第4話 終わりの始まり④

 結局、桐乃の優しさにつけ込む様な形で一夜を共に過ごした。姿形は桐乃であってもやはりコイツは桐乃じゃない。そう頭では分かっていても本能的に桐乃と肌を重ねる事を求めた。しばらくご無沙汰だった夜のサービスも堪能したが、残ったのは罪悪感と虚無感だけであった。



「じゃ、行ってくるわ」


「またね」


「また」


 別れ際に玄関まで見送りに来る所は変わっていない様で安心した。どこまでが本当の桐乃でどこからが本当の桐乃じゃないのか。一体俺はどこまで桐乃を知っていたのだろう。いや、今まで一度も知ろうとしていなかったのかも知れない。玄関先で俺の姿が見えなくなるまで手を振る桐乃は果たしてなのか、俺にはもうわからなくなっていた。




 桐乃に「行ってくるわ」とは言ったものの、行き先など無い。だからと言って立ち止まる理由も無いので歩いた。強いて理由を付けるなら頭を動かすより足を動かしていた方が気が紛れるからだ。




「どうぞ」




「どうも……」




 この世界では途方もなく街中を歩くだけで何の広告も打っていない無地のポケットティッシュを配られる。これで20個目だ。優しさに意味や理由を求める俺が間違っているのだろうか。晴れ晴れとした朝の日差しとは対照的に俺の心はどんよりとした厚い雲で覆われていくばかりだ。この先俺はどこに向かって何をすればいいのか……そういえば元の世界でも毎日そんな事を考えていた気がする。環境や周りのせいにしては逃げ出し、言い訳を重ねて生きてきた。そんな頭でっかちな俺に桐乃はいつも寄り添ってくれていた。


「全部を頑張ろうとしなくていい、ひとつだけ頑張れる事を探そうよ」と言う桐乃の言葉には何度も救われてきた。今の俺がひとつだけ頑張れる事……それは元の世界に戻って本当の桐乃に「今までありがとう、さよなら」ときちんと向き合って今までの感謝を伝える事だ。


 力強く握った拳の中でポケットティッシュが「クシャ」っと小さく音を立てた。

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