあとどれだけ心配したか。あと脚をまた与えられた時に迎えに行こうとしたら医務室でぐったりですよ?ちょっとは待つ側の気持ち考えやがれコノヤロウ。」
ああ、説教だ。
いつもなら"やべぇバレた"とか思って冷や汗ダラダラになる場面なのだが・・・今となってはもう"やっと帰ってきたんだな"と安堵してしまう。
「胃薬代とか払ってもら────」
それに、説教する側も気づいてしまったのだろう。
辛うじて保っていた怒りさえも吹き飛んでしまう。
それはもう、この二人がすっかり安心して、笑みが零れてしまったのを見てしまったものだから。
「────その前に、言うべきことがありましたね。」
だったら、もう。
いまは怒るのをやめにしよう。
それよりもっと、ふさわしい言葉があるだろうから。
「・・・おかえりなさい。」
フロウの余りに落ち着いた言葉に、一瞬二人は面食らう。
だがやはり、だろうか。
緊張もすっかり解けてしまい
「・・・へへ」
「・・・うん。」
お互いに、笑ってしまう。
ああそうだ。そんな挨拶を言うのなら、返す言葉はただ一つだろう。
「「ただいま。」」
時は少し遡り、アグニオス討伐の翌日。
コメット宅にて─────
「おかえりぃいいいい!!!!」
「ぐほぉ!?」
イグニスが帰宅して、一番最初に受けたのは拳だった。
拳は鳩尾にクリーンヒット、くそ痛い。
妊娠してから、少しばかり落ち着いたかと思えば、根っこ部分はそうそう変わらないならしい。
───なんて、痛みに悶えながら考えることではないだろうが。
「・・・ヘヴィだぜ。」
「あったりまえだバカゴリラ!毎度!俺が!どれだけ心配したと思って!」
「揺らすな、酔う、落ち着け、やべぇ気持ち悪くなってきた。」
鳩尾のダメージで膝をついて座り込んだイグニスの襟首を、コメットは掴んでガクガク揺らしながら叫ぶ。
うるさいし、酔う。
帰ってきたのだなという実感と共に嘔吐しては台無しだろう。
無論、心配するのも無理は無いが。
「もう傷とかないよな!後遺症とかは!」
「無ぇよ。すっかり健康体だ。」
結果だけ見れば、いつも通りの決戦のように多少のダメージと身体負荷で済んだ。
それゆえ、セブンスの治療だけで何とかなった。
イグニスは結局、後処理の方で忙しくなり、帰るのは翌日になったという訳だ。
「・・・なら良かった。マリアは・・・そっか、寝てるんだっけ。」
「ああ、今はな。ただ、明日には目を覚ますらしい。今はヴィノスが付いているらしい。」
一方のマリアは、普段激しく魔術を行使することが無かった上に、いきなりの枷の解放。
慣れない事と、当然な負荷で今はすっかり眠っているらしい。
なので今は、アルが家事をしてくれている。
「見舞いは・・・いいか。アイツらで二人きりで。」
「ああ。今は、アルを労ってやらなきゃな。」
「それもあるけど!」
立ち上がろうとするイグニスを、手を引いて立たせない。
なんだ、と顔を向けるとコメットは応える。
「みんな帰ってきたら、お祝いしようよ。」
「────ああ、そうだな。」
せっかく、みんな帰ってきたのだ。
傷は少なくなく、そして疲労困憊だが。
それならそれで、帰ってきたことを祝うには時間がある。
イグニスは笑う。
そういえば、そういう祝勝会のようなモノをしたことは無かったな、と
「じゃあ計画から立てるか。」
「そうだなっ。
あ、でもその前に。」
顔をコメットはイグニスに近づける。
もはや語るに及ばない。
「「─────。」」
口付けをして、そしてお互いが笑う。
その一連が愛おしくて、幸せで。
少しの間だけ、二人の時間が過ぎていった。
更に次の日、群の医務室にて。
「・・・んぅ。」
「・・・!マリア・・・!」
小さな身体で無理を通した兎の子は目を覚ます。
ヴィノスは直ぐに、その手を握る。
その手の温かさを、もうお互い知っている。
誰よりも大好きな、暖かな熱を、確かな帰還の祝福として感じ取る。
「・・・おはよ、ございます。」
「ああ、遅いんだよ・・・!」
良かった、と。
ヴィノスは涙を一つ出す。
例え他者から見たらどれほど塵芥な行為だとしても、全てを投げ打ってまで選んだ幸せの形を、もしかしたら手からこぼれ落ちるのではないか、と不安だった。
マリアは微笑んで、起きた先にみた景色が彼だったことに、これ以上ない幸福として受け止める。
「よく、頑張ったな・・・!」
「はい・・・頑張りました。」
「帰って、これたな・・・!」
「はい、良かったです。」
これが、戦場。
そして、その帰還。
その過程と結果がどれだけ苦しくて、危険だったかを知り、そして生きて帰る価値を知る。
お互いにとっては進んで選んだ戦場だとしても、恐かったし、帰ってこれて安堵した。
「・・・ヴィノスさん。」
「なんだよ・・・。」
「笑って、お家にいきましょう。」
今は泣いてもいいが、せめて今の家族には笑った顔を見せてやろう。
こんな時でも、優しい兎は気遣うのだな、と涙を拭いながら苦笑する。
「ああ、ああ・・・そうだな・・・。」
グランが矢を放つ前に、確かに言ったひと言を思い出す。
────
正に、今がそうじゃないか?
そう思うと、救われた気分になった気がして────。
「・・・もう少ししたら帰るか。」
「・・・はい。」
お互いに笑みを向けた。
少し二人だけで、下らない話で語り明かそう。
その位の贅沢は、きっと
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