アグニオス討伐.2【地獄を切り開く者たち】



一つ目の氷の結界、計算された強固な壁の中で青い蝶が不規則に舞う。

二つ目の氷の結界、枷を外した魔族らしく暴威をそのまま強固な壁にする。

三つ目の光の結界、蝶の翼を広げてなれないならながらも結界を重ねる。

四つ目の欠片の結界、様々な属性を練り込んで更なる計算された壁になる。



「行ってきなブラン・・・!先に死んだら首吊ってやるからな!」


銀の髪を靡かせて、スノウはブランに激励を送る。





「行けるか、マリア!無理はすんなよ!」

「大丈夫ですっ!いつまでも甘えた子供じゃないんです・・・っ!」


ヴィノスとマリアは励ましあい、強固な結界を維持し続ける。





「イグニス、クウガ、ミーティア。

大丈夫だ。君たちに、出来ない筈がない。」


ピースは、イグニスとクウガとミーティアに激励を贈る。

枷を外した欠片は、三人分の結界を更なる強固にし、更に重ねている。




もう、これで逃がさない。

アグニオスはもはや、籠の中の梟だ。

対し、イグニスたちも同じこと。

四人の連携を前提とした結界は、何かあった時に咄嗟の解除は難しい。

つまり、イグニス達もまた逃げ場がない。





『────大丈夫、もう震えなんかない!』

「だから、受け取って!俺たちの光を!」


融合しているクウガとミーティアは既に、七色の恒星を身にまとっている。


─────Sphere Savior。


それは、"救世主"の星。

かつて戦火という地獄から人々を救った小さな創世神話の再現。

勝利の先を見る為に────みんなと手を携えて、未来あしたへ歩む光。


それはつまり、手を携える仲間たちへ光を贈る星でもある。

クウガが持つ月光の聖剣だけでなく、イグニスとブランの武器にさえ、七色の恒星は宿る。



「力が、湧いてくる。」

「────上等。」




準備は整った。

敵は漆黒焔竜アグニオス、欲望に縛られた邪竜。

さあ、邪竜討伐の幕開けだ────。








一番手、駆け出したのはブランだった。

既に枷は外されている。

"業魔再臨・赫怒の悪鬼よ、滅殺せよデモンバースト・バルバトス"は全開放してある。

黒く硬い肌で、尾が生えて、片目からは血の涙。

身体能力を限界以上に引き出して暴威を振るう様はもはや悪鬼。

此処が地獄と云うのなら、悪鬼がまかり通るのも道理だろう。



「驚いたよ、失敗作。

卿がついに、別離を恐れるようになったのか。」


メイスを振るう悪鬼に対し、薄ら笑いでアグニオスは作り出した黒い焔の剣で対抗する。

攻勢には出られないが、余裕綽々と受け流す。

だがまだだ、まだだ、まだだ。

叩き潰すまでは追われないとばかりに、ブランの追撃が終わることは無い。



「だから、うるさいよ。」



今更、いや・・・最初から。

殺すべき相手に貸す耳なんてない。

生きている方が、殺した方が勝つ。

そんなシンプルな理屈を糧に、そして────


「スノウの声が、聞こえないだろ。」


────好きな女の声を聴きながら、ブランは力を増幅させる。

尾の先端は分裂し、メイスと同時に襲う。

光る赤い眼光を残像とし、更なる猛攻をする。



「煩わしいな。」



執拗な猛攻に、アグニオスは剣を爆発させる。

ぶつかったメイスは遂に、砕け散る。

得物はもうない。

だったら─────



「殴ればいい。」



この肉体は、力を得た結果だ。

ならばその力、振るうべき時に振るわずなんとする。

爆風の先に向け、ブランは拳を握りしめて殴る。



「ッ・・・!」



新たな剣を作り防いでみせた。

だがそれも砕けて大きく下がる。

体勢を立て直し前へ────。



「させるかよ。」



背徳の紅は既に、大剣を振り下ろしていた。

身体能力・絶。

次に、ブレイズメモリによる火力増大。

更に、七色の恒星による加護。


それらを兼ね備えた一撃はアグニオスを捉えた。



「な─────。」



あまりに硬かった鱗を超えた。

裂かれた胸から、血を吹き出した。

アグニオスは、歯を食いしばる。

他の誰かに、それを食らうなら賞賛していた。

だが、寄りにもよって。

そしてまたしても、傷を追わせるのは背徳の紅おまえだと言うのか。



「卿は不思議だな。見れば見るほど、私を苛立たせる。」

「知ったことか、とっととクタバレ。」



イグニスにとってはいつもの通り、倒すべき敵という認識でしかない。

だが、アグニオスにとっては違う。



満たされているだけなら、納得しよう。

欲が止まらないだけなら、理解しよう。

だがアレは何故、常に両方を充分に兼ね備えたまま、ヒトで在り続けられる?


ああ、ダメだ。

振り切っても、この男だけはダメだ。

"お前はこうなるべきだった"という、を見せられたようで。


「逃がすかよ・・・!」


背徳の紅もまた、執念深く襲いかかる。

攻撃の全てが身体能力・絶。

多大な負荷をなんの遠慮もなく、行使する。

仲間への絶対の信頼が、イグニスの力を此処まで引き出している。



「ちぃっ・・・!」



舌打ちし、振り払うように焔を撒き散らす。

竜の性能スペックをいい事に、たったそれだけで地獄にする。


「ぐっ・・・!」

「っ、あぶないな・・・!」


大きな爆発に、イグニスとブランは間一髪回避して下がる。

距離が出来てしまった。追撃に隙が出来てしまう。



「『ディバインバスター!!』」



───ならば、第三の矢を放つまで。


七色の恒星による光線が、頭上から襲う。

傷が出来たいま、まともに防いではいられない。

何より消費もしている。


アグニオスはステップで回避、焔の剣をまた作り上げる。


「気分が悪いな。卿らの唄でも聴かせてもらおうか。」

『巫山戯るな!僕らはもう、お前の言葉に惑わない!』

「俺たちはあの時とは違うんだ!」


剣を構えた先、流星は飛翔して飛び込んできた。

焔の剣と聖剣は衝突した。

流星の接近戦はほか二人と比べ苛烈さは足りない。

ミーティアの援護で魔力弾を挟みながら攻めるが、アグニオスにとってまるで驚異と感じていない。


だが今は、1人ではない。

さらに言えば、前回と違ってクウガたちに大事黒い霧を用意出来ていない。

今は制空権があるのだ。

よって─────


『今だっ!』

「───ほう。」


アグニオスが目の前で爆発し、クウガを吹き飛ばそうとしたタイミングで離れ、飛翔する。

ちょうどアグニオスの視界が爆発で防がれたタイミング。

そこに。


「「潰れろ。」」


イグニスとブランが、同時に襲いかかる。

イグニスの大剣、ブランの蹴り。

同時に直撃し、血を噴き出す。


「ぐ・・・ははっ」


笑う、これが追い込まれてゆく感覚か。

嬉しいのか?悔しいのか?

分からないな、どうでもよくなりそうだ。


噴き出した血が、全て黒い焔として燃え盛る。

それらをなんともない顔で潜り抜けてくる。


「くはっ、はははっ」


ああ、苦しい。

これを、この状況を。

正常に自分の感情として表せない。


この竜族という肉体がもはや、自分の生の枷にしかなってない。

窮屈で仕方がない。

最初の望みさえ、もう思い出せないというのに。

壊れたように、乾き続けている。


「この世は死界だ─────」


奪うだけで、与えなかったからこうなった?

ああ、

理性的な行為だとでも云うのか。

ただ、自分の欲から目を逸らしただけだろう。


傲慢、不遜、あらゆる社会から恐れられるばかりのアグニオスにとって、"与える"など知らぬ行為だった。


「────私が、そう決めた。」


そう成り果ててしまってはもう、総てが遅かった。

後はいつか報いを受けるだけ。

もはや、アグニオスの生涯には何も意味が無くなっていた。

何せ、



────巫山戯るな。

アグニオスの焔は更に燃え盛る。

自分でも不思議だ、そんな風に灯るほど自分に熱は残っていたらしい。


「ちっ」

「うざいな・・・!」


イグニスとブランは、一度下がる。

いくら攻勢を続けても、まだアグニオスを崩せない。


「ははははははっ」


もはや、どうでもいい。

どうせ皆は、アグニオスの最期と笑うのだ。

せめて一人くらいは派手に散って貰おう。








「『させるかッ!』」


────そんな行為を、救世主が許すはずがない。

もう、イグニスとブランによる攻勢で準備は整った。



「『創生せよ、天に示した極晃を────我らは煌めく流れ星』」


聖剣の切っ先、七色の恒星は集う。


「幼い日、星々を眺めながら誓った約束は、きっと辛い生涯たびじになる。」

『ああ、それでも。貴方はいつまでも傍に居てくれる。

そうだ、僕らは決して独りでは無いのだから。』

「ならば紡ごう、俺たちの絆を。

例え闇底に沈んでも、彼方の星を目印に、きっと共に歩めるから。」


共振する七色の恒星は、これまでの出力を超え始める。


「卿らには劫火を贈ろう────灰も残らぬ塵となれ。」


望みを忘れた竜人は、クウガたちに向けて劫火を放つ。

隙だらけだ。もはや撃ってくれと言っているようなモノ────


「だから、させるかよ。」

《ブレイズ!アルティメットドライブ!》


その劫火を、人間が対抗する。

大剣に宿った星と共に、焔もまた燃え盛る。

更に。


身体強化・絶。

それを重ねる。


「────切り開くッ!」


さあ覚悟は成った。不屈の焔を知るがいい。



「ッ─────!」



黒と紅、焔が衝突する。

強すぎる火力の衝突は、互いを吹き飛ばした。


「ッ・・・は、悪いな。」

「別に。」


イグニスはブランに受け止められた。

仕事はした。後は放つだけ。

アグニオスはゆっくり立ち上がる。

だがもう、遅い。


『そして僕らは幾度の闇夜を超え、流星は新たな太陽と成る。』

「星々は集い、誓いは宇宙そらに、不屈の想いは我らの胸に。」

「『────さあ、俺たちの創世神話マイソロジーを始めよう。』」



アグニオスは考えるよりも先に、焔の障壁を展開する。

より熱く、厚く。



「『極晃星スフィアノヴァ─────闇夜を超えろ、七色に煌めく恒星よスターライトブレイカー』」



七色の恒星は、大きな流れ星として撃ち放たれた。

厚い黒い焔に、星は到達する。


「──────。」


光に包まれてゆく。

身体を消し飛ばされていく感覚がする。

なるほど、約束された末路とはこういうことか。









『はっ、はっ・・・!』

「これで・・・!」


星は放ち、そして止まった。

爆発と、巻き上がる砂がアグニオスを隠す。

クウガ達は膝をつき、イグニスとブランは負荷でまともに動けない。




「─────■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」



『・・・嘘。』

「まだ、アイツは立てるのか・・・!」


爆風と砂が止み、先を見る。

血が油となって黒い焔となる。

あらゆる傷が、焔になる。

口は開ききり、目に生気はない。

言葉は、もう発する自由も咆哮する。


「暴走、か。ヘヴィだな。」


アレは本当にアグニオスなのか。


『いいや、違うっ。アレはもう・・・!』

「アグニオスの理性が、もう・・・!」


意思はもはやどこにも無い。

残ったのは、竜の身体だけ。

ただ欲を求める怪物になった。


「ブラン!みんなっ・・・!」


全員、動けない。

スノウの叫びと共に、結界は解かれた。

アグニオスはまた、焔を吐き出そうとする。

結界を解いた所で、彼らは逃げられない。


「■■■■■■■■■■■!!!」


咆哮と共に、焔は撃ち出された。

地獄に彼らを巻き込まんと、本能のままに。


「僕は災厄を鎮める者。

どうか力を、僕はみんなを護りたい。」

『宝具、解放。展開します。』


ならば、逃げ出せないなら。

それを護る盾が要るだろう─────。


「『希望を詠う白銀の守護者グローリアス・インモルタル 』」


顕現したのは、白亜の防壁。

白い鎧を身に纏い、白亜の盾で手が届くうちは誰かを守る。


レオ、そして宝具に宿された人格『シャイン』。

彼らは、四人に襲いかかる焔を防いでみせた。


「今のうちに、早く!」

『ご苦労さまでした。

後は、残りの三名が引き受けてくれます。』




「そうだ─────まだだ。」




ただの怪物は─────




「─────天霆轟く地平に、闇はなくガンマレイ・ケラウノス


天より貫く黄金の光。

怪物は本能のままに引き下がった。

焔は止まり、怪物は見上げる。


そこに居たのは、黄金の英雄レイゴルト

黄金の煌翼をはためかせ、降り立った。


「後は任せてくれ。

俺にも借りはあるし、そんな奮闘見せられたら頑張るしかない。」


黒い剣を携えて、レイジはレイゴルトの隣にたどり着く。


「沢山、勇気を貰った・・・後は、勝つだけ。」


その後ろに、託された弓を携えてグランも降り立つ。


アグニオス討伐の最後の砦は此処に参上した。

怪物はもはや、逃げの選択肢はない。

対し、挑む彼らも後退の選択肢はない。

死闘は、漸く最終章となる。



「来るがいい、名も忘れた怪物よ。


────"勝つ"のは俺たちだ。」

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