第2話 終わりの始まり②

 西神北駅という不可解な駅で降りてから3日が経った。桐乃とはまだ会えておらず、連絡も来ていない。桐乃の事は気掛かりだが今は西神北駅の事で頭がいっぱいだ。ネットで調べてみたりもしたがそんな駅はどこにも存在しなかった。しかし、決して夢や妄想では無い。爽やかな車掌も、唐揚げの似合う恰幅の良い駅員も、苺大福を握らされた右手の感触さえ鮮明に覚えている。


 そんな中、ネット記事で漠然と俺の興味を引くワードを見つけた。それは、秘境駅というワードだ。またの名を異界駅とも言うらしい。都市伝説の類いで、有名なもので言えば(きさらぎ駅)という駅にまつわる話だ。俗に言う怪談話として多く語られている。得体の知れない駅に降り立つ恐怖という点は、すごく近いものを感じたが、突然片脚のおじいさんが現れたり、太鼓や鈴の音が聴こえるといった怪奇現象の様な事は起こらなかった。


 しかし、あれから3日間……異変というか、嫌悪感の様なものを感じる事が多くなった。最初は些細な出来事だった。馴染みの定食屋でいつもの様に生姜焼き定食を注文した時の事だ。生姜焼きの横にご飯、味噌汁、香もの、といつものセットがお盆に乗せて運ばれて来たまでは良かった。食べようとテーブル横の割り箸に手を伸ばしたその時、店員が「サービスです」と唐揚げやら肉団子やらコロッケやらをテーブルいっぱいに並べ始めたのだ。さすがに怖くなった俺は「もう大丈夫です」と定員が新たに置こうとしている焼き魚の皿を両手で突き返した。「そうですか……」と残念そうに厨房へと戻る店員。申し訳ないが余程の大喰らいでも無い俺は、そのサービスのほとんどを残してしまう結果となった。


 そしてそれは序章に過ぎず、足を運ぶ先々でそんな事態が日常的に起こる様になった。コンビニに行けば熱々の肉まんを口に放り込まれ、散髪に行けば2時間かけて丸坊主にされた。個人的に1番酷かったのが気分転換にと映画を観に行ったら受付のスタッフにオチを言われた事だ。映画の件に関してはサービスかどうかも不明だ。


 ここまでくるとバターとマーガリンの違いがわからない鈍感な俺でもある程度の察しはつく。


 異常なサービス精神や優しさの押し付け、はたまたこちら側の要求に対しての受け入れの良さ。これはどう考えてもおかしい。


 俺はここでひとつの仮説を立てる事した。ここはきっと元にいた世界に良く似たパラレルワールドなのだと。そしてそれは、性悪説を唱えた荀子が聞いて呆れるほどに良心的な人しかいない世界線……ある意味俺はとんでもない所に来てしまったのかも知れない。

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