ストーカーにはならない
並んで歩きながら、様子を窺いつつ、話しかける。
「えっと……同じ高校って、知ってたの?」
「いえ、全然。だから、ここで初めて知って、びっくりしました」
「元々は大和のファンかな?」
「はい。ヤマト君の頑張ってる姿が好きです。あ、でも、この好きはあくまでファンとしての好きです。それと、一方的ですけど、一緒に頑張ってる人としての好きです」
「一緒に頑張る? どういうこと?」
「あたしも配信とか動画投稿やってるんです。いえ、正確には、やってた、ですけど……」
「へぇ。すごいな。僕なんてまだ三日しかやってないけど、配信ってすごく大変だろ?」
「はい。でも、あたしの場合、友達三人と一緒ですし、人気も、出たらいいけど出なければ出ないで構わない、くらいの気安さです。真面目な話とかもほぼしません。だから、ヤマト君やお兄さんほどのプレッシャーはなかったと思います。ちなみに、歌ったり踊ったりしてました。ちょっとしたアイドル気分で」
「そっか」
扱いにくい子かとも思ったけれど、普通にしていればきちんと会話は成立している。そんなに心配する必要はなかったかもしれない。
「でも、配信はもうしてないの?」
「はい……。してないと言いますか、追い出されたと言いますか……」
「追い出された?」
「はい。あたしとは一緒にしたくないって言われました。理由は……あたしがいると雰囲気が悪くなるから、だとか。あたし、知らずに和を乱していて、一人だけ浮いちゃってるそうです……」
「あまりそんな風になるとは思えないけどな。僕と普通に話してるし」
「……本当のところはわかりません。ただ、そういう風に言われました」
「……そう」
「追い出されたのが一週間前で、それから、ずっと塞ぎこんでました。学校にも行けなくて……。でも、お兄さんの配信を聞いて、また頑張ろうかなって気持ちになれました。苦しくて死にたいくらいでしたけど、あたしは本当は生きたいだなって気づいて、本当は生きたいのに、死んだらダメじゃんって、気持ちが切り替わりました。それに、あんな風に、見知らぬあたしのためにも精一杯応援してくれる人がいると思うと、それだけでも、救われた気持ちになりました」
「うん……」
「お兄さんは、あたしにとって、命の恩人みたいなものです。迷惑かもしれませんけど、気づいたらお兄さんのことを好きになってしまいました。突然でごめんなさい。でも、好きです。すごく好きです。あたしと……付き合ってくれませんか」
「……気持ちは嬉しいんだけど、お互いのこと知らなさすぎだよ。僕は風見さんを知らないし、風見さんだって、僕が配信してるときの姿しか知らない。もっとお互いを知らないとさ」
「なら、あたしのこと、知ってください。お兄さんのことももっと知りたいです」
「うん……ただ、なぁ……」
「やっぱり、彼女、いますか?」
「やっぱりって、そんな風に見えるのか? 彼女ではないんだけど……気になってる子がいるんだよね」
清水の姿が脳裏に浮かんでいる。まだ正式に恋人同士というわけではないが、ほとんど恋人みたいな関係のようにも思う。僕も、近々そういう関係になることを望んでいた。
だというのに、別の女の子に告白されて、仲良くなるのはいかがなものかとも思う。ここはきっぱりと拒絶した方がいいだろう。話してみれば割と理性的に見えるし、変にこじれることもなさそう。
と、思ったのだが。
「……まだ彼女じゃないんですね? なら、あたしも、立候補します。お兄さんの彼女になりたいです。あたしとその人、両方とも見てから決めてください」
「ううん……」
「ダメですか? でも……ごめんなさい。ダメって言われても、すぐには諦められません。何度でも告白しにきます。その彼女と付き合い始めても、別れるときをいつまでも待ちます。ストーカーにはならない程度に、お兄さんの側に張り付きます。もちろん、あまり強引なことをしても嫌でしょうから、なるべくお兄さんには悟られないように気配を消します。昨日はお楽しみでしたね、とか野暮なことをいちいち言うつもりもありません。不幸の手紙とかくだらないものを彼女さん出すこともしません。そういう感情は一人で勝手に処理します。迷惑はかけません」
「……はは」
やや渇いた笑いが出てしまったが、風見はやはり要注意人物であるようだ。本当に危険なことをしでかすとは思わないが、一筋縄ではいかない相手だ。
ちゃんとじっくり向き合わないと、後々大変なことになる予感がする。
「……まずは友達にならない? このままじゃ何も進まないよ」
「はい。それでも嬉しいです。なら、名前を教えていただけませんか? ヤマト君のお兄さんとしか知らなくて。あと、できればその彼女未満の方にもお会いしたです」
「……わかった。いいよ」
改めて自己紹介などをして話している間に駅につき、ホームに立つ。
そして、先に来て待っていた清水が、何やら意味深に微笑みながら僕らを出迎えた。
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