第20話 浪漫スキル

アーシェス Side


「大吾君、お願いしたいことがあるんだ。

 この魔眼なんだけどそれぞれの目で能力を変えることは可能かな?」


あの日、僕の装備を作ってくれている生産職のメンバーとの顔合わせの後に

大吾君が見せてくれた魔眼に僕は夢中だった。

僕が知る限り魔眼スキルはアナスフィ史上初だったはず。

単純に眼球に装備する防具なんてないからっというのが原因のため、

個人的にはこのコンタクトレンズを作成した生産職も

非常に気になる存在ではあるが…


彼の顔色からあまりそこは触れて欲しくない様子だったため、

今回は引くとしよう。

試しに装備してみたが、目になんの違和感も感じなかった。

いや、普通にコンタクトをしている感覚と変わらないという方が

正しいかもしれない。

過去にも同じ挑戦をしたプレイヤーがおり同じく

大吾君と同じ結論になったプレイヤーは多くいたが、

誰もが目にスリップダメージを追う結果となったのだ。

元々目からスキル使用する必要性もないため、

すぐに皆が諦めたのを覚えている。



でも、大吾君とその生産職のプレイヤーはやってのけた。

機能的な意味はない。

完全な浪漫のためだろう。



だからこそ拘りたかった。

これでまたバトルが盛り上がる。

そんな確信もあったからだ。



「春斗さんはどんなスキルはほしいの?」


そんな浪漫を理解している数少ない友人を目の前に

僕はどんなスキルが欲しいのか。

まるでまだ幼い少年が自分で考えた最強のスキルを

語るかのように僕は自分の望むスキルを彼に語った。








目の前から流星が降り注ぐ。

魔弓系の決め技の中でも特に人気のあるスキル【ミーティアライン】

自身の属性を乗せた攻撃スキルであり、

使用SPは自身の最大SPの60%

クールタイムは1分

バトル開始より5分後から使用可能。


防ぐことは可能だと思う。

何か特殊なスキルが別途付与されていれば別だが、

通常のミーティアラインなら手持ちの防御系スキルを使えば

瀕死になるかもしれないが死ぬことはないだろう。


だが、気になることもある。

ビルの屋上を走り遥か先にいるトリエスティを見ていた。


通常、魔弓は矢を必要としない。

それは自身のSPを矢に変換し戦う職業だからだ。

矢に必要なSPは1%

 

約1分の自然回復で5%ほど回復する。

SP回復上昇系スキルを持っていればまた別だが、

それでも普通に戦っていてもそうそう矢を作成できなくなるなんて事はない。

だから、インベトリから矢を取り出したのが気になった。

インベトリからアイテムを出すというのは非常にリスキーだ。

スキルと違い、発動キーがなく、

自分でウィンドを立ち上げ、インベトリを押さなければならない。

その都合上、一度目線を相手から外す必要があるため、

余程のことがない限りインベトリは開かない。

それを僕が迫っている中、態々行ったこと、

本来必要としない矢を用意したこと、


(恐らく何か特別な矢なのだろう)



だから【ミーティアライン】をスキルを使って防ぐのはやめた。

杞憂かもしれないが、念のためだ。

アレは避けなければならない。

今使用している【聖なるオーラⅢ】で身体能力は向上している。

ギリギリ逃げられるかもしれんない―――――が。


「あえて使おうか。

 ちょうど盛り上がってきた所だからね」


僕は右目の瞼を強く閉じた。

これが魔眼スキルの発動キーとなっている。

それと合わせてもうひとつの方も発動しておこう。


口を大きく開け、息を吸い込む。

「魔眼っ! オーバーライドっ!!!」



大声で魔眼のスキル名を唱えた。


今纏っているスキル【聖なるオーラⅢ】には通常のバフ系スキルだが、

大吾君の手によって今新しい機能が追加されている。

それは大声を出すことによって発動する追加機能。

スキルに追加起動キーを仕込んだといわれた時は理解が出来なかった。

なぜそんなスキルが作れるのかまったくわからないが、

用は大声を出すことによって聖なるオーラのエフェクトが大きく広がる機能だ。

能力は変わらない。

見た目だけ。

――――でも僕向けだ。



(ピンチになった主人公が力を振り絞って技を繰り出す演出ってよくね?)

以前に比べ楽しそうに笑う大吾君を思い出す。



「ああ、僕もまったく同意だ!!」


そうして魔眼スキルを発動し、目の前の世界を置き去りにした。


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