相談
「改まってどうしたの?」
やや困惑気味に、葵が問いかけて来る。
「今朝、ここに来る前のことなんだけど……」
翼には二回目になるが、今朝の家族でのやり取りを打ち明ける。僕が炎上する可能性を、特に母が心配していること。父から一生戦い続ける覚悟があるかと問われたこと。
そして、もし僕の発言が問題となれば、一緒に活動をしている皆にも被害が及ぶかもしれず、本人だけでなく、その家族にも迷惑がかかる可能性があるとも付け加える。
また、家族にはまだ話していなかったが、そもそも沖島と一緒に活動するのだから、既に火種はある。無傷での配信にはならないだろうことも説明した。
「僕達の配信にはリスクがある。それでも、皆で一緒に配信をやっていく?」
問いかけに、葵と怜は神妙な顔。翼は事前に話をしていたから、その表情には覚悟が見える。
そんな中、沖島が微笑みと共に、あっさりと言った。
「火種になってしまうのは申し訳ないんですが……少なくとも、私については心配要りません。既にある程度そういうのを経験していますから、もはや戦い続けるしかない状況です。光輝君と一緒に活動しようがしまいがそれは変わりません。私はリスクを抱えても、光輝君と活動したいと思います」
「そっか……そうだよな」
僕と、そして翼も頷いた。
「なら、あたしと灯さんは光輝さんと活動していくことになりますね。あたしも、光輝さんと一緒なら一生でも戦えます。葵さんと怜さんはどうします?」
問われて、二人は表情を曇らせる。楽しい雰囲気が一転、重い空気になってしまって申し訳ないとは思うが、きちんと話さなければならないことでもある。
「光輝の話を聞くと、確かに不安は出てきちゃうかな……。わたしだけならまだも、花梨とか親を困らせることはしたくない……」
「私も、家族にまで迷惑かけられないとは思う。一生戦い続けるのも、はっきり大丈夫だとまでは言えない……」
「うん。それが当然だと思うし、僕自身も、何が起きても戦い続けられるという自信が持てていない。今の気持ちだけで言えば、いざとなれば頑張ろうとは思っているんだけど……」
僕の言葉を聞いて、葵と怜はさらに悩む。そんな二人に、翼が提案。
「お二人とも、決心がつかないなら、表に出ないで裏方として支えるっていう方法もありますよ。配信をする人からすれば、それだけも助かります」
「わたしは……自分だけ安全なところにいるっていうのは気が進まないな。大切に思う人となら、リスクも一緒に分かち合いたい」
「私も葵と同じ。自分だけは無事でも、安心できないし幸せにもなれない」
「なら、リスク承知で一緒にやりますか?」
うーん、と考え込んでしまう二人。その悩ましさはよくわかる。
渋い顔のまま、葵が問いを発する。
「……ちなみに、炎上って、そんなに長く影響するものなのかな? よほど悪いことをしないと、最悪の状態にはならないんじゃない?」
その問いに、翼が答えた。
「影響範囲はものによるでしょうね。一生続くというのは稀でしょう。あえて迷惑すぎる行為をしたとかだと長く続きそうですが、光輝さんの場合はあくまで自分の考えを述べるだけ。なので、明らかに悪いことをした人のような状況にはならないでしょう。
でも、だからって油断するのは危険です。最悪な状況も考えて行動するのがいいてす。
わかってるとは思いますが、たくさんしゃべれば一つや二つは失言が出てくるものです。その場ではこう言ったけれど、改めて考えたらおかしいことだった、とかは普通に出てくるはずです。
光輝さんも配信で言ってますけど、本当なら、多少のミスは許されていいことなんです。誰だって完璧ではないんですから。でも、今は視聴者が潔癖で、配信者には完璧さや清廉潔白を求める節があります。そして、何か気に入らないことがあるとすぐに反発したり批判したりしてきます。
世の中にはおかしな人もたくさんいて、あえて誰かを追い込んで喜ぶ人だっています。そういうのに目をつけられると厄介ですね。それに、ネットにはいつまでも情報が残りますから、誰か身近な人が炎上騒ぎを知り、偏見の目で見てくる可能性はあります。
配信をやっていく上で、絶対安全という保証はありません。何かあれば一生でも戦い続ける、という意思が持てないなら、当たり障りのない配信に終始するのがいいでしょう」
「そっか……」
「今すぐ決める必要はありません。でも、半端な気持ちでやるのはよくないです。じっくり考えていきましょう」
一応、僕がリーダーという立場でやっていくはずではあるが、翼が率先して話を進めてくれて助かる。こういう面でも、二人がいれば何かとやっていけるのかなとも思う。
「翼は怖くないの? いくら光輝がいるとしても、何が起きるかなんてわからないし……」
「怖いですよ? でも、それ以上に、あたしは一番近くで光輝さんの配信を聞いていたいですし、支えたいです。
人によっては不快に思ってしまったり、危うい発言と受けとったりする人もいるでしょう。だとしても、光輝さんの言葉はあたしを励ましてくれますし、日頃感じている違和感や気持ち悪さを解消してくれます。あたし以外にもそう感じる人はいると思います。
あたしは光輝さんが好きです。一人の男性としても、配信者としても。光輝さんが配信をやめたとしても、あたしはこのまま好きでい続けるでしょう。でも、光輝さんが配信を続けてくれたら、もっともっと好きになります。
あたしは、光輝さんのために、全部捧げます。その価値があると思えたから、全部、あげます。もう、こう思えただけであたしは幸せです。だから、この先何が起きても大丈夫です」
翼の微笑みが、あまりにも心強い。
翼はただ、葵と怜に聞かせるための言葉を発しただけだろう。だけど、横で聞いている僕は、何か突き動かすものを感じてしまった。
さらに、翼が続ける。
「誰かのために、何かができる。それって、とても嬉しいことですよね。
あたしが一緒に配信をする理由は、光輝さんと一緒に頑張るのが楽しいから。でも、それだけじゃなくて、リスクはあったとしても、あたしも誰かのためになってみたいんです。だから、やります」
翼が宣言して、葵と怜がどこか羨望の眼差しを翼に向ける。
「翼は迷いがないなぁ。わたしはまだ、そこまでのことは言えないや」
「うん……。だけど、私もやっぱり一緒に配信やりたいとは思う。そのつもりで考えたい」
葵と怜も、多少は心の動くところがあったのか、前向きな姿勢を見せてくれる。
「……ただ、僕達皆でやるとすれば、ちゃんと家族の了承を得た方がいいよな。もう少し話がまとまったら、家族にも話していこう」
「うん。とりあえず、光輝の配信を紹介しておこうかな。わたしの家族も光輝の配信のことは知ってるんだけど、まだちゃんと視たことはないから」
「私も、そうしてみる」
僕は小規模に自分の配信をやればいいと思っていたけれど、少しずつ話が大きくなっている。巻き込む人が増える分だけ責任も増して、重圧にもなっていく。
怖くないわけではない。それでも、やれるだけやってみたいという気持ちも出てきている。
ただ一人で本を読んでいるだけなら、リスクもなくて気安い。けれど、自分の存在に価値を見出だすこともなかった。今思うと、寂しいことだったと思う。
「……それじゃあ、ひとまず、僕達が何をしていくのかとかをもう少し具体的に考えていこうか。その内容によって、事前に考えるべきことも変わってくるだろうしさ」
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