ハッセルの街
車を走らせ丘を越えるとちょうど街が見えてきた。
いきなり車で乗り込むのは目立ち過ぎてしまうので車は流石にここまでにする。
服装も戦闘服では目立つのではないだろうか。日本でも迷彩を来て外を歩けば注目されていたしな。
そういう理由から着替えることに。
「そういえば私の着替えまであるなんてびっくりしましたよ。あからさまに女の子用の服が数着入ってるんですもの」
「本当だよな。あのメイドどこまで見透かしてたんだろうな」
バックの中には俺のと思われる男性用ものと、明らかに俺のじゃない女性用が入っていて、あのメイドが俺のことをあっち系だと思っていない限りこれはこの子に用意されたと読んでしまう。
「とりあえず俺着替えるわ」
「え?ちょっと待ってください!」
俺はつい癖で気にもせず着替え出してしまった。
すでにパンツ一枚になっており、戦闘服は車に入れている。
すると目の前にいる橘はプルプルと震え出した。
そして
「待ってって言ってるでしょっ!」
その拳は俺の頬を貫いた。
「い、良いパンチをお持ちで……」
俺は捨て台詞を吐き、その場に崩れ落ちた。
★
頬の痛みを感じながら目を覚ます。
目の前には橘の顔があった。
頭には柔らかい感触があり、ふと今のシュチュエーションが頭に再生される。
「これは膝枕というやつか?」
こんな羨やま展開きて良いのだろうか?ていうかしっかり見ると橘可愛いな。
クールな雰囲気を出しつつもまだ幼顔で実際は何歳なんだろうか?
制服を着てたし高校生だとは思うけど……高校生に膝枕って犯罪の匂いがするが。
「はぁ、まぁそれだけ元気そうなら大丈夫ですね」
彼女は呆れ顔でそうと俺の頭を持ち上げて、すっと膝を抜いた。
もう少し余韻に浸りたかったけどまぁしょうがない。
それとまだこの子とは出会って1日なんだけどな。
「膝枕、ありがとな」
「いえ、元はといえば私が殴ったのが原因ですし気にしないでください。これも打算なんで」
「まぁ打算でも良いけどね。それとさっきタメ語だったじゃん。これからもタメ語でいいよ? 敬語あんまり使わないでしょ?」
「それはダメですよ。ただ……」
「ただ?」
「名前で呼び合いませんか?」
「え?」
この子との距離はいつ縮まったんだ?
そんなフラグ立てた覚えは無いんだけど。
「嫌でしょうか?」
「そんなわけ無いけどさ。えーと美由……ちゃん」
「はい天羅さん!」
二人は立ち上がりようやくハッセルの街へと歩き始めた。
★
夕陽が沈みあたりを黄金色に染め上げる頃、ようやく二人は街の入り口に到着していた。
特に列ができているわけでもなかったので、門番の元まではすぐにだどりついた。
門番の男はかなり華奢で本当に守れるのか心配になるが、この人も歴とした兵士なのだろう。
そのように見ていると男は慣れた手つきで俺たちを呼ぶ。
「次の者こちらへ。この街には何しに?」
海外に行く時の入国審査みたいなもんだろう。まぁ海外行ったことないんだけどね。
「買い物と宿泊ですね。明日買い物が済んだら、また旅に戻ろうと思ってます」
ありきたりな答えで返す。このくらいなら怪しまれることもないだろう。
「身分証はあるか? あるなら提示を、ないなら銀貨1枚で仮身分証を発行するぞ」
「ないですね」
「そうかなら二人で銀貨2枚になるが大丈夫か?」
こういう処置があるってことは身分証を持たない人は多いのだろうか?
「よしではこれが仮身分証だ。この街には3日なら滞在ができるぞ。それまでに出なければ不法滞在として連行することになるから注意しろ。ではようこそハッセルの街へ」
結構ゆるいんだなと感じながら俺たちは帝都を除くとはじめての街へと足を踏み入れた。
「まずは宿を決めたいね」
「そうですね」
もうすぐ日も沈むため、早めに宿を決めてしまいたい所だがどうしたものかな。
二人で宿について悩んでいるところに猫耳少女が現れた。
「お兄さん! お姉さん! 宿についてお困りですか?」
「え?」
振り返ると小学生くらいの少女が買い物袋をぶら下げて立っていた。
「えーと君は?」
「私はラミィっていいます。うちは七色林檎って言う宿屋をやっています。お兄さんとお姉さんが宿を探していたのでえいぎょうと言うやつをやってみました」
この年で営業か、逞しいな。将来はかなりのものになるんじゃなかろうか。
「じゃあ案内して貰えるかな?
美由もそれで良いよね?」
「はい、私は構いませんよ」
「わかりました。じゃあついてきてください!」
「ほら、持つよ」
「ありがとうです」
そう言ってラミィから買い物袋を受け取り、後をついて行く。
少し歩いて辿り着いたのは老舗を感じさせる良い感じの宿だ。
「お母さんただいま~お客さん連れてきたのー」
そう言うと少女は中へと入って行く。
すると少女と変わって奥からお母さんと思われる女性が出てきた。
「いらっしゃい。娘が連れてきたそうで迷惑じゃなかったかい?」
「いえ全然大丈夫です。宿に困っていたんでちょうど良かったですよ」
「そうかいそうかいそれなら良かったよ。部屋はダブルで良かったかな?」
気の良さそうな女将さんはニヤニヤしながらそういう。
ダブルってベットが二つ?それはツインだっけ?……ってなんで一緒の部屋に泊まる前提なんだ?
俺は美由の顔を見るが彼女も彼女で顔を真っ赤にしている。
そして小声でツインでと言った。
「ふふ、やっぱり一緒の部屋なのね。」
と女将さんは鍵を渡してくる。
どうやら俺の付け入る隙は無かったようだ。
「部屋は302号室だよ。お風呂のような高級品はないから、体をふく用のお湯は1杯はサービスだから後で取りにきな。それと晩飯はもうすぐ、朝飯は6時からそこの食堂でやってるからその時々に鍵を見せてくんな。ではごゆっくり」
女将さんの説明を聞いて鍵を受け取り、部屋へと向かった。
そこは12畳くらいの部屋にベットが二つ置かれたシンプルな部屋だった。
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