雑談 2

 翼と沖島の睨み合いもほどなくして終わる。喧嘩しているわけではないのだから当然だが、僕としてはホッと一息。

 そして、壁に立て掛けてあった座卓を置き、五人で囲んで座る形となった。

 僕の両脇に葵と翼がいて、特に翼は距離が近い。近いどころかくっついている。何を言っても引きそうにないからそのままにしておくが、気まずくはある。葵達三人の視線がやや冷たい。

 翼その他から意識を逸らす意味合いもあり、視線だけで葵の部屋を軽く見回す。

 この部屋は、女の子のものとしては比較的簡素ではないかと思う。淡い色合いの家具で統一されているのはそれっぽいが、ぬいぐるみなどは置かれていない。代わりに、少年漫画が少しと、ゲーム機がいくつか置かれている。勉強机の上にはアクセサリー類が置かれていて、そこはやはり女の子の部屋だなと感心する。

 女性らしさを感じすぎない部屋であることに安堵を覚えるが、男の部屋との違いにはすぐには慣れない。

 そんな僕を見て、沖島がにんまりと笑う。


「不馴れなのがよくわかりますね。もしかして、女の子の部屋に来るのは初めてですか?」

「うん……」

「私が訊くのもなんですけど、初めての感想はいかがですか? 理想通り? それとも幻滅ですか?」

「幻滅とかは、全然ない。理想でもないな。そもそも理想を持ってないし」

「でも、もっと、ぬいぐるみとかふわふわしたものがあるのを想像してませんでした?」

「まぁ、多少は」

「女の子の部屋でも、そういうのばかりではないですよ。まぁ、私の部屋には人間大のクマがいますけど」


 沖島がスマホを操作し、その写真を見せてくれる。ダラッとした感じのクマがベッドに横たわっていた。


「これは、抱き枕?」

「そうですね。購入したのは何年も前なんですけど、今でも私の部屋の住人です。案外、寝るときに抱くと心地いいですよ。おすすめです」

「へぇ。けど、流石に僕がそういうのを持ってたら引かれるかも」

「確かに。なら、男子高校生らしく、美少女キャラがプリントされた抱き枕でいいんじゃないですか?」

「それも別の意味で引かれるんじゃないかなぁ……」


 僕は漫画もライトノベルも好きだが、グッズを集める趣味はない。ある意味、本のコレクターといえばそうだが、それ以外は集めていない。

 僕が気乗りしないのを見てか、翼がニタリと笑って言う。


「なら、あたしの写真を使った抱き枕を作りましょう。特別に水着の写真にして、できるだけ匂いもつけとくので、好きなときに使ってください。もちろん、使うっていうのは、意味深な方の使うです」

「とんでもない妙案を思い付いたみたいな雰囲気だけど、それも遠慮しておくよ。家に置いておくには恥ずかしすぎる」

「えー? 光輝さんはもっと自分の欲望を解放していいと思いますよ。そんな仙人みたいなたたずまいだから、あんな小娘にナメられるんですよ」

「小娘って……」


 翼からしたら二歳下でしかないのだが、女の子的には大きな差なのかもしれない。女の子は成長が早いらしいからな。

 ともあれ、翼はなかなか抱き枕作成を諦めなかったが、ここはきっぱり断った。でないと本気で作ってきそうだ。


「なら、せめてあたしの写真を部屋に飾ってください。ギリギリ全年齢でとびきりセクシーな写真をあげます」


 それもやめてくれ、と僕が言う前に、沖島割って入る


「だったら私の水着写真も飾ってください。プロが撮った綺麗なやつがありますよ」

「ちょっと、それは卑怯ではありませんか? せめて自撮りでやってください」

「それでもいいですよ? でも、翼さん、下着はダメですからね?」

「元よりそのつもりはありません。ギリギリ乳首が見えない下乳とか、下着すれすれの太ももとかです」

「それもやり過ぎですよ。普通に水着とかにしてください。ちなみに、光輝君はスク水派ですか? ビキニ派ですか?」

「そんな派閥があるのか? 少なくともスク水派ではないな……」


 スク水が嫌いとはもちろん言わないけれど。それはそれで魅力的だとは思うけれど。どちらかというとビキニがいいかな……。少々脳内が桃色になりつつある僕に、翼がニヤニヤしながら言う。


「光輝さんは全裸派ですよね? 高校生なんだからそれでいいと思います」

「まぁ、それは、そうかも……」

「それを言っては話が終わってしまいますよ」


 沖島が指摘して、翼は、ふむん、と一瞬考える。


「じゃあ、巨乳派か微乳派かを確認しておきます?」

「でも、訊いたところで何? という感じじゃないです? 私達の中に、特に巨乳も微乳もいませんし」

「そうですねぇ。単純に光輝さんの性癖には興味ありますけど、案外、男性は胸の大きさで女性を選ぶわけではないとも言いますよね。実際、どうです? 光輝さん、胸の大きさで女性を選ぶんですか?」

「いや、僕はその辺はあまり気にしない……。大きさとその人の魅力は無関係だと思うし……」

「話が広がりませんねー。光輝さん、やはりもう少し野獣化してもいいのではないかと」

「今はまだ、女性の胸は空想世界のものに近いですし、実際に触ってみたら変わるかもですね。光輝君、ひとまず、服の上から見た感じ、この四人の中で誰が一番魅力的かだけでも訊いていいですか?」

「いい質問ですね。光輝さん、どうですか? 皆薄着ですし、こそっとドキドキしてるんでしょう? どのお胸に一番ときめきますか?」


 翼と沖島は、姿勢を正して胸を突き出す。この二人、意気投合しすぎでは? 出会ってまだ二日って本当かな? いや、それよりも。

 二人の胸部に注目するわけにもいかず、視線をさ迷わせる。葵は苦笑いで、怜は胸元を手で隠しつつほんのり赤面していた。


「男の子が胸に興味を持つのはいいと思うけど、あえて比べられると気まずいなぁ」

「その……将来的に、そういう関係になったら見てくれてもいいんだけど、今はジロジロ見られるのは恥ずかしい……」


 ひとまず、特に恥ずかしそうな怜からは視線が外れるよう、天井の隅に視線をやる。そんな僕を見て、翼はケラケラと笑う。


「もう、ウブですねぇ。どうせ付き合い始めたら見るし触るんでしょう? もう付き合ってるようなもんなんですから、好きに見ればいいんですよ」


 ほらほら、と翼が胸を強調する姿勢。そこで、葵が指摘。


「そうやって既成事実作ろうとしてない? ここまでやってただの友達とは言わないよね、とか」

「はて? なんのことでしょう? あたしはそんなに計算高くないですよ?」

「はいはい……」


 積極的すぎる二人が主導の会話は、どうにも過激になりすぎだ。怜からは視線を外しつつ、気まずい気持ちで謝る。


「……えっと、怜は、こういうの苦手だよな。なんか、ごめん」

「光輝は悪くないから……」


 そして、呆れながら葵が言う。


「これくらい、女子だけの集まりだったら割と普通の会話なんだけどね。翼も灯さんも、遠慮なさすぎ」


 普通なのか? 僕としては少々衝撃だが、葵が言うからにはそうなんだろう。ただ、衝撃的なのは怜も同じな様子。


「私がウブ過ぎる……? 一人だけそっち方面の精神が小学生のような気がしてきた」

「怜の周りは控えめな人が多いのかな? わたしの周りはなぁ……。彼氏とホテルで云々とか結構あるんだよね。わたしだけおいてけぼり感が……。

 まあ、ずっとそんな話をするのもなんだし、配信の話でもする? そのために集まったんだしさ」


 ようやくと言うべきか、葵が切り出す。そこで、真顔になった翼が僕を見る。その意味もわかるので、一つ頷き、皆に向けて話す。


「そのことでさ、先に皆に相談しておきたいことがあるんだ。いいかな」

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