練習終わり

長くなったので二つに分けてほぼ同時に公開しています。


・・・


「話し始めると案外スムーズかもなぁ」

「うん。でも、私が話せたのは、葵がメインで話してくれたおかげ」

「わたしだって一人じゃ無理だったよ。会話形式だったからなんとか話が続いた感じ」

「なら、よかった」

「ちなみに、聞いててどうかな? あんな感じでいいのかな?」


 葵が問いかけてきて、最初に口を開いたのは翼。


「いいと思いますよ。雑談は話が繋がっていれば十分です。ただ、恋愛の話題については控えた方がいいでしょうね。ラジオであたし達の関係を説明するのは難しいです」

「だねー。光輝はどう? 少しは楽しめた?」

「……楽しかった。ただ、気まずくはある」

「あはは。ごめんね」

「うん……。えっと、でも、手応えあったなら、よかったと思うよ」

「うん。ただ話すだけだったらできるのかも。っていっても、だらだら話すだけじゃ、自己満足もいいところかもしれないけどさ」


 葵が自嘲気味に笑うが、翼が首を振る。


「今のは割と中身もあったと思いますけど、ラジオ配信は、ただ話しているだけでもいいんですよ。中身のある話じゃなくても、なんとなく人の話を聞いていたいとか、ちょっとだけ雑談に混じりたいとかいう人だっています。

 そういう人が求めてるのは、話を聞いて何かを感じるとか学ぶとかではなくて、リラックスすることです。光輝さんの視聴者にもいたじゃないですか。ずっと一人で寂しいから人の気配を感じたい、とか。

 仕事とか学校で疲れているから、もうこれ以上頭は使いたくない。中身のない話だからこそ聞いていたい。そういう人に向けて配信すればいいんですよ」

「なるほど……。色んな需要があるもんなんだね」

「そうです。なんでもいいから女子高生の雰囲気に混ざりたいというおじさんもたくさんいます」

「あー……なるほど」

「ラジオ配信すると、そういうのは少なからず聞きに来るので覚悟してください。ただ、変質者みたいなおじさんは見かけないので、あーおじさんがいるなー、くらいに思っておけばいいです」

「……わかった」

「配信では、若い女性というのはそれだけでアドバンテージ。一方で、話の内容に関係なく人が集まるので、自分が何かすごい人気がある、とか勘違いしてはいけません」

「うん。そうだね。アドバイスありがとう。ちなみに、練習でラジオ配信をしていくとして、わたしと怜だけじゃなくて、翼も一緒にやってくれない?」

「……あたしがいると、しゃべり過ぎるかもしれませんよ」

「そのときは止めるよ。大丈夫」

「……誘ってくださるなら、あたしもやりますよ。一緒に配信をしていこうとしている関係ですし」


 翼が努めて渋い顔を作る。素直に笑顔になれないのが可愛いなと、こっそり思った。


「……光輝さん、他人事のように見てますけど、この流れだと光輝さんもどうせやることになりますからね」

「そのときはもちろん参加するよ」

「なら、この感じでならしていって、一ヶ月後を目処に本番のチャンネル開設ですね」


 翼の言葉で、このメンバーに高揚の混じった緊張が走る。不安はもちろんあるけれど、浮き足立つところもある。こんな感覚は初めてで、世界が一気に広がっていく気がした。

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