宿屋のハプニング

その晩、飲み明かした俺はかなり遅くに宿屋に着いた。




このまま朝まで、と思ったが流石に二人とも心配するだろう。




宿に着くと小さな灯りだけついていて、女性が縫い物をしていた。




「あら? お客さん……。あっもしかしてリリアさんたちのお連れさんかしら? お名前をお伺いしても?」




俺に気づいた女性が、尋ねてくる。




「朝霧 天羅と言います」




「朝霧さんですね。ではお部屋に案内しますね」




うー頭が痛い。本当に久しぶりだったから飲みすぎた。




「ちょっと待っていてくださいな」




女将さんはそういうと、すぐ近くにあった扉に入って行く。




すぐに戻ってきて、その手にはお水の入ったコップがあった。




「これでも飲みなさいな」




「ありがとうございます」




飲み過ぎを気づいてくれて、お冷を用意してくれたみたいだ。


気の利く方だな。




「ありがとうございました」




もう一度お礼をいって、コップを返す。




そのまま階段を上り、部屋の前で女将さんが止まる。




「ここがあなたの部屋よ。これが鍵ね」




そう言って鍵を渡される。




「じゃあ、おやすみなさいね」




「ありがとうございます。おやすみなさい」




小声での会話を終えて女将さんは戻って行く。




鍵を開けて中に入る。当然部屋は暗く、お水と散歩で酔いも少し冷めているがぐっすり行けそうだ。




上着だけ脱いで、ベットに直行する。




布団を剥いで中に入る。




あれ?あったかい?




アルコールで体温が上がっているのだろう気にする必要はないかな。




むに。




柔らかい?ん?抱き枕か?いやまな板?




「んっ」




え?声が俺は布団の中をよく見た。




目が合う。ぱっちり空いたお目目が俺を見つめている。




そこにはリリアさんがいた。




「ご、ごめん」




俺は急いで出ようとする。




だがそれは腕を掴まれで、止められた。




「どこに行こうとしてるのでしょう?」




「え? 別のベットに行こうかと」




「ご主人は美由様に遠慮なされてこちらを選ばれたと思われましたが?」




「えーと」




俺は思考を回転させてこの場を抜ける策を考える。


どうすればいいんだ?




「ちゃんとお部屋はご覧になりましたか?


ここはツインのお部屋、ベットは二つですよ?」




俺は辺りを見渡す。




確かにベットが二つだ。


それぞれに二人が寝ている状況で、俺がリリアのいる方を選んだと言うわけか。




「俺、床で寝るよ」




俺はここから抜け出すためそう言うが、俺を掴む手は離されない。






「このままでよろしいと思います。ご主人様はご主人様で私は奴隷なのです。好きにして頂いて構いません。もし嫌なのでしたら私が床で寝ますので」




「わかったよ。もう寝よう」




俺はリリアに負けて、このまま寝ることにした。


酒と女性の温もりを感じつつ、アルコールで上がった脈を更に押し上げながら、眠りにつこうとした。






次の日案の定、なかなか眠りに付くことが出来なかった。


いつの間にか眠ってはいたが、かなり長いこと悶々と考えこどをしていたことも覚えている。


その時点で寝れてないんだよな。




俺は目が覚めたのでベットを出ようとしたのだがそれが出来ない事情があった。




後ろからガッツリとホールドされているのだ。


ここ数日俺より遅くまで寝ていることはなかったから、知らなかったがなかなかに寝相が悪いのかもしれない。


リリアも今まで奴隷で、旅もちゃんとは寝れてないから疲れが溜まっているだろうし、ちゃんとしたベッドで寝るのは久しぶりなので仕方がない部分はあるが、本当にしっかりとホールドされ、身動きが取れない。




俺はこの状況を美由見られないように早くなんとかしなければならなかった。




だが身動きが取れなければ何も出来ない。




俺は必死に動こうとするがいかんせん力が強すぎる。




「なに、してるんです?」




冷めた声、その声の先には冷ややかに見つめる美由がいた。




「えっと……」




言葉に詰まり、何も話せない。


ダメだちゃんと何か言わなければ。




「これは、やましいことなんてないんだぞ! ただ同じベッドで寝てただけでな。これだって起きたらこうなってただけで、どうしようもなかったんだ」




俺は早口言葉でそう言い訳をした。




「ふーんそうなんですか。リリアちゃんは天羅さんの奴隷ですから、とやかくは言いませんけど、そう言うことはしてないんですよね?」




「は、はい!」




俺は元気よく肯定した。


なぜだ、なぜここまで責められているんだ。こう言う時はやっぱり男は弱いな。




「おはようございます。ご主人様、リリア様。昨日は優しくしてくださってありがとうございます」




さ、最悪だ!




なぜこのタイミング、しかもそんな誤解を招くような表現なんだ!




「り、リリアさん?何を言ってるんです?」




「天羅さん? 詳しくお話をしましょうか?」




その後キョトンとするリリアを放置し、リリアからは解放された俺は、美由正座させられ、説教を受けるのだった。




それから解放されるのは2時間後のことだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る