ラジオ配信、練習 2

「えっとー」

「……うんと」

「……何を話せばいいんだろ?」

「……どうだろう? 私、自分から話題を作るの苦手かも」


 二人の会話形式としても、結局なかなか本題に入れない二人。僕もいつも最初の話が難しいので、その気持ちはわかる。何か話し始めるとあとは流れに任せていけばよいのだが、それまでが悩み所。

 翼はその様子をニヤニヤしながら見ているが、それは可愛そうなので、軽く質問を流す。


『名前は?』

『どういう関係?』

『どうして配信を始めたの?』

『学校生活はどんな感じ?』

『最近楽しいことあった?』

『逆に嫌なことは?』


 ひとまず、初回の話題になりそうなことをポイポイっと送る。

 翼は呆れて溜息を吐くが、葵と怜はホッとした様子。そして、葵から口を開く。


「はじめまして。今日からラジオ配信を始めた清水葵だよ。聞いてくれてありがとう。それから、今日はもう一人いるんだ」

「はじめまして。葵の友達の雪村怜」

「わたし達は高校の友達で、一ヶ月後くらいに、他の友達と一緒に生配信のグループを結成する予定なんだ。このラジオ配信は、その予行演習のつもりで始めたよ。そんなにたいした話をするつもりはないんだけど……やっぱり緊張しちゃうね、怜」

「うん。わかる。フリートークは難しい」

「本当にね。突然、はい話してー、って言われると、何を話せばいいかわからないや。学校のテストは、これを答えろ、って指定されるから、ある意味楽なのかも。たまーに書かされる自由作文は苦手だったなぁ。怜はどうだった?」

「私も作文は苦手。ただ、それは学校の求めるそれらしい作文を書くのが苦手ってことかもしれない。自由に作詞しろ、って言われたらできる」

「あー、なるほどね。わたしも日記だったら書けるかなぁ」

「日記なら、確かに簡単。何も考えずに書けばいいだけだから。でも、他人にはちょっと見せられない」

「だよねー。日記、今でも何か印象に残ったことがあれば書くんだけど、あれは人には見せられないなぁ」

「私は毎日書くようにしてる。誰かに見られたら恥ずかしくて生きていけない」

「そうだねー。日記の話は、深入りすると大変なことになるのでここまでにしようかな。学生生活については、今のところ順調だね。最近、えー、好きな人が一人と、新しい友達が二人もできたんだ。あ、友達はもう一人増えるかも。四人とも素敵な人達だから、今は本当に幸せだな」

「……その友達の一人として、これは反応に困る。嬉しいとは思うけど」

「あはは。怜、これからも宜しくねー」

「宜しく」

「怜は照れ屋さんなんだよね。逆にわたしはおおっぴら過ぎる?」

「私は普通。葵が特殊」

「うわ、友達から変人扱いされちゃった。そうなのかなぁ? そんなことないと思うけどなぁ? まぁ、これは自分ではわからないね。それで、最近の楽しいことは、その新しい友達とわいわいできることだな。怜はどう?」

「私も同じ。すごく、楽しい」

「そっか。良かった。次の、嫌なことは……どうだろう? 怜、何かあった?」

「嫌なことというか、気になることは……好きな人が、なかなか私になびいてくれないこと、かな」

「あー、それはわたしもだなぁ。って言っても、まだ気持ちを伝えてからお互いに数日だから、なかなか、って表現するのは気が引けるけどね。何ヵ月も何年も片想いっていう人は少なくないし。わたし達はまだ幸せな方だよ。

 ちなみに、わたしと怜の好きな人は同じで、二人ともその人に告白済み。まだ誰と付き合うとか考えられないからって、保留にされてるんだ」

「そうなんだよね。三人……あ、四人かな? うん。四人だ。四人が告白して、保留状態。でも、私が一番上手く絡めてないから、私はあまり可能性はないのかもしれない」

「そんなことないよ。彼の視線とか見てると、ドキッとして視線を逸らしてるんだろうな、って場面も結構あるもん。絡みは少し控えめかもしれないけど、そういう控えめな雰囲気、男の子は好きなはずだよ」

「そうかな?」

「そうそう。病弱とか、儚げとか、控えめとか、男の子はそういうのに惹かれちゃうんだよ」

「なるほど。この路線も悪くない、かな?」

「路線、って。キャラ作ってるの?」

「作ってるわけじゃない。でも、何か変わらなきゃいけないのかな、って思ってた……。正直、葵みたいな子に憧れる」

「え、そうなの? うーん、友達からそういうこと言われると恥ずかしいな」

「私は歌が好きだけど、誰かと楽しく過ごす能力を身につけて来なかった。歌と音楽ばっかりの生活を送ってきて、それはある意味充実してたけど……普段の生活では、私はやっぱり魅力のない人間なのかなと思う。私は、やっぱり葵が羨ましい。自分が男の子だったら、きっと葵を好きになる」

「な、なんだかその告白も恥ずかしいな……。でも、わたしはなんにも特別なところがなくて、全般的に普通だよ。今はそれがちょっとコンプレックスな面もあるかな……」

「葵の心の広さとか面倒見の良さは、十分に才能。あと、私はピアニストの親戚がいるんだけど、その人はよく言ってる。普通のことを普通にできるのはすごいことだ、って。

 その人、ピアノは上手いけど、それ以外は人並みにもできないって悩んでた。料理できないとか、会社勤めが絶対できないとか。普通のことが普通にできるだけで、人間は十分に素晴らしい……そう言っていて、私もそう思う」

「……褒められるのは嬉しいけど、恥ずかしいな。でも、ちょっと自信になった。ありがとう」

「うん。ただ……私達が普通の形で恋をしていたら、私なんか全く相手にされずにこの恋は終わっていたと思う。でも、ちょっと特殊な関係になってくれたおかげで、私にも少し可能性がある。……私は彼が好きで、他にこんなに好きになる人はいないと思うから、望みが叶うように頑張る。葵の望んだ形は、応援できない。それは、ごめん」

「……そう。うん。わかった。でも、わたしはわたしで頑張るよ。怜の望みを応援できなくてごめん」

「葵の望みが叶ったら、私は悲しさと切なさで泣く」

「ちょっと、そういうこと言われるとやりづらいなぁ……。でも、引かないから」

「うん。わかってる」

「えっと、まだまだ話したい気もするけど、今日はこのくらいにしておこうか。聞いてくれてありがとう」

「ありがとう」

「またね。バイバイ」

「またね」


 そこで、二人の配信練習が終わる。そして、二人揃って大きく息を吐いて脱力した。 

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