それぞれの決定(前)
ホルストがアグニオス討伐の依頼を引き受けたその日から、群全体に通達された。
アグニオス討伐に参加する者は、ホルストかクロヴィスに申し出ること、と。
それを聞いた何名かは、やはり直ぐに申し出ることになる。
それも殆どが、アグニオスと対峙した者達である。
ここ最近で最初に対峙した、流星の二人も例外ではなかった。
「・・・クウガ。」
「わかってる。行くよ。」
通達の紙を一緒に見る少年、クウガ。そして少女、ミーティア。
アグニオスと対峙し、戦わざるを得ない状態になったことが始まり。
全力を賭した流星だったが、一切の歯が立たず敗れた。
そして、危うくミーティアを失うことになった故に、恐らくは一番の恐怖、トラウマになっているかもしれない。
なぜなら、ほら─────。
「・・・手が震えてるよ。」
「・・・ミーティアも、だろ。」
お互いの手が震えている。
かつての自分たちよりは強くなったはず。
前とは違い、仲間もいるだろう。
それでも、あの光景を彼らは忘れたことは無い。
手を触れ合う二人の手は震え、呼吸が乱れ始めたのを感じる。
だったらもう、ただの少年少女に戻ればいい。
失望は多少あるだろうがきっと、許されないということはない。
その方が、きっと楽になる。
─────それでも。
ふと、瞼の裏に映るのだ。
泣いていた誰かを、笑顔に変えた日々が。
目に映る光景が、笑顔になって欲しいが為に、
「「────行こう。」」
もう、手の震えはない。
しっかりと、互いの手を握る。
確かな温かさを感じる。
そうだ、生きている。
立ち上がった誓いは今も変わらない。
流星はいま、その決意を伝えに歩き出した。
「────へェ。」
金髪を靡かせて、ツギハギの
ああそうか、遂に
誰もが違うと言ったとしても、きっとアーキタイプは揺るがない。
狂っていて、独善的で、何を犠牲にしても嘲笑い、そして嘯くのだ。
私こそが正義の味方で、みんなを救うのだ
「あァ、楽しみだなァ。」
彼はいったいどんな
絶望してくれると嬉しいな。
悪役の断末魔は、そうでなくちゃやりがいが無い。
軽い足取りで、
恐らくは異例で、最も危険な助太刀になるだろう。
「俺、行くよ。」
「あたしも行く。」
「即決ですか・・・。」
実家から帰ってきたら何だこの二人は、急に距離感が近くなったのか。
ホルストの通達に即決で乗ったブランとスノウを見たフロウはため息をついた。
確かに群以外は誰も来ないという話だが、にしたってスノウが参加すると自分で決めるとは正直考えつかなかった。
「・・・スノウ、無理しなくてもいいんだけど。」
「あーたが言うな。それに、あたしももう、目を逸らしたくないんだよ。」
誰かを失うことを怖がるくらいなら、せめて自分がやれることならやる。
ただそれだけの事だった。
ネガティブな自己犠牲ではなく、ポジティブな決定を見たフロウは・・・正直、一抹の寂しさを感じた。
自分が手を貸さなくとも、本当の意味で主は立とうという意志を持てるようになったのだ。
そこに、自分は居ないのだと。
「フロウ。」
「・・・なんですか。」
「帰ってきたら、俺たちの世話、よろしく。」
「・・・は?」
俯き気味になったフロウの顔を、ブランは覗き込みながらそう頼む。
内心、そんな頼まれごとにフロウは若干ピキっと来た。
「そうだぞー。たぶんあたしたち、戦ったあと身動きとれないから。」
───ああ、そうか。
主の言葉に、冷静になれた。
何より嬉しさがあった。
まだ、自分は主と離れてはいないのだと。
「・・・分かりましたよ、死んだら承知しませんからね。」
「「わかってる。」」
ブランは車椅子を押して、スノウと共にホルストたちの元へ向かった。
その背中にはもう、頼りなさはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます