それぞれの決定(後)
「俺は行くぞ。」
「だよなぁ・・・イグニスはそうだよなぁ。」
依頼を見たイグニスは即決する。
イグニスの在り方を思えば当然だ。
奴は仲間を傷つけたし、そして仲間が戦いに行くのだ。
ならば必然、それを助けるのが彼なのだ。
即断即決をしたイグニスに、コメットは呆れたような笑みを向ける。
とはいえ、コメットも状況が状況なら手伝ったのかもしれない。
だが今はそうじゃない。
「だけど、俺と・・・産まれてくる子供もいるの、忘れんなよ?」
「当たり前だ。片時も忘れるかよ。」
今はもう、イグニスは一人の命ではない。
嫁がいるし、いずれ産まれる双子がいる。
そんな時に万が一死ぬとなれば最悪だ。
父親として終わっていると言っても過言ではない。
それをイグニスは当然理解している。
理解した上で、戦いに出る。
無論、死ぬ気もないし、負ける気もない。
「・・・イグニス」
「・・・ああ。」
イグニスは目線をあわせてしゃがむ。
そうすると、今回はコメットから口にキスをした。
「・・・帰ってこいよ。」
「ああ。」
誓いは改めて成立した。
ならば後は実行のみ。
イグニスは立ち上がり、ホルストのもとへ向かう。
次もまた、笑顔で顔をあわせられるように、コメットは祈るように見送った。
「私も行きます!」
「いやマリアお前・・・。」
同時刻、マリアの宣言にヴィノスは困っていた。
マリアが戦っている所はおろか、魔術を使った所を見たことがない。
不安要素しかない。
「大丈夫です!魔法は使えます!それに、マスターの代わりに役に立ちたいのです!みんな、今までお世話になりっぱなしなので・・・。」
「・・・。」
訴えは必死だった。
嘘でもないし、周りの強さを知った上でそう言っている。
虚勢でもないのだろう。
だがその上で
自身の守るべき愛した女の子を、戦場に出したいかと言われれば無論、出したくないのが本音である。
ヴィノスはふと、依頼の内容を見る。
実力者は当然、アグニオスという人物を逃がさないように結界を張る役目が複数名必要らしい。
・・・危険は危険だ、楽な仕事な訳がない。
だが、もし行くにしてもこれしかない、と。
ヴィノスは断定した。
「・・・マリア、結界は使えるのか?」
「ほぇ?はいっ!」
元気な返事が帰ってきた。
なら、手伝いにはなるだろう。
マリアを置いていくことで悲しむかもしれない懸念が無くなったことの安堵と、危険な場所に行かなければならない不安で複雑だが。
だがもう、こうなってはその決意を無為には出来ないのだから、覚悟を決めるしかない。
一緒に笑い合えるように、守ってやればいいのだから。
「・・・マリア、俺から離れるんじゃねぇぞ。いいか。」
「一緒にいられるなら、勿論です!」
ああもう、そう言われてしまったら。
手を差し伸べるしかない。
マリアとヴィノスの両名は、手を繋いでホルストの元へ向かった。
「・・・レイゴルトさん。」
「分かっている。君も来るのだろう?」
依頼を見たグランは、レイゴルトの名を言う。
意図は察した、語るに及ばない。
あのどす黒い色を忘れることは無い。
あの強さを忘れることは無い。
自分が居ても、結局レイゴルトに傷を負わせてしまったことを忘れることは無い。
また、足でまといになってしまったら。
あの時は励ましてくれたが、それでも不安が過ぎる。
それも分かってしまったのだろう。
その不安を、口にする前にレイゴルトの手がグランの頭に乗せられた。
「・・・大丈夫だ。君なら任せられる。」
どうして、そんな風に断言してみせるのだろう。
不安の上に、疑問が重なる。
その答えのひとつは、レイゴルトの手にしているものにあった。
白い、端に羽根のような飾りのある弓。
それを正確なモノとして捉えるのは難しいが、明らかに通常の弓とは違う何かを感じる。
「勇気ある弓使いが居たら、貸してあげて欲しいと、依頼主からの伝言らしくてな。
俺にとって、勇気ある弓使いは君だ。」
そう、認めてくれたのは嬉しい。
心が踊りかけてしまいそうだ。
だが、グランにとってはそれが何なのかは分からない。
差し出されたソレを、グランは触れる。
─────瞬間、何かが流れ込んできた。
"戦う理由を知った。"
凛とした、誰かの声。
風のように透き通った、誇り高い気配。
恐らくは、この弓を託した誰か。
"私は、
誇り高い、目の前の最愛の人に近い覚悟。
直後、別の気配が感じ取れた。
黒い黒い、欲望に染まりきった邪竜の気配。
「────ぁ。」
ああそうか、この人も。
彼と戦ったんだ。
その強さを知っているからこそ、彼女はこれを託した。
"それは、宝具・ヴィエーチル。
勇気ある者が担い手として選ばれる弓。"
これは宝具。
武器として、魔具として、数少ない至高の宝。
風が自分をすき抜けるように感じる。
一体化しているような感覚がする。
今だけは
"その弓でどうか。
────誰かの
本当なら、自分で守りたかったのかもしれない。
でもそれを飲み込んだ上で、託した。
ならもう、それに乗ってやるしかない。
「・・・ありがとう。私、貴女に勇気を貰いました。」
勇気ある弓使い、なんてとんでもない。
この言葉に、どれだけ救われたか。
レイゴルトは、ただじっと。
グランが前を向き、前に踏み出すのを待っている。
待ってくれているならもう、応えよう。
「行きましょう、今ならもう、迷いはないわ。」
「なら、共に行こうか。
俺たちの
「・・・」
レイジは依頼を見て、唾を飲む。
クウガとミーティアを倒し、マシロを追い込んだ。
なにより素手だったとはいえ、本気でたたきつけたというのに平然としていたあの男だ。
早々息絶えるとは思えなかったが・・・やはり討伐依頼が訪れてしまった。
「・・・行くべきだよな。」
放置してはならない存在として認めるには充分過ぎる。
今はもう、剣がある。
仕留めるには充分だろう、と。
早速ホルストに向かおうとする所だった。
「君も、アグニオス討伐依頼を受けるのか。」
「えっ」
後ろから、話しかけられた。
そこにいたのは、レイゴルトとグラン。
顔と名前は知っている。
とはいえ、まさか話しかけられるとは思わなかった。
そして、その口ぶりは────と。
聞こうとした内容が頭が離れてゆく。
グランの持っている弓を見て、驚きを隠せなかった。
「それは・・・。」
「・・・?これのこと?」
グランが弓を出す。
あの弓は間違いない。
滄劉の防衛軍にいた、マシロの宝具。
「・・・依頼の際、託されたものだ。
終われば返す話になっているが、な。」
あの優しい笑顔を覚えている。
彼女は、わざわざ宝具を託してまで自分たちを信じたのだろうか。
思わず、笑みが零れた。
本当に優しくて、強い人だと。
「・・・その使い手、俺は知ってますよ。」
「ほう」
「本当!?」
そうまでされては義理くらいは返してやらなきゃいけない。
折角託した誰かと、会わせようとする位はいいだろう。
「終わったら、教えますよ。」
また、わらび餅でも奢ろう。
いつも
依頼を受けた人物
・クウガ
・ミーティア
・アーキタイプ
・ブラン
・スノウ
・イグニス
・マリア
・ヴィノス
・レイゴルト
・グラン
・レイジ
・ピース
・セブンス
・レオ
以上を以て、アグニオスを討伐する。
汝ら、邪竜に鉄槌を─────。
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