第4話 黒幕はあいつ

 カメラを地面に叩きつけた男は、何と、ワイトハイネン伯爵はくしゃくの弟、ライブルクでした。自分のカメラを破壊されたブルクハルト氏は、建物の陰でメソメソ泣いています。


「お前!」


 ワイトハイネンは弟のライブルクに詰め寄りました。「一体、何をしやがるんだ?」


 ライブルクは、ニヤリと笑って、言いました。


「ごめんね、兄さん。僕はね……。このバカバカしいイベントを開催するように頼まれたんだよ。あるお方にね」

「ど、どういうことだ? それはまさか、フランツなのか?」


 ワイトハイネン伯爵は、近くで木陰に座っているフランツを見やりました。しかしライブルクは首を横に振りました。


「いや、頼んできたのは、フランツではない。もっと偉いお方さ」

「偉いお方……誰だ? 誰なんだ?」

「もともと、その『お方』から、兄さんがリーナに恋心を抱いていると相談があったからね。もう計画は進行していたのさ」

「誰に頼まれたんだ。誰に相談されたんだ」

「今、向こうから来られるよ」


 ライブルクは笑って言いました。一方のフランツは疲れ切って、ただワイトハイネン達を見上げているだけです。

 ──するとその時、白髪の老紳士と若い女性が、道の向こうから歩いてきました。その女性は──リーナでした。リーナは、その紳士の腕にしっかりと寄り添っています。


「お前……お前は!」


 フランツが声を張り上げました。「セバスチャン!」


「な、何! セバスチャンだって?」とワイトハイネン伯爵は声を上げました。「そいつは確か、フランツ、お前の屋敷の……」


 何と、向こうからやってきた老紳士は、フランツの屋敷の執事、セバスチャンだったのです。

 セバスチャンはクスクス笑って、口を開きました。


「申し訳ありませんね。フランツ様、ワイトハイネン様。リーナ様は私と結婚する予定なのですよ」

「な、なにいーっ!」


 フランツとワイトハイネンはほぼ同時に声を張り上げました。セバスチャンは、勝ち誇った顔で言いました。


「この競争イベントで得たお金は、私達の結婚資金です」

「セバスチャン! 妹を返せ!」


 フランツはセバスチャンの胸ぐらをつかもうとしました。すると逆に、セバスチャンは老人とは思えぬ物凄い力で、フランツの腕をつかみ上げました。


「聞けぃ、フランツ!」


 セバスチャンはフランツの腕をつかみ上げたまま、言いました。「力とは正義よ。正義ある者に、女性が惚れるのは仕方ないだろうが!」


「この野郎、俺を長年だましやがって。どういうことなんだ、セバスチャン」とフランツはセバスチャンを睨み付けながら言いました。しかし、セバスチャンは笑って首を横に振って、「セバスチャン? 私の本名はセバスチャンではない」と言いました。「私の本名はヒョードル。ロシア最強の男、ヒョードル皇帝と言われておる」


「なんだと! あんたがヒョードル皇帝?」とワイトハイネン伯爵は声を上げました。フランツは、「バカな……」とつぶやいています。


 一方、リーナはコロコロ笑って、「お二人とも、ご苦労様でした」と言いました。「これで、私はヒョードル皇帝と、潤沢な資金で暮らせますわ。たくさんの人が集まったイベントですからね」


 セバスチャンはフランツを放り投げ、リーナと一緒に向こうの方に歩いていってしまいました。

 フランツとワイトハイネンは顔を見合わせました。そして二人で、おいおい泣きました。


「もうケンカはやめよう」

「こんなことはもうまっぴらだ」


 一ヶ月後、リーナとセバスチャン──ヒョードル皇帝は、結婚しました。しかしその半年後、リーナが浮気して離婚してしまいました。

 フランツといえば本当に家の裏で大根栽培を始めて、大根専門の料理店を営むことになりました。

 一方、ワイトハイネン伯爵は? リーナと結婚したのです。しかしそのリーナは、フランツの妹のリーナではありません。

 ライブルクの知り合いだった、除虫菊会社の娘のリーナと結婚したのです。


 ワイトハイネン伯爵は、除虫菊の販売を受け継ぎました。たくさん除虫菊を売り、そのお金をたくさんの恵まれない子ども達に寄付したということです。

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ワイトハイネン伯爵 ~超ドイツ風笑い話~ 武志 @take10902

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