話し合い
「早速ですけど、光輝さんにハーレム路線を認めさせる方法について考えていきましょうか。沖島さんは一番年上なんですから、何かいい案出ませんか?」
ハンバーガーショップの片隅にて、話し合いを始める僕ら。席順は、僕の左右に葵と翼で、正面に怜と沖島が並ぶ。テーブルには、ポテトと各自用の飲み物が置かれている。
さておき、配信の話し合いのはずなのに、翼が早速違う話を持ってくる。こういうのを諌めるのは葵と決まってきていて、少々申し訳ない気持ちになる。
「そんな話をしにきたんじゃないでしょ?」
「それはそうですが、葵さんも観念してはどうですか? おそらくですが、今のところ三対一でこちらが優勢ですよ?」
葵が沖島を見ると、沖島が苦笑いしながら視線を逸らした。
「沖島さん、あなたもですか……」
「あー、そのー、私はどちらかと言うと一対一の方が望みなんですけど、フラれてしまうよりはまだハーレム路線の方がいいかなー、という気持ちもなきにしもあらずで……」
「そうですか……。でも、わたしはまだ一対一を諦めません」
葵の宣言に、翼が溜息混じりに言う。
「早く諦めた方が楽ですよ? 余計ないがみ合いも競争もなく、皆で幸せになりましょう?」
「……そんなこと言っても、これ以上増えたら困るんじゃない?」
「まぁ、上限はあるでしょうね。光輝さんの精力的な意味でも」
「そういう話をこんなところでするのはやめなさい」
二人のやり取りを見て、沖島がクスクス笑う。
「なんだか姉妹のようですね。話し方からすると、風見さんだけ年下のようですし」
「僕もたまにそう見える。あ、ちなみに、翼だけ一年生で、他は二年なんだ」
「なるほど」
「あたしと葵さんが姉妹なら、光輝さん的には姉妹揃ってものにできるチャンスですよ。男の子の夢でしょう? 二人とも責任もって大事にしてください」
「それはまた別の話だ」
「ノリが悪いですね。まぁ、いいです。しょうがないので本題に入りましょうか。復帰戦はいつにします? 配信の中身は? とりあえず謝罪しときます? チャンネルはヤマト君のものじゃなくて、新しいのを作りますよね?」
気持ちを切り替え、翼が率先して話を進めてくれる。友達とダンス動画を作っているときにもこんな感じだったかもしれない。
「ちなみに、翼としてはどんな感じがいいと思う? 僕としては、ヤマトが復帰した頃に、僕達五人で活動するチャンネルを開設すればいいかなと思ってる。そして、その最初に、生配信で沖島さんからの謝罪とか反省の言葉を流す。そのあとは普通に配信活動していくけど、ヘイトスピーチや炎上とかに関しての話を少し入れた方がいいかな」
「それでいいと思います。何か敵が来るようでしたら、二人で返り討ちにしていきましょう」
「ちょっと荒れるかな……。そのときはそのときか……」
「荒れてもいいですよ。むしろ、その方が注目が集まって、炎上関係者以外にもあたし達の姿勢が伝わるんじゃないでしょうか。あたし達の場合、炎上を恐れるより、炎上を恐れない姿勢を取る方が良い配信になると思います」
「そうだな……」
「炎上と戦うのは大変ですけど、こちらにきちんとした主張があれば、いつまでもそういうのが続くことはないでしょう。沖島さんはどうですか? 詳細はもっと詰めますけど、流れとして問題あります?」
「うーん、いいと思うんですけど、正直、私はこういう作戦を考えるのは苦手で……。あ、でも、謝罪とかはできます。行動力はある方なので」
「なるほど。わかりました。基本はこっちで決めていきます。とりあえず、組んでやっていく以上、謝罪は必要になるでしょう。何も言わずにしれっと復帰してしまうのは良くないです。まぁ、最初の配信ではそこまで反響はないと思います。炎上中毒者の目についてからが勝負でしょうね」
「はい……」
沖島の顔に緊張が走る。
「ま、大丈夫ですよ。あたしと光輝さんがいれば大抵の敵は返り討ちです。沖島さんの件については、もう何も悪いところなんてないんですから、あたし達だって強気でいけます」
力強く微笑む翼。その強気な姿勢に憧れを抱きつつ、僕から補足。
「沖島さんは知らないだろうけれど、翼は言葉で戦うのが得意なんだ。並の相手だったら逆に逃げ出していくだろう」
「そういう雰囲気、ありますね」
「自分で言うのもなんですが、あたしは強いですよ。
それに、匿名だからこそ粋がってる連中なんて、本当はたいしたことないです。……とはいえ、たいしたことないからこその厄介さはありますね。論理も正義もそっちのけで、「自分は不快だ。だからお前が全部悪い」という感じでグチグチ言われると対処が面倒です」
「あなたの言うことに正当性はない。やっていることは卑怯ないじめと同じ。……そういう話が通じる相手ならいいんだけどな」
「話が通じる相手なら、きちんと話してわかり合う努力をします。でも、頭の悪さと精神年齢の低さがあるからこその炎上中毒者ですからね。言葉がわかるからって、三歳児に大人の論理で話をしても伝わらないのと似たようなもんですよ」
言い方はどうあれ、翼の言葉は的を射ている面もあるだろう。しかし、沖島は少々面食らっている。
「……風見さん、結構辛辣ですね。あまり強い言葉を使うと、それはそれで別の炎上案件になりそうな……」
「……かもしれませんね。まぁ、配信では気を付けます。でも、言葉のやり取りなら喧嘩上等です」
翼は頼りになるが、心配な面もある。こういう分野では僕がしっかりしなければ。
「……ほどほどにな。炎上と戦うための配信をするわけじゃないからさ」
「その辺は光輝さんがバランスを取ってくださると信じています。けど、積極的に正論を武器にする気はありませんが、正当防衛なら武器にしますよ。黙っていれば相手がどこまでも調子に乗るだけです。匿名だからって、いつも安全圏から気持ちよく攻撃できるわけではないと知るべきですね」
「それはそうかもな。できることなら、炎上とか誹謗中傷を行った者の個人情報の開示請求が、もっと簡単にできるようになった方がいいんだろう」
「ですね。日本人は根がねじくれてる人が多いですから。
それに、論理よりも感情優先なところも良くないです。荒唐無稽な罵倒でも、それが主張として通る面があります。相手がバカだと思うなら、その理由がなんなのかをきちんと説明してこその主張です。
そして、その理由について反論できたら、相手の主張が悪かったと証明できます。バカと言うだけで主張とされては、ちゃんとした反論もしようがありません。
逆に、感情だけの主張を繰り返す人の言葉は相手にする必要がない、そんなのは己の幼稚さの表明に過ぎない、という認識が視聴者にも広がってくれれば、炎上も減るでしょうね」
「確かに。ただ、相手の挑発に乗って、こっちの言葉遣いが悪くなったり、感情に任せて罵倒してしまったりするといけない」
「そうですね。要注意です。
あと、炎上は数の力っていうのもありますよね。正当性があろうがなかろうが、無数の人からひどい言葉を投げつけられれば、それだけで消耗してしまいます。
あたし達の場合、反論された腹いせなんかで、配信中にひたすら邪魔なコメントが流れるようになれば、配信の継続は難しくなります。そのせいで視聴者が離れることもありえます」
「そうだな……。その辺の対応はなかなか難しいか……。特定の人のコメントを非表示とかできるんだっけ?」
「確か、できますよ。まあ、数が多いと面倒ですが。
でも、沖島さんが配信復帰する前に、ある程度想定問答くらいは考えておきましょうか。それに、実際に起きてる事案についても見ておきましょう。不倫、リアリティ番組、配信者……色々実例はありますからね。まぁ、不倫系は不倫側から反論するのは難しいかもですが」
「不倫は本人の落ち度が大きいからな……。ただ、言っていいことと悪いことはあるし、その問題に全く無関係の人まで炎上に関わるのは違うと思う。無関係の範囲は難しいが……。ただ、言葉による私刑状態になってしまうのは危険だ。何かを言う前に、その言葉は本当にあなたがぶつけなければいけないものなのか? と自分に問いかけてみてほしいとは思うよ」
「そうですね。具体的にはまたじっくり話し合いましょう」
僕と翼が話し合っていると、沖島は感心し、葵と怜が意気消沈している様子。
「……お二人とも、すごく頼もしいですね。想像以上です……」
「わたしと怜がいる意味があるかなー、とは思っちゃうかも」
「こういうところではあまり活躍できない……」
そこで、翼が提案する。
「沖島さんのことはさておき、とりあえず、葵さんは配信未経験、怜さんも歌以外の配信をしたことないんですよね? やったことがなければ、何ができるかもわかりません。練習がてら、ラジオ配信なんかしてみてはどうですか? 視聴者は一桁から二桁くらいでしょうけど、代わりに気軽にできますよ」
「ラジオ配信?」
「名前は聞くなぁ……」
葵と怜が顔を見合わせる。僕もラジオ配信を実際に聞いたことはないな。どういうものだろうか。
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